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  • 2022/03/30 掲載

VPoEとは何か? VPoE自身が解説するVPoEの役割と求められる能力、CTOと何が違う?

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デジタルトランスフォーメーション(DX)やデジタル技術の活用といった文脈で、企業のITエンジニアの需要も高まっている。しかし、一概にテクノロジー活用といってエンジニアを採用しても、そのエンジニアが定着し、力を発揮してくれるとは限らない。「採用してみたら違った」「入社してみたら違った」などはよく耳にするが、それはエンジニアだけの問題でも企業だけの問題でもないだろう。そこで本稿では、こうした問題に立ち向かい、エンジニア組織の形成・運営に責任を持つVPoE(Vice President of Engineering)について、スタートアップのVPoE当事者として活動している筆者の立場から、(自戒を込めつつ)その役割や求められる能力などについて紹介したい。

執筆:manebi CDO 兼 VPoE 呉 珍喆

執筆:manebi CDO 兼 VPoE 呉 珍喆

韓国出身、就職で来日し、小規模商社の情報システム担当からキャリアをスタート。その後は独立系SIerにてOracleDBAとしてメガバンクのシステム構築に携わり、のちに、システムインフラ全体のプロジェクトリーダとしてさまざまな業種・企業のシステム構築を支援する傍ら、企業のDX推進に向けたアドバイスや提案活動を実施しつつ、Webメディアでの情報発信・書籍執筆も手掛ける。 同独立系SIerでエンジニア組織の管理職を11年、部長職を経て、manebiにVPoEとして着任。現在はChief Digital Officer(CDO)を兼任している。

株式会社manebi
世界縁満を掲げるHEART-TECH COMPANY

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最近増えてきたVPoEとはどのような役職なのか?
(Photo/Getty Images)

VPoEとは何か? どんな役割を担うのか

 VPoEとはVice President of Engineeringの略称で、一言でいえば、ソフトウェア開発や技術部門といった組織のマネジメント責任者のことだ。

 企業のテクノロジー活用を加速させるためには、エンジニア組織をスケールするとともに、エンジニアが成長し、さらに成果を上げやすくする組織のマネジメントが必要となる。

 小さな組織であれば、その企業の技術責任者であるCTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)が配下のエンジニアをマネジメントもしていくケースが多い。しかし、プロダクトやサービスが成長し、エンジニアの人数が増えていけば、その体制では回りきらず、やがてCTOが本来やるべきこと(新技術の開発、採用、製品への適用など)ができなくなるといった弊害が出てくるために生まれた役職とも言えるだろう。

 したがって、VPoEには以下のような能力が求められる。

  • エンジニアとしての知識と経験
  • マネージャとしての組織形成・運営能力
  • さまざまな要件をとりまとめ、整理し、制度化する力
  • 部門内外のステークホルダーと協力し、プロダクトそして組織の未来像を描く力

 VPoEでいうVP(Vice President)という言葉も日本では聞きなれない単語なので、触れておくと、VPは、国でいえば、副大統領であることから、企業においても副社長のように直訳されることもある。しかし、多くのアメリカの企業におけるVPは上級管理職という意味で使われる言葉で、日本語にするなら、その部門のトップ、つまり部門長、あるいは部長を指すことになる。

CTOとの違いは? なぜ必要?
 CTOは、その名の通り、企業の最高技術責任者に位置する。その業務は、技術選定やより優れたアーキテクチャの検討、技術的な戦略や方針、プロダクトのロードマップ策定に至るまで、多岐にわたる。

 対してVPoEは、その企業のエンジニアの集まり、「組織」としての責任者に位置付けられる。その業務は、エンジニア組織そのものの形成と運営、文化の醸成や組織ロードマップ策定、エンジニアの採用から育成・配置・評価に至るまで、これもまたかなり広範囲の役割を担う必要がある。

