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- 2022/04/19 掲載
中央大 岡嶋裕史教授が「メタバース上の広告」に疑問を呈する“住人目線”
連載:メタバース・ビジネス・インサイト
存在が分からないからこそ集まる関心
確かにメタバースの定義ははっきりしません。携わっている人にとっては、逆にフワッとさせておきたいところなのでしょう。よく分からない存在のほうがお金を集めやすいですし、分かった瞬間に熱は冷めてしまうからです(笑)。実際、現在のようにバズワードとして採り上げられると、誰もが「自分の商売こそがメタバースだ」と言うほどです。だからこそ、いつまでたっても定義付けが収束しないのかもしれません。
私がメタバースを説明するとしたら、「現実とは異なる理屈で動いていて、現実よりも便利で心地よい世界」だと言います。その説明に従えば、XR(ARやVRなどの総称)などを介する必要はありません。現実とは異なる感覚・快適さ・便利さがあれば、成立します。
メタバースに持たせる情報の深度や密度は、そこで「どれくらいの時間が使えるか」を決定します。長い時間、ユーザーに使ってもらえるのは、それだけでパワーになります。
SNSやゲームも、なるべく快適な空間を演出することで、長く滞在させ、長く広告やアイテムに接触してもらい、それでひと儲けする。これが現在のSNSやスマホゲームのビジネスモデルです。
ただ、彼らがユーザーからどれくらい時間を切り取れているのかというと、実はそれほど多くありません。総務省の調査によれば、SNSの滞在時間は一番接触している20代女性でも2時間弱(109.8分)。さらに、もっと彼らの時間を切り取りたいとしても、SNSはコミュニケーション、ゲームは娯楽に特化しているので、これ以上時間を奪えないのです。
人が1日で自由になる「可処分時間」を削って、多くの時間を費やしてもらうには、そこで「生活」できるサービスを提供しなければなりません。単なる遊びではなく、その空間の中で勉強や仕事ができて、対価を得られるなど、付加価値が存在しないと、2~3時間以上も仮想空間に滞在してもらえないのです。
もっと時間を奪うためのサービスを作り込んでいく過程で、必要なインフラやプラットフォームを整えていく。それがメタバースの成否で大切なことだと思います。
もちろん、ゲーム的な世界において、興醒めせずに没入するには、XRは大切な要素技術となっています。ただ、その空間で十分な利便性が得られるのであれば、私は必ずしもXRは必須ではないと考えています。
『フォートナイト』がメタバースな理由
メタバースの一例として、エピックのゲーム『フォートナイト」がよくあげられます。フォートナイト内のもっともメジャーなゲームモードでは100人のプレイヤーがバトルロワイヤルをして、トップを目指すという目標が設定されています。しかし、その目標と違った楽しみ方ができるのが、メタバースと呼ばれるサービスには必須です。そうでなければ、目標を達成した瞬間、その世界から退出しなければならないからです。
実際、フォートナイトでは戦うだけでなく、ワールドを自由に作ることができるクリエイティブモードやパーティーゲームモード、有名アーティストのライブが開催されるようになりました。中でもクリエイティブモードの自由度は高く、そういった点もメタバースの代表例といわれるゆえんです。
もっと古い例で言えば、1997年に発売されたオリジナルの『ファイナルファンタジー VII』も、舞台となる星が大変なことになっているのに、ゴールドソーサという“遊園地”でミニゲームを楽しみ続けることができました。
20年以上も昔のゲームですが、それにはまっていたユーザーも多くいました。彼らは「攻略してゲームを終了したくない」と思っていたはず。そういった楽しみ方が、メタバースを構成するコンテンツとしては必須なのです。
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