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  • 2023/08/16 掲載

大赤字「ピクサー」再起させたジョブズの英断と、もう1人の天才の「組織作り9原則」

連載:企業立志伝

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これまで数々のヒット作を生み出してきたピクサーは、1986年、エド・キャットマル氏とジョン・ラセター氏が働いていた映画製作会社ルーカスフィルムのコンピューター部門を、スティーブ・ジョブズ氏が買収することで生まれました。現在のピクサーからは考えられませんが、ジョブズ氏が買収してから約10年間、ピクサーはヒット作もなく赤字を出し続けるばかりでした。そんなピクサーが赤字企業から脱却し、世界に名をはせる企業となれた裏側には、ジョブズ氏の英断とキャットマル氏の組織作りへの考え方がありました。

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開することで定評がある。主な著書に『世界最高峰CEO 43人の問題解決術』(KADOKAWA)『難局に打ち勝った100人に学ぶ 乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)『大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ』(ビジネス+IT BOOKS)などがある。

大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ (ビジネス+IT BOOKS)
・著者:桑原 晃弥
・定価:800円 (税抜)
・出版社: SBクリエイティブ
・ASIN:B07F62BVH9
・発売日:2018年7月2日

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(左から)エド・キャットマル氏、スティーブ・ジョブズ氏、ジョン・ラセター氏
(写真:Everett Collection/アフロ)

ジョブズのポケットマネーで生き残っていたピクサー

 ジョブズ氏はピクサーを買収した当時、コンピューター会社として育てるつもりでしたが、キャットマル氏を初めとするメンバーが目指していたのはフルCGの長編アニメーション映画を作ることでした。

 当時、ジョブズ氏は「アルビーもエドも、世間知らずの赤ん坊だ。私が手を貸してやれば、2人をビジネスマンに育て上げられるだろう」(『アップル・コンフィデンシャル2.5J』下p135)と語っていたようですが、実際のところ同社にいたのは研究者とアニメーターというビジネスとは遠い世界の住人たちでした。

 結果、ジョブズ氏が力を入れたコンピューターは数百台程度しか売れず、ハードウェア部門は他社に売却されます。残されたのはキャットマル氏が開発したソフトウェアの「レンダーマン」と、ラセター氏が率いるアニメーションの制作部隊です。

 ラセター氏が制作した『ティン・トイ』は1988年にアカデミー賞短編アニメーション映画賞を受賞、古巣のディズニーから監督として戻るよう高額のオファーを受けたものの断っています。理由は「ここにとどまって歴史を作る」(『メイキング・オブ・ピクサー』p162)ためでした。

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『ティン・トイ』は、のちの大ヒット作『トイ・ストーリー』の原型になった作品としても知られる
(Photo/Willrow Hood/Shutterstock.com)

 しかし、この間にもピクサーは赤字を出し続けていました。その金額は膨大で、ジョブズ氏が「5,400万ドルもの資金を自分のポケットから会社に注ぎ込んでくれた」からこそ、ピクサーは何とか生き残ることができていた状態でした。

起死回生へと動き始めた「ディズニーとの契約」

 そんな中、転機が訪れます。1991年、ジェフリー・カッツェンバーグ氏率いるディズニーが、ピクサーとの間に「ピクサーが3本の長編アニメーション映画を制作し、ディズニーが資金提供とプロモーションと配給を担当する」という契約を締結したのです。

 第1作目として取り掛かったのが、ラセター氏が監督を務める『トイ・ストーリー』でした。途中、スクリプトの書き換えなどの問題があったものの、1995年11月の公開に向けて準備が進む中、ジョブズ氏は『トイ・ストーリー』が公開された直後にピクサーを株式公開することを計画したのです。

 当時のピクサーは利益も生まなければ、まだ映画すら公開していない会社でしたが、1995年8月に創業から1年足らずのネットスケープコミュニケーションズが株式を公開するなど、米国の株式市場はドットコムバブルの入り口にあり、利益は出ていなくとも成長が期待できる企業には株式を公開するチャンスが訪れたのです。 【次ページ】大赤字のピクサーを再起させたジョブズの英断

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