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- 2019/02/06 掲載
通信業界の世界ランキング:5G導入でどうなる?土管化業者からの「逆襲」
“つながって当然”だから起きた「土管化」という悲劇
しかし、無線技術の発展により、移動しながら通信できるようになり、携帯電話が登場した。通信事業者は通信の品質を向上させるため、携帯電話のつながらない土地を減らし、回線容量や速度を上げることに心血を注いできた。
こうして通信サービスは「あってあたりまえ」のものとなった。だが、それゆえ通信事業者は顧客の値下げ圧力にさらされている。実際に最近、日本政府が通信各社に値下げの要望を出したことは記憶に新しいだろう。S&P 500のような指標を見ても、ほかの技術分野の成長に比べて通信の成長の鈍化ぶりは顕著である。
携帯電話はもともと、移動しながら音声通信ができることが売りの道具だったが、いまではほとんどデータ通信のために使われている。こうした中、動画視聴サービスやゲーム、SNSなどの魅力的なサービスを提供する通信事業者が出てきた。
エンターテインメント系企業もこうした携帯電話上のサービスに参入しはじめた。通信事業者はそのまま何もしないでいると、回線を敷設し、保守するだけの存在になってしまう。こうした状況は「土管化」と呼ばれ、通信事業者たちに恐れられている。そこで通信各社は、豊富な資金力を使って、魅力的なサービスの提供者を買収するなど、ほかの事業への進出を強めようとしている。
世界ランキング1位から10位まで一挙紹介
通信事業は元来、新規参入障壁が高い。通信設備を整備するための初期投資が大きいからである。したがって、「競争自由化」「携帯電話事業での競争」といったよほどのことがなければこれまで市場の独占が覆されることはまずなかった。しかし、米国、中国、日本でも、固定電話の時代から市場を支配していた企業(AT&T、China Telecom、 NTT)と携帯電話の時代からスタートした会社(Verizon、 China Mobile、 SoftBank)が戦う時代が到来した。
では、こうして進化してきた通信業界が今どうなっているのか。世界ランキングを見てみよう。
■第1位:AT&T
第一位は、米国のAT&Tである。社名はAmerican Telephone & Telegraph Companyの略。社名にテレグラフがっていることからもその歴史の古さが伺える。もともとは電話の発明者であるグラハム・ベルが立ち上げた、ベル電話会社の1つの子会社だった。その後も独禁法などにより解体・分割を受け、結局子会社が本体を買収している。
AT&Tは、近年エンターテインメント事業への投資を行っている。これまでもDirecTVというケーブル・衛星テレビの会社を買収・保有していたが、今年6月にもTime Warnerを買収し、今後は報道・映画製作などのコンテンツ制作能力も保有することになった。他にも、AppNexusというインターネット広告会社の雄を買収し、着実に「土管」状態からはい出そうとしている。
AT&Tは携帯電話以外を無線通信網に接続することにも早くから目を向けており、IoTの研究所を2008年に設立しているし、2014年にはコネクテッドカー(インターネットにつながれた車。自動運転の前提となる)の研究施設もつくっている。特に自動車会社の多くは車の使用する回線にAT&Tを選んでいるし、海運大手のMaersklineは保有する冷凍コンテナ約30万台のすべてをAT&Tの回線につないでいる。
■第2位:Verizon
ベル電話会社が独禁法で分割されたときにできたもう1つの巨人がVerizonである(現存するベルの分割会社はあと1つあり、US West社となっている)。携帯電話事業では米国で最も多くの利用者を抱えている。
同社は米国で最大の4G LTE網を誇り、世界で初めて5Gネットワークの提供を開始した。AT&Tに比べれば保守的であるが、インターネット企業であるAOLやYahoo!を買収し、動画のストリーミングサービスと組み合わせようとするなど、こちらも土管化脱却への足取りを見せている。
また、Verizonは世界有数のインターネットネットワークを持ち、企業や政府機関などにも専用線によるクラウド通信を提供している。セキュリティの提供に力を入れる企業としても知られ、年1回発行されるサイバー犯罪やデータ漏えいの報告書はよく知られている。
■第3位:China Mobile
China Mobile(中国移动)は、中国郵電電信総局という国営企業を前身とし、1997年に設立された移動体通信事業会社だ。世界一の携帯契約者数を誇り、その数は約9億人(2017年末現在)にのぼる。事業としては、モバイル、有線ブロードバンド、IoTが3本の柱となっており、モバイルは成長が鈍化しているものの、ほかの領域では順調な成長を遂げている。潤沢な資金を背景に、どのような戦略をとっていくのかが注目される。
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