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- 2020/09/15 掲載
“たたき上げ”の菅氏が自民党新総裁に、世襲政治に風穴を開けられるか
無派閥だが、官房長官として手腕を発揮
「秋田県の農家の長男に生まれ、地縁血縁のない中、ゼロからスタートした。安倍政権の取り組みを継承し、働く内閣を作っていきたい」。新総裁に選ばれた菅氏は当選あいさつで自らの過去に触れながら、決意を語った。自民党総裁選は国会議員394票、地方141票の合計535票で争われた。菅氏は全体の7割を超す377票を集め、2位の岸田氏89票、3位の石破氏68票を大きく引き離して当選した。
菅氏は1948年、秋田県秋ノ宮村(後の雄勝町、現湯沢市)に生まれた。父はイチゴ栽培で成功し、雄勝町議会議員も務めていた。菅氏は高校卒業後、東京へ行けば何かが変わると信じて上京し、町工場に就職したが、秋田時代と変わらぬ日々を過ごし、現実の厳しさを痛感したという。工場をやめてアルバイトで学費を貯め、法政大に進学した。
卒業後は民間企業に就職したものの、政治家を志して元通産相の小此木彦三郎衆院議員の秘書になった。1987年に地縁も血縁もない横浜市議会議員選挙に出馬して初当選、2期務めたあと、1996年に自民党公認で神奈川2区から衆院選に立候補して当選した。
衆院議員になってからは、平成研究会(現竹下派)、宏池会(現岸田派)と派閥を渡り歩いて無派閥に。安倍首相に実力を認められ、第1次安倍政権で総務相、第2次安倍政権で官房長官を務めた。総務相時代はふるさと納税を提唱、官房長官としては内閣人事局を設置して官僚を掌握するなど官邸に絶大な力を集め、実務を取り仕切ってきた。
身内から地盤を譲られ、若くして国会議員になった世襲議員が多い自民党では、久々に登場したたたき上げの実力者。秋田県の佐竹敬久知事は記者会見で「同郷のよしみもあるが、要望をゆっくり聞いてくれる人情家で、地方行政に詳しい」と評価した。
ただ、安倍政権の官房長官時代は官僚やマスコミににらみを利かせる一方、裏方として汚れ役もこなしてきた。徳島県選出の自民党国会議員は「実務に秀でた人物だが、目標達成のためには手段を選ばず、冷徹な一面もある」と述べた。
21世紀の自民党出身首相は全員が世襲
菅氏が自民党内で異彩を放つのは世襲議員でないことだ。今回の総裁選で菅氏と争った岸田氏は祖父が元衆院議長、父が衆院議員。石破氏は父が鳥取県知事から参議院議員、自治相を歴任している。時事通信社が2017年の衆院選に立候補した自民党候補を調べたところ、332人の候補者のうち94人が三親等以内の親族に国会議員がいて、同一選挙区から立候補した世襲議員だった。前回を2.4ポイント上回る28.3%を占めている。安倍政権の閣僚も内閣改造で多少増減があったものの、おおむね半数程度が世襲議員となる。
首相経験者となると、21世紀になって就任した自民党出身者は安倍晋三首相をはじめ、全員が世襲議員。党内7派のうち、岸田派の岸田氏、石破派の石破氏以外の派閥の領袖(りょうしゅう)では、麻生派の麻生太郎氏、細田派の細田博之氏、石原派の石原伸晃氏は父、竹下派の竹下亘氏は兄が衆院議員を務めていた。
1990年代以降に就任した自民党出身の首相(太字は世襲議員) | ||
氏名 | 首相就任年月 | 親族の政治歴 |
宮澤喜一氏 | 1991年11月 | 母方の祖父が衆議院議員、鉄道相、父が衆議院議員 |
橋本龍太郎氏 | 1996年1月 | 父が衆議院議員、文部相、厚生相、行政管理庁長官 |
小渕恵三氏 | 1998年7月 | 父が衆議院議員 |
森喜朗氏 | 2000年4月 | 祖父が石川県旧根上村長、父が石川県旧根上町長 |
小泉純一郎氏 | 2001年4月 | 祖父が衆議院副議長、父が衆議院議員、防衛庁長官 |
安倍晋三氏 | 2006年9月 2012年12月 |
父方の祖父が衆議院議員、父が衆議院議員、外相、 母方の祖父が衆議院議員、首相、大叔父が衆議院議員、首相 |
福田康夫氏 | 2007年9月 | 父が衆議院議員、首相、叔父が参議院議員 |
麻生太郎氏 | 2008年9月 | 母方の祖父が衆議院議員、首相、父が衆議院議員 |
(出典:自民党、各議員事務所公式サイトなどから筆者作成) |
二階派の二階俊博氏は世襲議員に該当しないが、父が元和歌山県議会議員で、政治家一家の出身だ。父が地方議員を務めた自民党国会議員は、東京都選出の菅原一秀氏、福井県選出の山本拓氏、徳島県選出の山口俊一氏ら数多い。菅氏もその1人に数えられる。
ただ、地方議員の親族を持つ政治家は国政選挙に立候補した際、自分の力で選挙に勝利した部分が大きい。同じ政治家一家といっても、地盤(選挙区内の支持者組織)、看板(知名度)、かばん(選挙資金)の三バンをそっくり譲渡された世襲議員とは異なる。
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