• 2025/12/24 掲載

決算好調「花王」の凄すぎる開発力の根源、「地味に見える」微生物学を超重視するワケ(2/3)

連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション

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「触発」を生んでくれる微生物コンソーシアム

 微生物コンソーシアムは、公益財団法人大隅基礎科学創成財団(以下、大隅財団)が2020年に立ち上げた産学連携の新しい枠組みである。参加するのは花王をはじめとした大手企業13社の研究者約50人と、100人を超えるアカデミアの基礎科学者たちだ。物理的な研究所を持たない「バーチャル研究所」などの活動を進めており、定期的にオンラインとオフラインによるコンソーシアムを開いて自由に議論を交わしている。

 従来の産学連携は企業の研究開発をアカデミアが支援する形が中心だったが、基礎科学の発展には必ずしも直結しない。一方日本の基礎科学は、上位論文数のデータなどから、停滞が指摘されている。これに対し、微生物コンソーシアムは基礎科学の振興そのものを目的とし、企業とアカデミアの「相互触発」を重視している点が特徴である。

 コンソーシアムでは、大隅財団理事長でありノーベル生理学・医学賞受賞者の大隅 良典氏が選んだ5人の基礎科学者のリーダーが、最先端の基礎研究者を招聘し、議論、研究を進めている。コンソーシアムは企業研究者がフラットに意見交換でき、ネットワークを広げる機会となる。基礎科学者も企業の意見から刺激を受けることが多く、この「相互触発」こそが新しい産学連携のモデルとして注目されているのだ。

 花王は設立当初からこの取り組みに加わり、基盤技術研究を深化させる新たな知の源泉として活用してきた。では具体的に、どのような「知」を得ているのだろうか。

瀧村氏が強調する「アイドリング状態」とは

 花王が微生物コンソーシアムに参加した理由について、瀧村氏は次のように語る。

「研究開発を通じて社会課題の解決に貢献していきたいという思いがある中で、既存の研究開発の延長ではどうしても到達できない課題があります。これに届くためには、自分たちとは異なる視点から知見を得ることが重要であり、それによって思わぬ効果が生まれ、イノベーションにつながると考えています」(瀧村氏)


 花王は、社内で“まじめな雑談”という言葉を定着させ、相互触発を組織的に引き起こしている。そこでは、研究者同士が意図せず新しい発見や気づきを得ている。そのため、普段は接点の少ない企業研究者とアカデミアが交流し、フラットに議論できる微生物コンソーシアムは、まさに格好の場だったのだ。

 瀧村氏が強調するのは、課題に直面してから解決策を探すのでは遅いという点だ。日常的に感度を高める「アイドリング状態」を保つことで、同じ現象を見ても新しい発想が生まれやすくなる。

「バーチャル研究所というスタイルによって、お互い同じ研究室にいるメンバーのようにも感じられ、いつでもフラットに話ができることは魅力です。日頃の感度を維持する場として非常に貴重だと考えています」(瀧村氏)

敵であり味方…「微生物研究」を重視するワケ

 花王にとって微生物は、事業活動の幅広い領域に関わる存在である。美容や健康の分野では皮膚常在菌や腸内細菌の理解が製品開発につながり、臭気や香料研究にも欠かせない。洗浄分野では1987年に発売した洗剤「アタック」に微生物由来の酵素「アルカリセルラーゼ」を配合し、洗浄力を飛躍的に高めた実績がある。

「私たちの研究分野はもちろん、身の回りのさまざまな場所で微生物は関係しています。微生物は“味方”にも“敵”にもなり得る存在です」(瀧村氏)

 “敵”という観点では、製造現場において微生物がリスクの要因になり得る。配管や装置の死角で菌が蓄積し、コンタミネーションを引き起こすことがあるのだ。

 その際には研究部門と生産部門が協力し、原因菌の特定や洗浄方法の設計に取り組む。微生物は価値を生む一方でリスクにもなるため、その両面に対応する姿勢が欠かせない。

 こうした課題は花王に限らず多くの産業分野に共通するものであり、基礎研究を通じて知見を深める必要がある。だからこそ花王にとって、微生物分野の基礎研究は不可欠なのである。 【次ページ】失われつつある「遊び心」を取り戻す
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