ミキハウスは「越境EC」だけで約8億円、ワコールのネット事業は30億円規模
子供服メーカとして有名なミキハウスは、国内ECのみならず、「越境EC」だけで約8億円の売上があるという。同社の髙山 幸士氏は「いま我々は出産祝い向けのベビー用品に注力しており、会員獲得のためにオウンドメディアを立ち上げて、情報を提供しています。その結果、従来比で2倍ほど会員が増加しました」と最近の取り組みを紹介した。
一方、女性下着を中心にワールドワイドで展開するワコールの大薮 範子氏も「2000年から“ワコールウェブストア”の営業をスタートしました。さらに2006年からインナーウェア商品の扱いをはじめ、6年後にそれらの商品を大幅に拡大し、現在ではネット事業でも年商30億円規模に成長しています」と語る。
ファシリテーターは、ERPやECパッケージ販売で高い実績を持つワークスアプリケーションズの小嵜 秀信氏が務めた。小嵜氏は「両社における直販/一般流通商品のアイテム重視率と売上比率」について訊ねた。
ミキハウスでは、販路とブランドによって、商品アイテムを区別しているそうだ。
「たとえば百貨店では、比較的高価なブランドとして“ミキハウス”を、また赤ちゃん本舗やベビザラスの量販ルートでは、安価な“ホットビスケッツ”をブランドとして展開しています。直販と一般流通で差別化し、直販と一般流通の売上比率は6:1です。ただしECに関しては、あくまで実店舗のフォローというスタンスなので、全ブランドで商品を展開しています」(高山氏)
一方のワコールも、ECについては店頭販売と同じ商品を扱っている。「EC系でのアイテム重複率は98%以上で、EC自体の売上比率は全体の3.5%ほどになります」(大薮氏)。
では両社は、実店舗以外のネットでの施策として、どのように効果的なダイレクトマーケティングを実施しているのだろうか?
オウンドメディアは自社の資産 長期目線でLTV(Life Time Value)を考慮する
ミキハウスでは、冒頭で紹介した「出産準備サイト」を2011年からオウンドメディアとして立ち上げ、ネット系のニュース媒体各社などを通じて、関連商品の記事をPRしている。
「オウンドメディアは、目的と内容がすべてです。我々の場合は、百貨店に出産準備商品を置いても、お客様が商品をなかなか求めに来ません。そこでオウンドメディアのなかで、妊活・保活・産休などの体験を中心としたコンテンツを提供することで、幅広いお客様をカバーしています」(高山氏)
ワコールでは、Web、LINE、SNS、メールマガジン、サーチ、セミナーなど、マルチチャネルにわたって、マーケティング施策を打ってきた。オウンドメディアについても、積極的に進めたほうがよいという構えだ。
「広告は打ったら、それで終わりになってしまいます。しかしオウンドメディアの場合は、コンテンツ自体が企業の資産になります。広告で短期的に顧客を刈り取るよりも、LTV(Life Time Value)を考慮しながら、コンテンツをしっかりと提供すれば、お客様の購入の後押しをしてあげられるようになると思います。オウンドメディアはROI的に短期で考えるよりも、長期レンジでみたほうがよいでしょう」(大薮氏)
売上以外のKPIは? 「これからは『人』ベースで見たほうがよい」
次に小嵜氏は「メーカーにとって、売上以外で成果となるようなKPI(指標)はありますか?」と両氏に問いかけた。
ミキハウスは、売上以外の要素として、数値として捉えることは難しいものの、「口コミ」を重要な指標として捉えているという。
「口コミ自体を明確な数値として表せすことは難しいのですが、顧客同士の情報共有は大切であると感じています。そこで検索の流れやSNSの情報をこまめにチェックし、口コミを把握しています。また社員にも子育て世代の主婦層が多いため、そのネットワークを通じて情報を収集しています」(高山氏)
ワコールでは、売上以外の数値として会員の新規獲得数、メール開封率、Web滞在時間、直帰率、PV、アンケート調査、エンゲージメントなどをチェックしてきたが、これからは「人」ベースで見たほうがよいという考え方だ。
大薮氏は「たとえばサイトに再来訪してくれる人や、レビューに投稿してくれる人がどのくらいるのか、あるいはアンケートのフィードバックなども重要です。お客様に共感を呼ぶような質問をしているため、1回あたりのアンケートも7000ぐらいの数が集まり、とても参考になっています」と打ち明ける。
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