- 2025/12/17 掲載
【独占】大手13社と学者100人が集う「謎組織」の正体、当事者2人に聞く微生物学の逆襲(3/3)
連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション
【成果】光合成研究が「3億円プロジェクト」に採択
「光合成を行う微生物は、緑色だけでなくさまざまな色素を持ち、光環境に適応しています。これは光を感知するタンパク質によるもので、色だけでなく光の強さも識別できます。応用研究が盛んな分野ですが、私はあくまで基礎研究として探究を続けています」(成川氏)
成川氏は2022年4月に設置された「光合成」グループのリーダーを務めている。同じ分野を研究する微生物学者が集まり、基礎研究を軸に交流を深めている。
「微生物コンソーシアムの活動を通じて、さまざまな微生物学者と知り合うことができました。そのつながりが、国の大型研究資金の獲得にも結びついたのです。コンソーシアムに加わったことは、私にとって非常に大きな財産になっています」(成川氏)
このネットワークがきっかけとなって、成川氏は複数の研究者と新たなチームを結成し、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が実施する競争的研究資金「CREST(クレスト)」に挑戦した。研究費最大3億円規模の大型プロジェクトで採択率は極めて低いが、成川氏は2度目の挑戦で採択を勝ち取った。
分断されがちだった微生物学者が結びつき、国家規模の研究へと発展したこの成果は、まさに微生物コンソーシアムの意義を体現している。
企業とアカデミアの間で生まれた「相互触発」
微生物コンソーシアムを通じて、アカデミア同士の交流だけでなく、企業とのネットワークも着実に深まりつつある。成川氏が率いる光合成グループの定例会には、アサヒ、キリン、味の素、横河電機などさまざまな企業が参加する。アカデミアの研究者が最新の知見を紹介し、それに対して議論を交わす中で、企業側からも積極的にコメントが寄せられる。ときには予期せぬ意見が投げかけられ、研究者に新たな視点を与えることもある。
「光合成を行う生物は、強すぎる光を熱に変換して逃す性質を持ち、特に低温時にその傾向が強まります。これに対して企業の方から『その熱で細胞を温め、低温から身を守っているのではないか』という、私たちが考えもしなかった意見が寄せられました。他の研究者からも関心を集める発想であり、新たな可能性を示唆するものでした」(成川氏)
企業側でも、微生物コンソーシアムで得た刺激や情報から、新たな発想や研究開発のヒントが得られている(本連載シリーズの別の機会に紹介する)。異なる立場からの視点が交わることで議論は広がり、研究に新しい切り口が生まれていく。こうしたやり取りは、まさに企業とアカデミアの「相互触発」を体現するものだ。
「大切なのは、企業とアカデミアが共通のテーマに関心を持ち続け、議論を重ねていくことです。その積み重ねが双方にとって価値ある関係をつくるのだと思います」(成川氏)
微生物コンソーシアムの直接の目的は共同研究の創出ではない。しかし、ここでの交流を通じて新たな産学連携の芽が芽吹きつつある。微生物コンソーシアムがもたらした最大の価値は、「人と人をつなぐ力」にあるといえる。
課題は「テーマ設定の距離感」…
微生物コンソーシアムの設立からおよそ5年が経ち、これまでの歩みを田中氏は次のように振り返る。「設立したことで非常に大きなメリットがあったと感じています。まず議論できる相手の幅が広がりました。特に、企業に研究室のOBがいない研究者にとっては貴重な機会になっています。また、参加企業同士の間でも活発なコミュニケーションが生まれ、業種の垣根を越えたつながりが広がっています」(田中氏)
一方で、企業とアカデミアがより良い関係を築いていくためには、乗り越えなければならない課題も見えてきた。
「企業側では競合がいると情報を出しにくくなるため、多くの参加企業にとって価値があり、しかし機密事項を避けて議論が出来るような、テーマ設定の距離感が重要です。」(田中氏)
何より重要なのは、立場を超えて「社会にとって何が重要か」を共に考えるスタンスだと田中氏は話す。
「相互触発」を軸に企業とアカデミアを結び付けてきた微生物コンソーシアム。戦後の日本の基礎科学を支えたような産学のつながりを再び築くことができれば、基礎科学のさらなる発展につながるだろう。その成果は社会課題の解決や産業競争力の強化にも貢献し、可能性は今後さらに広がっていく。
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