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- 2022/07/05 掲載
「交通税」はどんな制度? 導入国はどう運用? “効果絶大”なフランスの実態とは
連載:MaaS時代の明日の都市
滋賀県が「交通税」を議論する深刻事情
交通税。多くの読者にとって初めて目にする言葉だろう。2022年4月に滋賀県が導入検討していることを公表したことで初めて聞いた人もいるかもしれない。簡潔に表現すると、交通税とは地域の公共交通機関(バスや鉄道など)の維持を目的とした税といえる。まずは、滋賀県がなぜ「交通税」の導入検討に至ったのかをたどってみる。滋賀県にはJR東海の東海道新幹線のほか、JR西日本、京阪電気鉄道、近江鉄道、信楽高原鉄道という鉄道路線があり、バスについては10社近くが運行している。このうち西武鉄道グループに所属し、鉄道、バス、タクシー、旅客船などを運行している近江鉄道が2018年12月、鉄道事業の単独継続が難しいとして、沿線自治体に支援を求めたことがストーリーの発端だ。
同社の鉄道部門は、1967年度には1126万人を記録していた利用者数が、2002年度には369万人と3分の1以下にまで減少。その後、新駅の開業などにより持ち直しているものの、2017年度は479万人にとどまっている。
経営状況を見ると、2017年度は11.3億円の営業収益に対して営業費用が14.9億円で、3.5億円の営業赤字を計上している。営業赤字は1994年度から連続しており、累積赤字額が増大しつつあった。数字を見れば、単独での継続が難しいというメッセージが理解できるだろう。
これを受けて沿線自治体では、「近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会」を設置。コロナ禍で状況がさらに厳しくなる中、2020年3月に出された結論は全線存続で、同年12月には線路や駅舎などのインフラは自治体側が保有管理し、近江鉄道は運行のみを担う「上下分離方式」に2024年度から移行することを決定した。
理由は、国や自治体の負担額だった。朝のラッシュ時には1列車の乗客数が250人を超えることもあるそうで、これをバスに転換すると運転士と車両を多数用意しなければならず、自治体の負担金は鉄道存続の3倍にもなるのだという。赤字ローカル線をどうするかという議論で、バスに転換したほうがコストダウンになるという声をよく聞くが、状況によっては逆になるというわけだ。
しかしながら、その後もコロナ禍が収束の兆しを見えない中で、さらなる対策が必要という考えになり、出されたのがフランスなどで導入されている「交通税」だった。ちなみに、滋賀県では「交通税」という言葉は使用しておらず、現時点では「地域公共交通を支えるための税制」と表現している。
フランスは1970年代から交通税を導入
交通税の先例は海外にいくつかあり、代表格がフランスで半世紀前から存在している。フランスの交通税は、現地では「Versement mobilite(VM)」と呼ばれており、直訳すると「モビリティ負担金」となる。以前はVersement transport(VT/交通負担金)という名前だったが、2019年にLOM(モビリティの方向づけに関する法律)が施行されたことに伴い内容が見直され、2021年にVMとして導入された。
ちなみにLOMは、1982年に施行されたLOTI(国内交通の方向づけに関する法律)の進化形と言える。VTからVMの流れもそうだが、今のフランスはモビリティという言葉を好んでいるようだ。
「税」という単語が出ていないことに気づいた人がいるだろう。これはVMを徴収しているのが、社会保障・家族手当保険料徴収連合(URSSAF)という、社会保険を担当する組織であることが関係しているようだ。
ただし英語では、VMについての説明でtaxという言葉が使われているので、交通税あるいは移動税という表現でも間違いではないだろう。よって、ここでは交通税と呼ぶことにする。
【次ページ】効果絶大なフランスの交通税の仕組みとは? 税率や交通機関の収入状況は?
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