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  • 2022/02/25 掲載

コロナ禍が示した“失われた30年”の根因とは? 「4つのムダ」でデジタル敗戦に一直線 篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第143回)

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コロナ禍で図らずも露呈したのが日本のデジタル化の遅れだ。そこから浮かび上がる課題は次の4点に集約できる。第1に「何でもヒトがするムダ」、第2に「何でもIT化するムダ」、第3に「標準化できないムダ」、第4に「競争回避によるムダ」だ。これらはいずれも2段階による日本経済の失速と関係しているようだ。日本はなぜ情報革命の渦中で「失われた30年」を過ごしたのか、今回は4つのムダを手掛かりに考えてみよう。

九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
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インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

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デジタル敗戦につながる「4つのムダ」とは
(Photo/Getty Images)

経済の「エンジン」不調で2段階の失速

 日本経済の失速は、1990年代の先進国が舞台となった情報革命と共に始まり、2000年代の途上国も巻き込んだグローバルな奔流の中で鮮明になった。2段階で失速したわけだ。

 1990年代は、米国の「ニュー・エコノミー」が象徴するように、イノベーションの舞台は先進国に限られていた。独仏など先進各国でさえ米国を見習えと躍起になる中、途上国はさらに引き離されるという「デジタル・ディバイド」の懸念が強かった時代だ。

 その後、2000年代に入ると、情報革命の波は情報革命の波は途上国を巻き込みながら怒涛のように広がり、世界の景色は一変した。この情報化のグローバル化によって、イノベーションの舞台は世界の隅々に広がった。

 日本経済は、こうした大奔流の中で、まず第1段階で米国に引き離され、続く第2段階ではアジアの新興国に追い越されて国際的地位をズルズルと後退させた。失速の大きな要因は企業部門にありそうだ。

 経済活力の源泉は言うまでもなく企業だ。新技術を梃子に経済構造の転換を図るには、企業の積極的な投資行動が欠かせない。企業こそが中長期的な経済成長の「エンジン」なのだ。日本経済は、情報革命の中でこの「エンジン」が不調になり、2段階の失速につながったとみられる。

聞き取り調査で浮かび上がった課題

 連載の第140回で述べたように、企業の情報システムは、組織の構造や業務手順、それらに従事する人材など、各企業のさまざまな仕組みを正確に映し出す鏡だ。

 日本経済がかつて国際社会で優位性を発揮したのは、「コミュニケーション」と「組織構造」にみられる「日本型システムの特質」にあった。だが、1980年代に輝いたこの特質は、今のような情報技術がなかった時代に形成されたものだ。

 技術体系がシフトし、世界の国々が鎬(しのぎ)を削る中で、古い仕組みを温存したままでは、太刀打ちできない。では一体どのような課題が具体的に生じたのであろうか。

 日本型組織におけるデジタル化の課題について、かつて筆者は約半年間をかけて、民間企業、団体、研究機関など官民を合わせて延べ22カ所の聞き取り調査を行い、統計データや公式資料では表れにくい実態把握に取り組んだことがある。

 改めてその内容を整理すると、様々な領域に共通する課題は、情報システムの技術的問題というより、業務の手順、段取り、運用といった企業経営の仕組み、業界固有の取引慣行など産業の仕組み、法律や規制などマクロ・レベルの制度の仕組みが、デジタル化の効果を発揮しにくい構造になっている点だ。

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「業務の手順、段取り、運用といった企業経営の仕組み、業界固有の取引慣行など産業の仕組み、法律や規制などマクロ・レベルの制度の仕組みが、デジタル化の効果を発揮しにくい構造になっている」
(Photo/Getty Images)

レガシー時代:高性能なそろばんと柔軟な人的情報処理の協働

 企業や産業の仕組みについて考えると、今のような分散型のITがない時代に「人的情報処理能力」の高さを武器に形成された「精緻な仕組み」にたどり着く。この仕組みは、1980年代までは、レガシーな情報システムとうまく噛み合って優位性を発揮した。

 レガシーな情報処理システムとは、銀行の勘定系システムなど、いわば「超高性能のそろばん」だ。こうした大量の単純計算能力(ロー・コンテクストの情報処理)については、通常の人的能力では太刀打ちできない。

 その一方、レガシーな情報システムは、柔軟な応用動作や複雑な判断を行う高度なコミュニケーション(ハイ・コンテクストの情報処理)には不向きだ。したがって、大量の単純計算を情報システムに任せる一方、高度なコミュニケーション場面では、人的資源がフル稼働するという「技術とヒトの分業体制」=協働が形作られた。

 この構図の中で、人的資源がフル稼働しやすいよう、各企業に固有の「しきたり」や「仕組み」に合わせて、情報システムを「精緻にカスタマイズ」するのがレガシー時代の望ましいIT導入=OA化(オフィス・オートメーション化)だったといえよう(図表1)。

  レガシー時代 オープン・ネットワーク時代
統合型組織 根回しなど非公式な人的ネットワークによるハイ・コンテクストの情報共有で組織内のコミュニケーション費用を軽減 濃密な人間関係による暗黙知による伝承のため、地理的、時間的な制約が大きく、曖昧さや情報の歪みを生じやすい
モジュール型組織 厳格な職務範囲で専門性はあるが人的ネットワークによる情報共有が弱く、組織内のコミュニケーション費用が大きい 形式知による正確な情報再生と共有が可能で、地理的、時間的制約を超えたグローバルな展開ができる(オフショアリングなど)
図表1:ITの変化と組織特性
(出所:篠﨑(2008)図表1-12より抜粋)

【次ページ】立ちはだかる日本型システムの問題

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