• 2025/11/19 掲載

【独占】ノーベル賞受賞者・大隅氏が嘆く、地方大学で「禁句」となった基礎科学の惨状(2/4)

連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション

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科学に求められる「役に立つ」という言葉の呪縛

 基礎科学とは「真理の探究」そのものを目的とする科学を指す。実用化や商業的な目的は考慮せず、自然現象の根本的な原理やメカニズムに対する純粋な好奇心、「知りたい」という研究者の欲求こそが、そのエンジンだ。ところが日本では「『役に立つ』という言葉が科学について回る」と、大隅氏は次のように述べる。

「日本では、科学にはアプリオリに『役に立つ』という言葉がついて回ります。大学院生が親に『自分はこんな研究をしている』と言うと、必ず『それは何の役に立つの?』と聞かれ、答えに窮してしまうという光景は珍しくありません」(大隅氏)

 大隅氏がノーベル生理学・医学賞を受賞したオートファジーの研究は、今やがん、神経疾患などの治療に応用されている。しかし大隅氏は、病気を治したくてオートファジーの研究をしたのではない。ただ、「タンパク質はどのように分解されるのか」知りたかったのだ。

 もちろん、「役に立つ」ことは重要だ。しかし、それは研究の視野を狭めてしまう。そもそも「役に立つ」という言葉の意味はあいまいだ。

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「就職活動をしている学生と話をすると、みんな『役に立つことをしたい』と言います。では、『役に立つ』とはどういうことかと聞くと明確には答えられません。本来、役に立ったかどうかを検証するには、人類の歴史の中で長い時間が必要なのです」(大隅氏)

変わってしまった「日本人の時間軸」

 一方で「役に立つ」という言葉には、あらがいがたい魔力があるのも事実だ。特に最近の若い研究者は、その力にとらわれているのではないかと、大隅氏は次のように危惧する。

「我々が学生のころは、科学はもう少し純粋に考えられていて、『役に立たないことのほうが尊いのだ』といった考え方を持っていたように思います。現在は、仮にそう考えていても、それを正々堂々と言いづらくなっているのではないでしょうか」(大隅氏)

 そもそも、基礎科学によって人間の知が広がることが役に立たないはずがない。電磁気学や量子力学の発展がなかったら、そもそも現代の我々の生活は成り立たない。しかし、今の研究者は「役に立つ」ことを数年単位で求められる。

「本来は、研究の評価には10年、20年といった長い時間が必要です。特に日本人は、時間軸が短くなっているようです。変化の激しい時代の中で、日本中が10年後、20年後を考えることが苦手になっていると感じます」(大隅氏)

 その影響をダイレクトに受けているのが基礎科学だ。研究費を獲得するには評価されなくてはならない。そのプレッシャーの中で、自らのライフワークを持つこと、20年、30年、志を変えずに研究を続けることが難しくなっている。 【次ページ】国には全然頼れない「基礎科学者の実情」
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