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- 2019/06/06 掲載
「V字回復へ手応え」、老舗アパレルが“業界最速”で意思決定できるワケ
「デジタル強化」で挑む、三陽商会の起死回生
前編はこちら(※この記事は後編です)
障壁を乗り越える「最速の意思決定」を実践
前編では、ツールなどにより得られたデータをヒントに、スタッフが改善策を考案する「人とデジタルの連携」を重視することが、三陽商会の掲げる「デジタルトランスフォーメーションの推進」の特徴だと紹介した。これは「三陽商会のDXは人=社員が主体となって推進していく」ことを意味する。三陽商会のように歴史ある企業がDXを進める場合、既存のやり方からの転向がスムーズではない場合も多いはずだ。
これを解消するには、単にデジタルツールを導入するだけでなく、実際に現場のスタッフに使ってもらい、「デジタルツールを活用すれば、自分の成果も上がる」ことを理解してもらうことが重要だが、実はこの過程は困難を伴うのも事実だ。
慎氏が三陽商会に入社したのは、2018年9月だ。同氏はそれまで「外部コンサルタント」として同社に協力していた。外部の立場から、入社後2019年1月には社長直下で「デジタル戦略全般を統括する権限を持つ」立場に着任したのだ。
そこで、上述したような障壁を乗り越えるべく、慎氏は着任直後から「業界で最も早い意思決定スピード」を掲げ、三陽商会の社内改革と成長戦略を実践していった。
デジタル強化に伴う新しい技術の導入にあたっては、まず十分な投資を確保。それまで投資比率1.7%にすぎなかったデジタル関連投資は、慎氏が参画した2018年下半期予算では2.5%にまで増加。将来は3%を確保したいという。
「売り上げが縮小していく場合、コストをなんとか抑えたいと考える。しかし、コスト削減の対象となるのは、販管費やデジタル関連投資、設備投資などで、これらを縮小すると成長できない悪循環に陥ってしまう。そこで、デジタル、マーケティング、売場に投資をしないといけないと考えた」(慎氏)
現場とともに汗をかき、管理職の奮起を促す
次に、DXの推進で心がけたのが、「全社一斉推進」ではなく「早期に成果を出せる部署優先」で実施することだ。店舗など、関連するスタッフの人数が多いところでは、リーダーの意欲が高いブランド店舗に絞った。そこで成果が出れば、全店舗へ水平展開が容易に進むからだ。一方、AIなど、少数のスタッフしか利用しない技術も優先して導入を進めた。
そこで心がけているのが「トップ自ら、現場とともに動く」ことだ。
「一般企業がトップダウンでデジタル強化施策を打ち出しても、現場には受け入れられないことが多い。なぜなら、現場には『トップは口だけで実際には作業しないでしょ』との反発があるから。しかし、経営トップが現場とともに動けば、施策を実現するためにどの人材を動かせばいいのかも把握できる」(慎氏)
慎氏は「状況を変えたいと考えている部長職の中で、デジタルツールを導入すると改善すると理解できた部署からDXに着手した」と述べる。
もちろん、デジタルツールの導入に消極的な人材、部署もある。「そういう部署には、私が直接支援して導入を進めていくことで、成果につなげていくことを伝えている」という。
こうして、慎氏は「導入に消極的な部門」に対しては、個人との対話を通じて、デジタルツールの導入を進めていったのである。
【次ページ】「全体の40%」を熱くすれば組織をドライブできる
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