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  • 2021/11/15 掲載

洋菓子店ガトーフェスタ ハラダの食品ロス対策、ムダのない「売れる菓子作り」の秘密

【連載】成功企業の「ビジネス針路」

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食品ロス(フードロス)の問題が深刻化している。消費者である私たちが「食べ残し」や「無駄な消費」を減らそうと意識することも大事だが、それだけでは解決できない。フードロスの課題解決には、生産・販売・流通に携わる企業の協力が必要不可欠なのだ。それでは、企業はどのようにフードロスの問題に取り組むべきか。今回は、フードロスを引き起こす原因となっている「ダメすぎる消費者心理」を踏まえたフードロス削減で成果を上げた洋菓子メーカー「ガトーフェスタ ハラダ(群馬県)」の事例を紹介する。

執筆:経営コンサルタント 清水大地

執筆:経営コンサルタント 清水大地

MIRARGO Director
野村総合研究所、アクセンチュアなど、14年以上に及ぶコンサルティングと実行・執行支援の経験を基に、現在はスタートアップの経営支援を中心に、日本社会の更なる飛躍を目指している。共著に「時間消費で勝つ」(日本経済新聞社)、「経営コンサルタントが読み解く 流通業の「決算書」」(商業界)など

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フードロス増加につながる「消費者心理」とは?(後ほど詳しく解説します)
(出典:筆者作成)

食料不足なのに…増え続けるフードロス

 近年、世界では急激な人口増加(=食料需要の増加)に食料生産が追い付かない懸念が高まっている。

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図表1:人口増加と食料
(出典:農林水産省「2050年における世界の食料需給見通し」を元に作成)

 そうした中で、改めて注目されているのが、フードロスの問題である。フードロスというと、消費者のイメージはコンビニの消費期限切れの大量廃棄の印象が強いかもしれないが、実際には食料流通のバリューチェーンにおけるさまざまなプロセスで発生しており、消費量の半分ほどがロスされているという衝撃的なデータも存在している。

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図表2:工程別のフードロス
(出典:Food Wastage Footprint, FAO 2013」を参考に筆者作成)

 食料不足の危機を前に、我々はどのようにフードロスを減らしていけるのだろうか。その1つの鍵は、消費者心理にある。

「生産」「加工・流通」「販売工程」におけるフードロス

 フードロスが最初に起こる工程は、「食料生産」工程にある。たとえば、野菜や果物には流通システムに載せるための規格(キレイさと扱いやすさのため)が存在しており、そこから外れると“規格外品”として流通に載らなくなってしまう。

 また漁業においても、網にかかる魚類は市場で売れる物ばかりではないため、その場で捨てられる雑魚も存在している(漁獲量の約40%がそれにあたるという説も存在している)。食料生産は自然の産物ゆえに、量・質共にボラティリティの高さが特徴であり、よって廃棄が発生しやすい状況にある。

 次に、「加工・流通」工程では、“生もの”という特徴ゆえに、傷つき、鮮度が落ちたものは廃棄されることとなる。また、食品加工や製造の現場では、歩留まりが存在し、また人手をかけることで人間ならではの失敗(仕損)も発生してしまう。根底には食料品が極めてデリケートな存在であるということと、人が介在するがゆえにヒューマンエラーは避けられないという特徴が関係している。

 続く「販売」工程では、小売店・飲食店における消費期限切れによる商品の廃棄、飲食店における食材の廃棄が挙げられる。そして、最後には消費者が食べきれない、もしくは消費期限切れによる廃棄へとつながっている。

フードロスを引き起こす「日本の消費者の3大信仰」

 こうした食料流通のバリューチェーンの各過程でフードロスが発生してしまう要因の1つに、日本の消費者が抱える「消費者心理」が影響している。ここからはその中でも、「3大信仰」についてみてみたい。

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図表3:食料流通バリューチェーンごとに見る「消費者心理」
(出典:筆者作成)

 まずは「天然信仰」。天然物の食品は、養殖やハウス栽培など人が介在して人工的に育成した食料よりも、安全でおいしい、というものである。たしかに、天然物で飛び切りの食品が存在しているのも事実だが、天然であるということは自然に依存する割合が高まることを意味しており、そのため質・量ともにバラツキを避けることが難しい。

 また、漁業であれば養殖魚は食べる餌や育成環境もコントロールできるものの、天然についてはコントロールできないため、トレーサビリティが難しくなるという点も指摘される。こうした背景から、欧米においては天然よりも養殖に価値を置くことも多い。

 次に「手作り信仰」。商品に「てづくり」や「てづくり風」といった頭文字が商品名つくことも見られることから、日本の消費者がこのキーワードに対してポジティブな反応を示していることが分かる。すなわち、機械で生産するよりも、人が手をかけて生産する方が安全でおいしい、というものである。

 たしかに、洋菓子などパティシエが手間暇かけて仕上げた結果、食べることに躊躇してしまうほどの美しさを誇る商品は多数存在しており、その姿と比べると裏方がすべて機械で生産しているとなると、ありがたみに欠けるというのが消費者心理なのかもしれない。

 しかし、実際は人が介在するということはヒューマンエラーにつながる可能性があり、かつ人件費もかかってしまう。一方、機械の発展により、生産性もさることながら、異物混入や仕損の減少も追求できるのが近年の生産技術である。


 続いて「冷凍悪信仰」。冷凍していない食品は、冷凍/解凍した食品よりも、安全でおいしい、というものである。

 たしかに、一度冷凍した食材は肉類ではドリップが出てしまい、風味も低下してしまうことも散見されることも事実だが、近年の冷凍技術の進化により、品質は格段に高まっているのが現状である。さらに、冷凍により品質低下を防ぎ、かつ保存料などの食品添加物を低減することも期待できる、また、チルド商品と比べて消費期限が長くなるため、廃棄ロスになりづらいというメリットも存在している。

 食料流通のバリューチェーンは基本的に、川下(消費者)の要望を軸に、動くこととなる。そのため、こうした世界一うるさい(?)日本の消費者により、食料流通全体のフードロスは加速されている側面もあるだろう。

 それでは、こうした消費者心理に向き合い、かつフードロスにも対応するにはどうすれば良いのだろうか。そのヒントを、ラスクで有名な洋菓子メーカー「ガトーフェスタ ハラダ」に学んでみたい。

【次ページ】ガトーフェスタ ハラダが「フードロス削減」に取り組んだきっかけ

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