- 2025/12/24 掲載
決算好調「花王」の凄すぎる開発力の根源、「地味に見える」微生物学を超重視するワケ(3/3)
連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション
失われつつある「遊び心」を取り戻す
瀧村氏は、微生物コンソーシアムに参加して得られた効果についてこう語る。「アカデミアや企業の研究者と出会う中で、大きな刺激を受けています。花王の研究メンバーも、自身のテーマを整理したり、新たな発想を得たりするのに役立っていると話しています」(瀧村氏)
研究者本人から直接話を聞くことは、論文を読むよりも理解が深まる。花王では微生物コンソーシアムの定例会に参加できなかった場合でも、後日配信される内容を社内で共有し、普段の環境では得にくい視点を取り込んでいる。
「アカデミアの先生が持つ純粋な探究心には、たびたび共感させられます。企業とは目指す方向性が異なるかもしれませんが、どこかでつながっていると実感できる。私にとって、それが“触発”なのだと思います」(瀧村氏)
企業側の研究者はどうしても「自社に役立つ」という視点で研究を見がちだが、基礎科学者は実利をあまり意識せずに「知りたい」という欲求を基に探究を進める。その姿勢は効率化が進む企業の研究に欠けがちな「遊び心」を思い起こさせる。かつては偶然の現象に好奇心を抱き、寄り道が新しい発見につながることもあったが、近年はそうした過程が失われつつある。
基礎科学に触れる刺激は、忘れかけていた研究の醍醐味を呼び起こす。微生物コンソーシアムは、その感覚を取り戻す場であり、そこから生まれる「触発」がイノベーションの源泉となる。
しかし日本の微生物学は、独立した学問領域としての存在感が弱く、医学や薬学の一部として扱われがちである。研究者も大学の各学部に分散し、分野横断的な議論の機会は限られている。
瀧村氏は「微生物学の発展に、間接的にでも何かしら関われたらという思いがあります」と語る。微生物学を活用するだけでなく、学術の発展に寄与することも企業の責務と考え、その一環として微生物コンソーシアムに参加している。
今後も企業とアカデミアが連携し、基礎科学を発展させて社会課題の解決へ結びつけていくことが期待される。微生物コンソーシアムは、その未来を実現するモデルとして重要な役割を果たすだろう。
【大隅氏コメント】発展の礎が築かれつつある
大隅財団は、基礎科学の振興、アカデミアと企業の新しい関係の構築を2つの柱として、この9年間活動を続けてきた。さらに、研究にもう一歩踏み込んだ活動として、微生物コンソーシアムが6年目を迎えている。
伝統的な領域であった微生物学が、多数の学部に分散し拠点を失っている現状を打破しようと、関連企業の協力の下にバーチャルな研究所を目指してきた。参加企業は微生物を直接扱う企業にとどまらず、計測器メーカーなど多様である。
4つのグループがそれぞれ課題を設定し、グループごとに年6回開催する定例会と全グループ合同の全体会が年3回行われている。さまざまな最新の研究に関して話題提供と議論がなされている。このような地道な活動が長期間、継続していることは、極めて価値のある取り組みと言えるだろう。
その中からプラスミドデータベースの構築事業が提案され、順調に進められていることも特筆すべきことである。さらなる発展にはいくつか課題があるが、参加者が微生物に対する広い視野を得られていることに関して将来の発展の礎が築かれつつあると確信する。
大隅財団寄付ページ:https://www.ofsf.or.jp/SBC/2310.html
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