• 2025/12/17 掲載

【独占】大手13社と学者100人が集う「謎組織」の正体、当事者2人に聞く微生物学の逆襲(2/3)

連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション

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【なぜ今必要か(1)】グローバル化で激変「企業との関係」

 微生物コンソーシアムの発想の根底には、大隅氏自身の経験がある。若い頃、ある企業が、共同研究による応用の研究ではなく、大隅氏の基礎研究そのものを支援してくれた。そこでは、企業側と大隅氏がことあるごとに議論を行い、多くの気づきを得るwin-winの関係が構築できた。この経験から大隅氏は、「企業との良好な関係が基礎科学を育む」との確信を抱くようになった。

「一昔前は、企業と基礎科学者が盛んに交流し、一緒になって活発に議論を交わす環境がよく見られました。こうしたことが日本のサイエンスを押し上げてきたと思います」(田中氏)

 しかし近年、その関係性は大きく変化した。グローバル競争の激化により、企業の間では経営のスピードが求められるようになり「基礎研究はベンチャーが芽を出したら買収する」といった短期志向が広がり、長期的な基礎研究への投資意欲は低下した。

 さらに、大学法人化や研究費削減により、基礎科学者の環境も厳しさを増している。長期的なテーマを自由に議論する余裕は失われ、研究者同士が壮大なビジョンを語る場面も減少している。

「成果を出すことへのプレッシャーが強まり、研究テーマは狭まりがちです。他の研究者と議論をする時間も減ってきていると感じます」(田中氏)

【なぜ今必要か(2)】日本だけ…?「軽視される」微生物学

 微生物コンソーシアムが設立された背景には、企業とアカデミアの関係性に加え、日本の微生物学が抱える固有の課題もある。

 20世紀後半、DNA解読をきっかけに「分子生物学」が急速に発展すると、多くの研究者は大腸菌という扱いやすい材料を用いて研究を進め、基礎原理を次々と明らかにした。その結果、微生物研究は大きな進展を遂げたものの、研究者の関心は「人間」に代表される高等生物へと移り、微生物への関心は次第に限定的となっていった。

「人類はまだ地球上の微生物の1%しか培養できていません。微生物には依然として多くの未解明な基礎原理が残されています。大隅先生もこの点を繰り返し強調されています」(田中氏)

 国際的に見れば、微生物学は基礎科学の中核である。米国微生物学会(ASM)は基礎から応用まで幅広い分野を束ね、国際的な場で社会課題解決に向けた発信を行うなど強い存在感を発揮している。これに比べ、日本では微生物学が医学や薬学などの応用分野の一部にとどまり、独立した学問領域としての位置付けが弱い。

 さらに、日本の大学における微生物学者は医学部、薬学部、理学部、工学部、農学部などに分散しており、ASMのような基礎から応用までを統合する大規模な組織は存在しない。そのため分野の違う微生物学者同士が交流し、議論を深める機会は限られ、社会や政府への発言力の低下や研究費配分の不利にもつながっている。

「大隅先生はノーベル賞受賞の際、『微生物から起点となる研究が数多く生まれ、本当に微生物には助けられた』と語っています。微生物コンソーシアムの設立には、『微生物の研究を盛り上げなければいけない』という先生の強い思いが込められているのです」(田中氏)

 こうした状況を打開するために構想されたのが微生物コンソーシアムである。物理的な研究所を新設するのは資金面やコロナ禍で難しかったため、まずはオンラインを中心とした「バーチャル研究所」として出発した。そこでは企業とアカデミアがフラットに議論を交わし、相互に刺激し合う環境が整えられている。 【次ページ】【成果】光合成研究が「3億円プロジェクト」に採択
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