- 2025/11/19 掲載
【独占】ノーベル賞受賞者・大隅氏が嘆く、地方大学で「禁句」となった基礎科学の惨状(3/4)
連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション
国には全然頼れない「基礎科学者の実情」
さらに大隅氏が指摘するのが、基礎ではなく応用の論理でサイエンスを評価することの弊害だ。「最初に目標を立てて、その目標に対して○%達成したと評価するのが、その典型です。サイエンスでは目標は変わります。思いもかけない新しい展開があり、そこから革新的な発見があったとしても、それが目標に書かれていなければ評価されないのです。これは、大きな問題だと思います」(大隅氏)
だからこそ、大隅氏は「国に頼っていたらダメ」と強調する。国のプロジェクトでは、前述のように目標や進ちょくが重視され、目標から外れた意外性は重視されない。
「目標から離れたところ、思いもかけない意外性にサイエンスの大切さ、エッセンスがあることを理解してもらいたい、国にもそれに気付いてもらいたいという思いも、この財団を作った理由の1つなのです」(大隅氏)
現実に、財団の資金の6割強は、国の支援を受けられない基礎科学者の助成に使われている。
基礎科学が禁句になった「地方大学の惨状」
それだけでない。日本の大学は、この十数年で恒常的な運営資金である運営費交付金が毎年削減され、大変貧しい状態に陥っている。安定的な講座費が廃止され、すべての研究費や運営資金までもがプロジェクト的な競争的な資金となり、大学運営を長期的な計画で進めることが困難になっている。特に地方の大学は惨たんたる状況だと、大隅氏は次のように述べる。「運営費交付金から研究費として自由に使える金額が年10万円に達しない研究室はいくらでもあります。地方大学は教育のために存在し、研究は研究者の趣味という位置付けなのでしょう。研究するなら、時間のあるときに自分でお金を稼いでやってください、ということなのです。こんな状況で『基礎科学をやりたい』などと、とても言えません。地方の大学にとって『基礎科学』はもはや禁句なのです」(大隅氏)
地方大学の現場を知らないビジネスパーソンにとってはショッキングな話だが、これが現実なのだ。さらに大隅氏は、次のように続ける。
「このままでは、基礎科学の多様性が失われます。たとえば、ウイルスの研究室でウイルスそのものを研究している人はほとんどいません。しかし、ウイルスが侵入した後の免疫について研究している人はたくさんいます。そちらのほうが研究費を得られるからです。しかし、ウイルスそのものが分からなければ、免疫ばかり研究しても発展はないでしょう。バクテリアについても同様のことが起きています」(大隅氏)
したがって、大隅氏は「守るべき研究は、しっかりと大学の中に残していかなければならない」と指摘する。すべてを守ることは難しいかもしれない。しかし、失われると困る研究、いったん失われたら取り返しがつかない研究を守っていくことを、研究者や大学関係者、そして国は、しっかりと議論すべきではないだろうか。 【次ページ】国ではなく「企業と新たな関係」を構築へ
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