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  • 2020/09/09 掲載

消える地方の百貨店、なぜ自治体は“また”百貨店誘致に走るのか

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地方都市の駅前や中心市街地でにぎわいを作ってきた百貨店が相次いで撤退する中、地方自治体の多くが跡地に別の百貨店誘致を目指して駆けずり回っている。地方の百貨店はインターネット通販の普及や若者の百貨店離れ、地域の人口減少などで新型コロナウイルスの感染拡大前から危機的状況に陥っているのに、昔のままの手法で中心市街地活性化に取り組もうとしているわけだ。会津大短期大学部の青木孝弘准教授(社会的企業論)は「従来の取り組みは今の時代にそぐわない。自治体はアフターコロナの地方経済を再生する戦略的なシナリオを描けていないのではないか」と指摘する。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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従業員が深々と頭を下げる中、閉店のシャッターが下りる徳島市のそごう徳島店
(写真:筆者撮影)

そごう徳島店は顧客減少で37年の歴史に幕

 8月末、徳島県徳島市寺島本町西のそごう徳島店2階の正面玄関。午後7時半の閉店時刻になると、従業員代表の8人が深々と頭を下げる中、シャッターがゆっくりと下り始める。2分後、シャッターが閉じ、そごう徳島店は37年の歴史に幕を閉じた。

 新型コロナの感染拡大防止のため、お別れのセレモニーはなかった。それでも閉店時刻には正面玄関前広場を数百人の常連客が埋め、「ありがとう」の声を上げていた。30年以上そごう徳島店で買い物してきた徳島県北島町北村の主婦(56)は「青春の思い出がそごうに詰まっている」とハンカチで目頭を押さえながら、話してくれた。

 そごう徳島店は1983年、旧そごうグループの徳島そごうとして開店した。売り場面積は約2万7000平方メートル。四国最大の百貨店としてJR徳島駅前にある商業施設アミコの核店舗となり、駅前のにぎわいを形成してきた。

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JR徳島駅前のランドマークとなってきたそごう徳島店。営業最終日は大勢の客が詰め掛けた
(写真:筆者撮影)

 そごう徳島店の登場で丸新百貨店、つぼみや百貨店という地場百貨店2社が閉店に追い込まれ、約600メートル離れた中心商店街の東新町が閑散となる事態を招いたが、ピーク時の1993年2月期には売上高444億円を上げ、館内は足の踏み場もないほどの人であふれていた。


 しかし、1998年の明石海峡大橋開通で京阪神へ買い物客が流出したほか、郊外にショッピングセンターの進出が相次ぎ、競争が激化した。最近はインターネット通販の普及にも押され、2020年2月期の売上高はピーク時の72%減に当たる124億円まで落ち込んでいた。

徳島市は大手百貨店に出店を打診

 そごう徳島店が閉店した8月末は、全国で百貨店の閉店ラッシュとなった。福島県福島市栄町で146年の歴史を持つ中合福島店、愛知県岡崎市戸崎町で西武岡崎店、滋賀県大津市におの浜で西武大津店、神戸市西区糀台でそごう西神店が歴史を閉じた。

 その結果、1月に大沼山形本店が閉店した山形県に続いて徳島県が百貨店ゼロ県になったほか、都道府県庁所在地の百貨店ゼロも山形県山形市、徳島県徳島市、滋賀県大津市と3市を数えることになった。

 8月末に閉店した百貨店はイオンモールに出店した西武岡崎店を除いて駅前や中心市街地に立地し、核店舗の役割を果たしてきた。しかし、中心市街地の商業はインターネット通販や郊外型ショッピングセンターに押され、活気を失っている。

 徳島市とアミコを管理する市の第3セクター・徳島都市開発は、そごう徳島店の閉店が決まった2019年から後継店の確保に動いた。大手百貨店に出店を打診したが、すべて断られたため、サテライト店に関心を示した百貨店に2回メインフロアへの出店を要請中だ。

 徳島都市開発の鈴江祥宏社長は8月末に記者会見し、具体的な百貨店名は明らかにしなかったものの、「確実に交渉は前進している」と述べた。

 大津市は西武大津店があったJR膳所駅周辺を都市計画マスタープランで中心商業地域と位置づけている。このため、施設を所有するマンション大手の長谷工コーポレーションに商業施設としての存続を申し入れたが、長谷工はマンションを建設する計画だ。

 大津市商工労働政策課は「地元住民の要望もあり、商業施設を存続させたかったが、こうなっては別の策を探るしかない」と肩を落とす。

【次ページ】地方の百貨店業界は縮小の一途

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