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- 2017/07/26 掲載
iPhoneも入国審査も「顔認証」、技術トップの日本がこのままでは中国に敗北する理由
iPhoneや出入国審査など採用事例が増える「顔認証」
その前週の7月4日、法務省は2018年度に成田、羽田、中部、関西の4国際空港で、日本人の出入国審査の際の「顔認証システム」と、本人確認ができれば開く自動ゲートの本格運用を目指す方針を明らかにした。羽田空港国際線ターミナルの入国審査場では今年10月中旬から3台、先行導入する予定だ。
太古の昔からある「顔パス」は、たとえば企業なら受付係や警備員が、やってきた人の顔を見て「会長だ」「社長だ」と判断し、笑顔で挨拶してセキュリティゲートを通過させる。人間の能力には限界があるので、顔パスを利用できるのは数人から多くても十数人程度に限られる。
それに対し「顔認証」は、人間の代わりにシステムが、あらかじめ撮影するなり、写真を提出させるなりして登録しておいた人の顔のデータと、いま通過を求めている人の顔を照合し、本人かどうかを判定する。システムは何千人でも何万人でも登録できるので、初出社の新入社員でも顔パス同然にセキュリティゲートを通過できる。
顔認証のシステムは、あくまでも事前に登録した顔のデータで本人かどうかを特定、識別するもの。人ごみの中でも、高速かつ正確に認証できるシステムに求められる要件は、監視カメラに映る人間の顔の表情や動作で「怪しい人物」を抽出したり、通行人・来店者分析を行うシステムとはやや別物となる。
顔認証は「生体認証(バイオメトリックス)」の一種である。生体認証には、銀行のATMのほか、アップルの「iPhone」が2013年から採用した指紋認証、サムスンのスマホ「Galaxy」が今年、ロック解除に初採用した目の虹彩認証、手のひら認証(静脈認証)、声による音声認証、DNA認証などがあるが、顔認証はその中でも精度が高い部類に入る。
今年、アメリカの国立標準技術研究所(NIST)が実施した精度評価コンテストで最高点をマークしたNECのシステムの誤検知率は0.8%だった。これは歩く人の動画でテストしているので、空港の入国審査ブースで立ち止まった画像なら誤検知率はもっと下がる。人の目なら「他人のそら似」で通してしまいそうなケースも阻止できる。親でも間違える一卵性双生児でも、顔写真を引き伸ばしてお面のようにかぶっても、本物そっくりにメーキャップしても、見破れるという。
日本政府発行のパスポートに組み込まれているICカードのようなスマートカードと組み合わせれば、精度はさらに高まる。また、虹彩認証ができない視覚障がい者、指紋認証ができない手指を失った身体障がい者でも本人確認ができるという利点もある。
世界でも国内でも「顔認証」の市場は急拡大
この顔認証は、世界でも国内でもいま、まさに成長軌道に乗ろうとしている。アメリカのMarketsand marketsによると、生体認証全体の世界市場は2015年の段階で107億ドルと推計され、それが2022年には327億ドルに達すると予測されている。7年で市場は3.05倍に拡大し、年平均成長率は16%台と見込む。同調査では、スマホへの導入や、軍事部門での採用など政府の政策支援、金融機関、ヘルスケア部門での利用が成長のドライバーになると述べている。
Marketsand marketsは2016年11月、顔認証技術の世界市場予測も同時に公表している。その世界市場は2016年の段階で33億ドルと推計され、それが2021年には68億ドルに達すると予測されている。5年で市場は2.06倍に拡大し、年平均成長率は15.3%と見込まれている。
日本国内での顔認証の成長性については、2017年2月に富士経済が発表した調査レポート「2016 セキュリティ関連市場の将来展望」の中で、2015年に4億円だった市場規模は2016年には2倍の8億円になると見込み、2019年には17億円に達すると予測している。4年で市場は約4.3倍に急拡大するという計算だ。
富士経済によれば、2020年の東京オリンピックを控えて空港、ホテル、商業施設などで顔認証システムの需要が拡大し、自治体でも個人が顔写真を登録するマイナンバー制度が普及すれば、顔認証の利用が増えていくだろうという。
【次ページ】相次ぐ採用、ロボットと組み合わせると相乗効果も
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