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  • 2021/08/10 掲載

中国で白熱「ご近所さんでまとめ買い」ビジネス、主要テック企業が続々参入のワケ

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中国で「社区団購」と呼ばれる、ご近所さん同士でまとめ買いをするECサービスが話題だ。アリババ、テンセント、拼多多(ピンドゥオドゥオ)といった主要テック企業が相次いで参入、多額の資金を投下し、激しいシェア獲得争奪戦を繰り広げている。シンプルなビジネスモデルながら、地域課題をも解決する可能性にも注目されていたが、競争激化により不当な価格表示などで中国国家市場監督管理総局(市場監管総局)に罰金を科される企業も出ている。なぜ、テック企業はそこまでしてこのビジネスに熱を入れるのか。目が離せない社区団購の仕組みを解説しよう。

執筆:ITジャーナリスト 牧野 武文

執筆:ITジャーナリスト 牧野 武文

消費者ビジネスの視点でIT技術を論じる記事を各種メディアに発表。近年は中国のIT技術に注目をしている。著書に『Googleの正体』(マイコミ新書)、『任天堂ノスタルジー』(角川新書)など。

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中国の主要テック企業が続々参入する「社区団購」はどんなビジネス? 写真は、拼多多が運営する社区団購プラットフォーム「多多買菜」
(Photo/Barcroft Media/Getty Images)


テック大手が続々参入、新ビジネス「社区団購」

 中国のビジネス状況をウォッチされている方であれば、「社区団購」(シャーチートワンゴウ)という新しいビジネスモデルの名前を耳にしたことがあるはずだ。アリババ、テンセント、京東(ジンドン)、美団(メイトワン)、拼多多(ピンドゥオドゥオ)滴滴(ディディ)、蘇寧(スーニン)などのテック企業が相次いで参入し、大量の資金を投下し、激しいシェア争いをしているホットな領域になっている。

 しかし、ニュース記事などを読んでも、今ひとつピンとこない、どこに優れた点があるのかよく理解できないという人が多いのではないだろうか。その理由は2つある。1つは、中国の小売物流の課題を解決するために生まれたものであるため、中国の小売状況を知らないと、どこに優れた点があるのかがよくわからない。

 もう1つは、社区団購は2015年頃から始まったが、2020年のコロナ禍で注目され、テック企業が相次いで参入した。この初期の社区団購と、テック企業参入以後の社区団購は、基本的なビジネスモデルは同じだが、狙いが大きく違っている。この目的が異なるものを同じ社区団購として理解しようとすると混乱をしてしまう。

 この2つの点に留意しながら、社区団購のビジネスモデルとその狙いをご紹介したい。


「社区団購」の基本は「ご近所さんでまとめ買い」

 社区団購の「社区」とは、町内会にあたる中国独特の末端行政組織だが、そこはあまり気にする必要はない。社区団購の文脈では、ご近所、町内会といった理解で十分だ。「団購」とはまとめ買い、グループ購入のこと。

 つまり、「ご近所さんでまとめ買いをする」というのが社区団購の基本だ。販売される商品は、日用の生鮮食料品が中心で、他に家電・電子製品や化粧品、家事サービスなどを扱うケースもある。

 このような社区団購は、2015年頃、地方都市や農村で始まった。地方都市や農村にも日用の食料品や雑貨を販売する個人商店はある。しかし、その数は多くなく、品ぞろえも限られている。少し気の利いたものを買いたい時には、大きな都市まで出掛けて行くか、ECを利用する必要があった。そこに浸透したのが、社区団購だった。

 社区団購プラットフォームは、メーカーや生産者から直接、大量に買い付けをする。これをプラットフォームに加盟した個人商店に配送するという仕組みだ。日本の生協(生活協同組合)の考え方によく似ている。プラットフォームが一括買い付けをすることで販売価格を安くし、質の高い商品を個人商店に届け、商品点数が少ない地方での消費の課題を解決しようというものだ。

メインプレーヤー「旧三団」と「新三団」

 このような発想で生まれたのが、「興盛優選」(シンシェン)、「十薈団」(ナイストワン)、「同程生活」(トンチャン)を始めとする独立系の社区団購で、この3社は「旧三団」と呼ばれる。

 旧三団では、「前日予約注文、翌日配送、店舗受け取り」が基本だ。あした食べる食材などをあらかじめ決めて、加盟店である個人商店の店主(団長)にSNS「WeChat」を使って注文、団長が全員の注文をまとめて深夜に発注、翌日の夕方までに店舗に配送されてくる。購入者は加盟店まで受け取りに行くという流れだ。

 この旧三団が成長してくると、アリババと蘇寧は、運営する新小売スーパーのサブブランドの形で社区団購に参入した。新小売スーパーは、店舗購入もできるし、近隣宅配もするというビジネスモデルなので、社区団購との親和性が高い。個人宅に配送するのではなく、団長の個人商店にまとめて配送するだけのことだ。さらに、テンセントも興盛優選に投資をする形で参入した。

 この社区団購が、2020年初頭の新型コロナの感染拡大で、都市の消費者からも注目された。最も感染拡大が厳しい時は、各都市で外出が大きく制限され、外出に不安を感じる人も多かった。スマートフォンを使いこなせる若者や現役世代は、フードデリバリーや新小売スーパー、生鮮ECといった生活サービスを使いこなし日常生活を成り立たせていたが、スマホが苦手な中高年や高齢者は買い物難民になってしまった。

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社区団購の注文画面。拼多多が運営する多多買菜のWeChatミニプログラム(左)。最も近い加盟店が自動的に設定される。美団優選(右)は、料理レシピが閲覧でき、その料理に使う食材を一括注文する機能もある

 そこで、マンションの住人有志が社区団購の団長となり、住人の注文をまとめて発注し、マンションまで配送してもらい、各自に取りに来てもらうことを始めたのだ。

 この動きに、テック企業が素早く反応した。拼多多が運営する「多多買菜」(ドゥオドゥオマイツァイ)、美団の「美団優選」(メイトワン)、滴滴の「橙心優選」(ダンシン)の3ブランドが生まれ、「新三団」と呼ばれる。こうして、旧三団、新三団、新小売スーパーが入り乱れて激しいシェア争奪戦を展開している。

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テック企業による社区団購への参入状況。コロナ前の2019年に新小売スーパーを展開するアリババ、蘇寧がサブブランドとして展開し、2020年のコロナ禍で注目をされたことを契機に一気にテック企業が参入した

【次ページ】テック企業がこぞって参入する納得の理由

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