 これらをすべてCTO任せにしていては、うまく回らなくなるのもご理解いただけるだろう。

VPoEの主な役割

 上述の通り、CTOとは異なる役割でエンジニア組織全体をマネジメントする立場にあるVPoEではあるが、その役割が広範囲に及ぶうえに、まだ日本では広く浸透していないだけに、企業によって解釈や担当範囲は異なる。ここではVPoEに求められる一般的な役割について述べる。

 VPoEの業務の全体像を図示した場合、以下のように表現できる。

画像
VPoEの業務の全体像

 これらの業務とその内容について、一つずつ見ていこう。


エンジニア採用に向けた広報と採用業務
 ご存じの通り、今はどこもかしこもITエンジニア不足だ。システム開発を生業としているIT系企業も、製品やサービスを提供している非IT系企業も、テクノロジー活用から逃れられることはなく、エンジニア獲得に向けて各社しのぎを削っている状況にある。

 本来、広報業務であれば広報やPR部門が、採用であれば人事部門が、その役割を担う。しかし、ITエンジニア界隈では近年さまざまな情報発信を通じて、自組織の認知度を高め、優秀なエンジニアを採用することに役立てているケースが多い。

 激しいITエンジニア獲得競争の中、VPoEとしてITエンジニア採用に拍車をかけ、優秀な人材を招き入れるためには、自ら、そしてエンジニア組織として情報を発信し続けることが重要となる。

 採用そのものにおいてもエンジニア組織の全体像を描いたうえで、人事部門と連携し、必要な人材要件を定義するとともに、エージェントや媒体に頼るだけでなく、ダイレクトリクルーティング(直接候補者にアプローチする方法)を行うこともVPoEの役割といえる。

エンジニアの育成
 上述したエンジニア採用のハードルの高さも相まって、即戦力採用はなかなか厳しいのが現実だ。

 また、採用するだけで終わりではなく、いわゆるオンボーディング(定着・戦力化支援)が必要となる。キャリア採用でも、ポテンシャル採用でも同じことが言えるが、ポテンシャル採用の場合は、オンボーディングに加えて育成(教育)に時間をかけていく必要もある。

 採用したエンジニアが定着するための支援とエンジニア育成のための仕組みを作り、推進することがVPoEに求められる。

 ここで気を付けたいポイントとしては「自主性の醸成」だと筆者は考える。企業側でどれだけ教育に力を入れても、限界があるからだ。教えてもらうという受け身の姿勢だけでなく、プロとして自分のスキルを磨き続け、自走できるエンジニア、さらに互いに学び合い、高め合える文化の醸成についても、VPoEは合わせて取り組んでいく必要があるだろう。

エンジニア組織の形成と運営
 エンジニアが生き生きと力を発揮できる仕組みと文化を形成し、それを継続的に運営していき、さらに発展させることはVPoEの重要なミッションだ。一言で生き生きと力を発揮できるといっても、その企業で働くエンジニアおのおののさまざまな欲求が満たされなければ実現は難しい。

 たとえば、よく話題に上がる「選択理論」の「5つの基本的欲求」を参考にしても、生存の欲求から愛・所属、力、自由、楽しみの欲求まで、人それぞれ重きの置き方は異なる。後述するキャリアにかかわる、なりたい自分、学び・スキルを磨きたい自分、自由にやりたいことをやりたい自分など、さまざまだ。

画像
選択理論の5つの基本的欲求

 いかにしてその企業で働くエンジニアが楽しみながら、かつ学びながら、自分の思い描くものに近づくか。永遠の課題だと思うが、エンジニアとともに伴走する必要のあるVPoEの立場としては、真剣に向き合い、出すぎず、文化を醸成していくことが大切といえる。指針を示しつつもやり方は任せる「インコントロール」(注)も参考にしたい。

注:手順を全て指示、管理監督する「コントロール」とは違って、「インコントロール」は目的が果たされることを共有し、確かにすることを目指す方法

 文化醸成の例は、後述するネットワーク状に結ばれたコミュニティで触れていく。

【次ページ】VPoEとして押さえておきたい組織運営のポイント

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