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- 2021/09/02 掲載
スーパーマーケットの軒並み「減収減益」で示された、店舗小売の厳しすぎる現実
主要スーパーは散々たる結果に
中国のスーパーマーケット各社が発表した2021年第1四半期の財務報告書が、関係者らに衝撃を与えている。ほとんどのスーパーが大幅な減収減益となったのだ。特に減益幅が著しかったのは、業界トップの「永輝」(ヨンホイ)でマイナス98.51%、大潤発(RTマート)でマイナス49.6%と、赤字転落にはなってはいないものの、完全に危険水域に入っている。比較対象になっている2020年Q1は新型コロナによる外出自粛の影響でスーパーは好調だったこともあるが、それを考慮してもあまりにも大きな下落ぶりだ。
この業績不振は、一時的なものではなく、構造的なものと見られている。遠因は2016年にアリババが提唱した「新小売」(ニューリテール)による業態の大きな変化があり、近因には2021年にテック企業が相次いで参入した、まとめ買いECビジネス「社区団購」(シャーチートワンゴウ)に市場を蚕食されていることがある。
新小売の本当のスゴさはどこか
新小売は、中国メディアですら「デジタルを活かした新しい販売スタイル」程度の意味で使うことがあるが、2016年、アリババ主催のカンファレンスで創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)氏が初めてこの言葉を使った時、定義は次のようなものだった。「オンライン小売とオフライン小売は深く融合して新小売となる。すべての小売業は新小売になっていく」。これは凄みのある発言だった。店舗小売も生き残っていくことはできないが、オンライン小売も生き残っていけないと指摘している。当時のアリババの主力事業は、オンライン小売のEC「淘宝網」(タオバオ)だった。アリババですら、そのままの業態では生き残っていけないという宣言をしたのだ。
この新小売は新しい概念ではない。1990年代の終わりに、米アマゾンがオンライン書店として成長すると、既存の店舗型書店が圧迫されるようになり、「クリック&モルタル」という言葉が使われるようになった。クリック=オンライン書店、モルタル=店舗型書店を融合させ、両方のいいとこ取りをするという考え方だ。しかし、当時は書店が電話やウェブで受けた注文を宅配便で発送する以上のことは誰もやらなかった。
ジャック・マー氏の新小売は考え方としては新しくはないものの、それまでと圧倒的に違ったのは、翌年に新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を展開し、具体的な現実解を示したということだ。
フーマフレッシュでは、買い方は「店頭/スマホ注文」の2通り、受け取り方は「店頭受け取り/宅配」の2通りが選べ、2×2で組み合わせて、自由なスタイルで購入ができるようになっている。仕事帰りの地下鉄で注文し、帰宅時間に合わせて宅配してもらう。店頭に行って、重たい酒や食用油は宅配してもらうが、つまみの食材は持ち帰り、自宅で調理をする。休日に出掛ける時に、自宅からスマホで注文し、車で店頭に立ち寄って受け取り、そのままキャンプ場に向かうなど、さまざまな利用法ができる。
ここで重要なのは、買い物行動のステルス化だ。日常生活の中で「買い物に行く」という行動をわざわざとってもらうのではなく、日常生活の導線に買い物ができるポイントを配置していく。これにより、「買い物に行く」という行動を起こしてもらう必要がなくなり、購入のハードルが下がる。消費者と商品を接触させる機会は無限に広がり、日常生活の導線に適切な商品を配置することで、コンバージョンを無限にあげていくことができるのではないか。そういう仮説に基づいている。
この「人が商品を探す」から「商品が人を探す」に転換させることが、アリババの新小売の本質だ。これを実現するためには、モバイル、データテクノロジー、AI、IoTといった技術が必須になる。だからこそ、アリババは自分たちに優位性があると見て、表面的には白菜や豚肉を売る新小売スーパービジネスを始めた。
【次ページ】既存スーパーが犯した最大の過ち
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