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  • 2019/11/20 掲載

4町村が「出生数ゼロ」、赤ちゃんが“1人も産まれない”自治体の未来とは…

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2018年1年間に出生数ゼロだった地方自治体が奈良県野迫川村など4町村に上ることが、総務省のまとめで分かった。東京一極集中に歯止めがかからないうえ、出産期の女性減少で出生数が減少していることが背景に見える。政府は東京圏(東京都と埼玉、千葉、神奈川3県)の転入超過を解消する目標達成を2024年度に先送りする方向で調整を始めたが、明治大政治経済学部の加藤久和教授(人口経済学)は「東京圏への人口移動が拡大傾向にあり、目標を先送りしても達成は難しいのではないか」とみている。地方消滅への足音が一段と高くなってきた。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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山に囲まれた谷間に民家が並ぶ野迫川村北股地区の集落。2018年はついに村全体で1人の出生もなかった
(写真:筆者撮影)

野迫川村は人口減少で存続が危ぶまれる状況に

 谷川沿いのわずかな平地に民家が点在する。しかし、その多くが空き家で、村役場前の県道を通る車もわずかしかない。紀伊山地に抱かれた奈良県南部の野迫川(のせがわ)村は、10月現在の推計人口が約360人。2019年1月1日現在の推計人口が離島を除いて全国で最も少なく、2018年に出生ゼロだった自治体の1つだ。

 高野山の南に位置し、雲海と吉野杉で知られる山村だが、スーパーやコンビニはない。村外へ通じる公共交通は和歌山県高野町にある南海電鉄鋼索線の高野山駅を結ぶ1日2往復の民間路線バスと、奈良県五條市へ向かう村営バスしかない。

 村の人口は2015年から2017年の3年間で13.4%も減り、全国一の減少率となった。15歳未満の年少人口は5%ほどなのに対し、75歳以上の後期高齢者が3分の1を超えている。もはや自治体としての存続が危ぶまれる状態だ。

 村は2016年、地方創生に向けた総合戦略で観光交流人口の拡大や移住促進、新産業の創出などを掲げたが、思うような成果を上げられなかった。高野山で増えている外国人観光客も、公共交通の貧弱な野迫川村になかなか足を延ばさない。

 そんな苦境を克服しようと、移住・定住促進施設の「ぶなの森」が9月、北今西地区でオープンした。廃校となった北今西小学校の校舎を活用した施設で、野迫川村総務課は「この施設を拠点に関係人口を増やし、移住者を探したい」と期待をかける。

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9月から移住者の受け入れに向けて活動を始めた野迫川村移住・定住促進施設の「ぶなの森」
(写真:筆者撮影)

 運営するのは地域住民で組織するNPO法人の結の森倶楽部。代表の鈴木信義さん(61)は25年以上、村の小学校で教員を務めてきた。人口減少と高齢化が進行する現状に危機感を抱き、移住者獲得の窓口として動いている。

 「移住者が来なければ、本当に村が消滅してしまう。何もない村だが、美しい自然をアピールしたい」と鈴木さん。今後、施設の見学者や住民が集うカフェを開くほか、施設で年に1回程度イベントを開催して地域を盛り上げることを計画している。



出生数1人が6町村、2人が8町村

 総務省によると、2018年1年間に1人の出生もなかった自治体は野迫川村のほか、東京都青ヶ島村、山梨県早川町、和歌山県北山村の4町村。人口100~1100人の小規模自治体ばかりだが、前年の調査で出生数ゼロの自治体がなかっただけに、人口減少と少子高齢化の影響が数字になって表れたとの見方もできる。

 出生が1人だけだったのは、長野県平谷村、京都府笠置町、奈良県東吉野村など6町村。北海道神恵内村、群馬県神流町、山梨県丹波山村、長野県王滝村など8町村は、わずか2人の出生しかなかった。出生数3人は宮城県七ヶ宿町、奈良県黒滝村、徳島県上勝町、熊本県産山村など9町村だった。

2018年の出生数が少ない自治体
出生数 自治体
0人 東京都青ヶ島村、山梨県早川町、奈良県野迫川村、和歌山県北山村
1人 山梨県小菅村、長野県平谷村、京都府笠置町、奈良県御杖村、上北山村、東吉野村
2人 北海道神恵内村、群馬県神流町、南牧村、山梨県丹波山村、長野県南相木村、根羽村、売木村、王滝村
3人 宮城県七ヶ宿町、福島県川内村、東京都利島村、新潟県粟島浦村、奈良県黒滝村、徳島県上勝町、高知県三原村、熊本県産山村、沖縄県渡名喜村
(出典:総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態および世帯数(2019年1月1日現在))

 いずれも離島か、秘境といえる山村で、近畿地方の南部と甲信地方に多い。徳島県上勝町のように過疎対策に早くから取り組んできた自治体もあるが、若い移住者の獲得で対策が遅れ、苦戦しているところが目立つ。

 同じ離島や山村でも島根県海士町や岡山県西粟倉村は移住者の出産が増え、2桁の出生数を確保している。人口約400人の高知県大川村も移住希望の若者に人気で、出生数を前年の1人から6人に増やした。出生数3人未満の自治体は移住者獲得の勝ち組と明暗を分けた格好だ。

 野迫川村などの事例は決して特殊な例ではない。和歌山県は10月1日現在の推計人口が92万3721人。出生数減少が響き、1年間で1万330人減った。人口が解けてなくなりつつあるような状態で、年間出生数ゼロの自治体は今後、さらに広がるとみられる。

【次ページ】2018年全国出生数は“過去最少”に。東京一極集中はいまだに歯止めかからず

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