• 2021/03/12 掲載

部下のLGBTQカミングアウト、どんな言葉をかけるべき? 元上司・部下の「実話」で解説(2/2)

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【元上司】その場で伝えたい「3つの言葉」

 部下にとって職場のカミングアウトには多くのリスクが伴う。そのようなリスクがありながら、カミングアウトをしてくれたこと、そしてその相手として自分を選択してくれたということは、上司である私によほどの信頼がなければ難しいはずだ。カミングアウトを受けた私が最初に部下である稲場さんに伝えるべきことは明らかだった。

「勇気をもってカミングアウトしてくれて、そして私を信頼してくれて、ありがとう。」

 感謝の言葉で部下の思いを受け止めた後、何をすべきか? 自分の上司・人事部にすぐ報告をすべきだろうか。部員全員を招集し、部下がゲイであることを説明し配慮を求める必要があるだろうか。部下思いを自認する上司であれば、本人に代わって周囲に伝えてあげなくてはと思うこともあるだろう。

 しかし、本人の希望を無視し、本人の同意を得ずに行うことは、たとえ善意であっても、すべて「アウティング」(本人の意思に反する性自認・性的志向の暴露)という違法行為となる。


 性的指向・性自認など個人のセクシュアリティに関する情報は、本人の人格にかかわる、その暴露が本人にとって重大なリスクを伴うもので、コントロールする権利は本人だけにある。だから、本人の同意が大原則だ。

 カミングアウトを受けた上司が、その場で必ずすべきことは、ゲイであるという部下の個人情報を、そのプライバシーも含め、どのように取り扱い、どう対応すべきか、本人と確認することだ。

 それも「言った、言わない」と後で争いとならないよう、しっかり確認しておく必要がある。そして、本人と確認できなければ自分の胸にとどめ、決して口外してはならない。

「プライバシーについて望む対応は? その他配慮・注意してほしいことは?」

 カミングアウトにリスクが伴うのならば、上司として、会社として、サポートの意思を明確に示しておくことが大切だ。どんなに気をつけていても周囲が「何となく」気づき、それが心ないうわさや誹謗(ひぼう)中傷につながる可能性がある。

 万一そういった事態が発生した場合、上司としてまた会社として、サポートする意思があることを本人にきちんと伝えておきたい。

「どんなにささいなことでも遠慮なく相談してほしい。私も会社も一緒に考えたい。」

【元上司】カミングアウト前後で感じた会社のメリット

 カミングアウト後、稲場さんと対話をするようになった。自身の性的指向(ゲイであること)が気づかれないよう稲場さんが職場で極度に神経を使い、さまざまな場面で無理をし、大きな心理的負荷を受けていたことに初めて気づいた。

 カミングアウトの前後5年間の合計10年間、私は上司として稲場さんの業績評価を行ってきた。カミングアウト前後で、稲場さんの生産性(業務貢献)が、特にリーダーシップと積極性という2つの項目について、180度転換したといってもいいほど大きく変化したのを、同僚の客観的な評価も含め、目の当たりにしてきた。それだけ心理的負荷が大きく業務に影響していたということだろう。

 会社のメリットは稲場さん個人の変化にとどまらなかった。上司である私とのコミュニケーションもより円滑になり、相互に対する信頼も強くなったように思う。本人がオープンかつ積極的になることにより(正直、より明るくもなった)、周囲とのチームワークもよくなった。

 稲場さんは自らのカミングアウト体験を職場の他の部署でも求めに応じて語った。そのことにより、LGBTQであると否を問わず、他の社員にも勇気を与え、また会社のダイバーシティ施策に対する信頼も高まったのではないかと思う。

 なお、カミングアウトをするかしないかは本人の意思に委ねるべきことで、周囲が強制したり、推奨すべきことでは決してない。しかし、そうであることと、カミングアウトができない職場環境というのはまったく別次元の問題だ。

 稲場さんのカミングアウトが可能となったのは、会社の長年のLGBTQ施策の取り組みの成果ともいえる。その取り組みがなければ、あるいは中途半端であれば、稲場さんはそもそもカミングアウトを考えなかっただろうし、私自身も伝えるべきことをその場で言葉にできたとは思えない。

 会社がメリットを享受するためには、会社が職場環境の安全化・処遇の平等化を含むLGBTQ施策を構築し推進することが何よりも重要だ。そのための施策にすでに取り組んでいる会社も多くあるし、今はそのための支援を行うリソースもある。

 皆さまが、そして皆さまの会社が、取り組みを始め、進め、強化することを願って本稿をしめくくりたい。
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