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  • 2018/07/30 掲載

海外子会社はどう管理すればいい? なぜ「不正の温床」になるのか

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2017年2月、東芝は7000億円以上もの特別損失を発表した。この巨額損失の原因をつくったのが、同社米子会社のウェスティングハウス社である。海外進出している日本企業が増えているが、実際は現地のリスクを十分に把握できていないケースも多く、不正経理による横領、パワハラ・セクハラ・不当解雇などは大きな問題になっている。もちろん、リスクを恐れていてはリターンを得られない。リスクをどう許容し、どう転嫁していくのか。チューリッヒ保険会社 企業保険事業本部本部長の大谷和久氏に海外子会社管理の勘所を聞いた。

執筆:中村仁美、聞き手・構成:編集部 松尾慎司

執筆:中村仁美、聞き手・構成:編集部 松尾慎司

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チューリッヒ保険会社 企業保険事業本部本部長 大谷和久氏

経営の根幹を揺るがす海外子会社のリスク

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 東芝が2017年度の決算で約7,000億円以上もの損失を出した背景に、米国の子会社(当時)ウェスティングハウス(WH)社による巨額減損があるのはご存じの通り。端的に言えば、海外子会社のガバナンスが十分ではなかったことが、東芝本体の経営を揺さぶる事態となった。

 東芝のように巨額ではないものの、海外子会社や海外拠点にまつわるリスクは数多く報じられている。たとえば建設機械大手のコマツは2015年、同社米州調達センター所長を務めていた元幹部が出張旅費の架空請求をしていたとして逮捕された。その不正請求の総額は4億円弱にものぼる。

 なぜ、このような事案が発生するのか。チューリッヒ保険会社 企業保険事業本部本部長の大谷和久氏は、その最大の要因を「日本企業にはリスクマネジャー、またはリスクオフィサー(CRO:Chief Risk Officer)がいないため」と断じる。

 リスクマネジャーとは日本国内はもちろん、海外子会社を含めたグループ会社すべてのリスクマネジメントに対して責任を負う役職で、欧米企業の場合、ある程度の企業規模の会社の多くが設置しているという。こうしたリスクマネジャーには高い権限も付与されており、CEOやCFOにも直接提言、提案できる。

 一口にリスクと言ってもその概念は幅が広い。物的なリスクもあれば、ビジネスリスク、法的リスクなどさまざまある。

 これらのリスクのうち、まずは自社および業務範囲に関係するリスクを把握するとともに、次にそれらのリスクがどこまでなら許容できるレベルなのかを明らかにする。

 そして、許容できないレベルなら、リスクを転嫁したり、転嫁できないのであればリスクそのものがなくなるよう、そのビジネスから撤退するなど、判断基準を設けて経営の意思決定をサポートする。

 しかし、日本ではそういったリスクマネジャーやグローバルなリスクを管理する部門を設置してこなかったため、「海外子会社のリスクマネジメントは海外子会社任せになっているのが一般的」と大谷氏は指摘する。またリスクマネジャーがいたとしても、十分な権限が与えられていない場合も多いという。

海外子会社で起きる不正の事例

 では具体的に海外子会社で考えられるリスクにはどのようなものがあるのか。大谷氏がまず挙げたのは「製造業など海外工場ラインの事故に起因する休業損失」リスクだ。

「たとえば海外工場に火災が発生して、製造ラインが止まってしまうと、休業損失が発生します。子会社がその休業損失を補填する保険を契約していればよいですが、契約していなければ純粋な損失になってしまいます」(大谷氏)

 火災を出した工場だけの損失に収まればよいが、たとえば中国の工場で作った部品をタイで組み立てて完成品にし、日本からアメリカに輸出するというようなグループ内で商品供給しているようなケースだとさらにリスクが拡大する。

 中国の子会社の損失に加え、タイでもラインが止まってしまうからだ。さらに日本からの輸出ができなくなるため、日本の販売もストップしてしまう。「こういうリスクは海外子会社任せにしている場合、カバーできない」(大谷氏)

 次に挙げられるのが、マネジメント・ライアビリティ、つまり会社経営に係わる賠償責任に関するリスクだ。これにも種類がいくつかある。たとえば海外子会社の役員の不正・犯罪行為もその一つ。

「子会社社員の不正により大きな損失が発生すると、その損失は連結対象の親会社にも及び、親会社の役員はガバナンスを問われ、賠償責任にもつながってしまう。もちろん、海外子会社に不正が発生してもリスクをきちんと転嫁できていれば、実質的な損失は発生せず、親会社の役員に対するライアビリティは問われることはない」(大谷氏)

 特に増えている犯罪が長期にわたる着服だ。というのも、海外子会社の場合、どうしても同じ人が長期にわたって要職を務めてしまうケースがある。

「社長が変わっても現地に詳しい財務担当は変わらないといったことはよくある話。しかし、現地の中間管理職が不正に走るケースを親会社が見抜くことは困難だ」(大谷氏)

 個人が着服するケースもあれば、外部の第三者と組み、架空伝票をつくって売上を着服するケースもあるという。

【次ページ】中国では保険金が支払われない?国ごとに異なる法規制

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