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  • 2021/11/08 掲載

ヴィトン、ディオール…ハイブランド買収しまくったLVMH会長はなぜ、無謀すぎる野望を実現できたのか

連載:企業立志伝

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ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、ティファニー──誰もがその名を聞いたことがある70以上のブランドを傘下に持つ、フランスのLVМH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)。ラグジュアリー企業では世界トップを誇っています。この華麗なるブランド帝国を一代で築いたのが、会長兼CEOのベルナール・アルノー氏です。父親の建設会社を経営していた青年が、世界的企業を育て上げるまでには、どのようなストーリーがあったのでしょうか。今も名立たるブランドの買収を続けるアルノー氏の経営哲学の真ん中には、フランスのブランドに対する揺るがない自信と信頼、「本物」を追い求める野心がありました。

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開することで定評がある。主な著書に『世界最高峰CEO 43人の問題解決術』(KADOKAWA)『難局に打ち勝った100人に学ぶ 乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)『大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ』(ビジネス+IT BOOKS)などがある。

大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ (ビジネス+IT BOOKS)
・著者:桑原 晃弥
・定価:800円 (税抜)
・出版社: SBクリエイティブ
・ASIN:B07F62BVH9
・発売日:2018年7月2日

画像
“本物”を追い求めるベルナール・アルノー氏の譲れない信念とは
(写真:AP/アフロ)

今さら聞けない、LVMHとはどんな企業?

 LVМHは傘下に70以上のブランドを抱えていますが、大きく5つの事業に分けることができます。

1)ワイン・スピリッツ
 アルコール類は、シャンパンとコニャックの2つの事業から成り立っています。シャンパン事業には、有名なモエ・エ・シャンドンやヴーヴ・クリコ・ポンサルダンなどの企業が含まれ、シャンパンの代名詞とも言えるドンペリニヨンはモエ・エ・シャンドンの製品です。コニャック事業ではヘネシーが有名です。

2)ファッション・皮革
 LVМHの売上の半分を稼ぐのがファッション・皮革部門です。ルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオール、セリーヌ、ジバンシィ、ロエベ、ケンゾーなどから構成されています。

3)パフューム・コスメティック
 香水や化粧品の分野は、パルファン・クリスチャン・ディオール、ゲラン、ジバンシィなどから構成されています。

4)ウォッチ・ジュエリー
 時計・宝飾品分野は、タグ・ホイヤーやエベル、ゼニスといった高級時計に加え、ブルガリなども含まれますが、2021年1月に米国宝飾大手ティファニーを買収したことで売上が急増しています。

5)セレクティブ・リテーリング
 LVМHは、グループの持つブランドの流通をコントロールするために、免税店やデパートなども傘下に抱えています。

 これほどの世界的ブランドを抱えていれば、アルノー氏がフランスファッション界の「帝王」「法王」などと呼ばれるのも当然のことですが、そんなアルノー氏も元々はファッション界とは何の縁もない若者でした。


名門校卒業後は父の建設会社経営へ

 アルノー氏は1949年、フランス北部のルーペに生まれています。父親ジャン・アルノー氏は、フェレ・サヴィネルという社員1000人ほどの建設会社を経営していました。

 裕福な家庭に育ち成績も優秀だったアルノー氏は、フランスの名門エコール・ポリテクニク(理工科学校)に進学します。エコール・ポリテクニクは科学者を育てるための学校でしたが、アルノー氏自身は科学者になる気もなければ、卒業生の一部が関心を示す高級官僚にも興味はありませんでした。

 アルノー氏の関心は「ビジネス」に向かっており、同校での勉強が企業経営に役立つとは思えませんでした。ですが、「どうせ勉強するなら、一番上を目指したかった」(『ベルナール・アルノー、語る』p32)と考えたアルノー氏は、両親が一番いい学校だと勧めてくれた最難関のエコール・ポリテクニクへの挑戦を決め、見事に合格しています。

 「(ビジネスでも学問でも)勉強しなければ、成功できない」(『ベルナール・アルノー、語る』p33)がアルノー氏の変わらぬ信念です。

 当時から起業への関心が高かったアルノー氏ですが、父親は大学を卒業したアルノー氏に会社経営を任せたばかりか、25歳の時には早くも社長の座に就けています。


ニューヨークのタクシー運転手との会話が転機に

 父親の期待通り、アルノー氏は若い頃から経営者として頭角を現し、建設業から不動産開発へと業容を拡大しますが、1981年にフランソワ・ミッテラン氏がフランス大統領に就任したことで「フランスの自由主義経済システムの崩壊が懸念されていた」(『ベルナール・アルノー、語る』p68)ことも影響してか、1982~1984年までの3年間、米国ニューヨークで暮らし、建設会社を経営しています。

 このニューヨークでの経験がアルノー氏にとって転機となります。ニューヨークに移り住む前、初めてニューヨークを訪れたアルノー氏は、乗り合わせたタクシーの運転手に「フランスの何を知っているか」と質問します。「大統領の名前は」と尋ねると、こんな答えが返ってきました。

「知らないね、でもクリスチャン・ディオールなら知ってるよ」(『ベルナール・アルノー、語る』p38)

 何気ない会話でしたが、この一言はアルノー氏に強い衝撃を与えます。

【次ページ】ディオール目当てに、無名の青年が巨大グループを買収

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