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  • 2019/05/21 掲載

移行後も「税収の奪い合い」、ふるさと納税はどうあるべきか

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ふるさと納税が6月から新制度に生まれ変わる。返礼品競争の過熱から総務省の指導に従わず、制度の趣旨を逸脱した高額返礼品を続ける地方自治体が相次いだためで、総務省は大阪府泉佐野市など4市町を新制度の指定から外した。新制度は4市町と参加を辞退した東京都を除く1,783自治体でスタートするが、移行後も形を変えて税収の奪い合いが続きそうな見通し。近畿大短期大学部の鈴木善充准教授(財政学)は「今後、税制としては所得税の寄付金控除の形に近づけていくべきでないか」と提言している。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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ふるさと納税の新制度に関する説明会に出席する各都道府県の担当者ら。
総務省は大阪府泉佐野市など4市町の参加を認めない判断を示した
(写真:読売新聞/アフロ)


総務省の決定に泉佐野市など反発の色

 「法治国家としてあってはならない権限の乱用ではないか。総務省に除外された根拠を問う質問状を送る」。新制度から外れることが正式に決まったのを受け、緊急記者会見した泉佐野市の八島弘之副市長は、総務省に対する怒りを隠さなかった。

ふるさと納税新制度対象外となる4自治体
自治体名2018年度寄付額総務省が問題とする返礼品
大阪府泉佐野市約497億円アマゾンギフト券、肉など
静岡県小山町約250億円アマゾン、JCBギフト券など
和歌山県高野町約196億円JTB旅行券など
佐賀県みやき町約168億円電化製品、ギフト券など
(出典:総務省資料、各自治体発表などから筆者作成)

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 指定を外されたのは、泉佐野市のほか、静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町。3町も記者会見やコメント発表でそれぞれの見解を明らかにしたが、高野町の平野嘉也町長が「丁寧な議論もなく、こうした事態になるのは残念」と述べるなど、言葉の端々に不満の色がうかがえた。

 ふるさと納税は総務省が再三、過度な返礼品の自粛を要請し、2年前から通知で基準を示してきたにもかかわらず、これに従わない自治体が相次いだ。このため、地方税法が改正され、6月から新制度に移行する。

 改正地方税法では、返礼品は地場産品に限定され、調達費は寄付額の30%以下に設定された。新制度に加わるには総務省の指定が必要で、指定から外れた自治体に寄付しても税制優遇を受けられない。これまでは自治体ならどこでも制度を利用できたが、事実上の許可制になるわけだ。

 新制度には東京都を除く全自治体が申請した。総務省は返礼品見直しの期限とした2018年11月から3月末までの状況を考慮し、この間に高額返礼品などで50億円以上の寄付を集めた泉佐野市など4市町を指定から外した。この4市町は3月、財政力に余裕があるとして総務省から特別交付税の減額措置を受けている。

 さらに、同じような手法で2億円以上の寄付を集めた福岡県直方市、北海道森町、福島県中島村など43市町村については、9月までの4か月限定で参加を認めることにした。その後は新制度での取り組みをみて判断する。

 総務省の姿勢について自治体の間で「地方の自主性を尊重する国の方針に反する」との声があるほか、「あいまいな制度設計が過度な返礼品が相次ぐ事態を招いた」と指摘する声も出ている。

 これに対し、石田真敏総務相は「2年前から手続きを踏んで要請してきたが、(4市町の)理解を得られなかった」、菅義偉官房長官は「(今回の措置は)やむを得ない。今後は各自治体で知恵を絞り、健全な競争が行われることを期待する」と記者会見で述べた。

ふるさと納税が税収に代わる財源に

 ふるさと納税は2008年度の税制改正で創設された。居住地以外の応援したい自治体に寄付ができ、税控除を受けられる制度で、人口が集中する大都市圏と地方の税収格差を緩和する狙いがある。当初、返礼品は想定されていなかったが、高級肉や魚介類など特産品を返礼品とする自治体が出現し、爆発的に寄付を集め始めた。

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新制度移行を前に混乱が続くふるさと納税
(写真:筆者撮影)

 しかし、すべての自治体が魅力的な地場産品を持つわけではない。特産品に肉や魚介類がない自治体の一部は地場産品以外に目を向け、金券や家電製品などを返礼品に加えた。寄付金に対する還元率も上昇を続け、返礼品競争は過熱する一方。やがてふるさと納税がネットショップのように変わっていった。

 総務省は行き過ぎた返礼品を見つけるたびに是正を求めてきたが、一部の自治体は聞く耳を持たなかった。人口減少や経済の低迷でほとんどの自治体が財源不足に苦しんでいるだけに、税収に代わる財源としてふるさと納税が魅力的に映ったからだ。

 指定を外れた4市町では2018年度、旅行券や通販大手アマゾンのギフト券を返礼品に加え、泉佐野市が497億円、小山町が250億円、高野町が196億円、みやき町が168億円を集めた。いずれも市町の年間予算を上回るか、匹敵する額になる。

 泉佐野市は関西空港への投資がたたり、財政破綻寸前に追い込まれていたが、ふるさと納税の収入もあり、持ちこたえてきた。他の3町もスマート農業推進や子育て支援に充て、成果を上げている。しかし、他の自治体からすると高額返礼品で税収を奪われた形だ。

【次ページ】今も尾を引く新制度移行の混乱、新ふるさと納税のポイント

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