- 2025/12/05 掲載
伊藤忠は大幅増益で三菱商事は株価急落ーー総合商社5社決算まとめ 「資源の次」は?(2/2)
5社のうち「三井物産だけが上方修正」のワケ
通期ガイダンスを見ると、三菱商事は2026年3月期通期の親会社の所有者に帰属する当期利益予想を7,000億円とし、従来計画を据え置いた。前期比では26%程度の減益見通しで、前年の一過性要因の反動を織り込んだ水準となった。三井物産は上期の力強い進捗を受けて通期の当期利益予想を8,200億円へと500億円上方修正した。金属資源、エネルギー、機械・インフラの各セグメントが事業計画を上回るペースで進捗していることが背景にある。
伊藤忠商事は、通期の当期純利益予想を9,000億円(前期比2.2%増)とし、前回予想から据え置いた。収益は横ばい圏ながら、有価証券売却を含むポートフォリオ運用やコンビニ・金融など非資源ビジネスの成長で、安定的な利益成長を見込む。
住友商事は、2026年3月期の親会社の所有者に帰属する当期利益見通しを5,700億円とし、前回予想を据え置いた。前期実績5,621億円に対し1.4%増益の計画であり、資源市況の下振れリスクを見つつも、自動車、都市開発、メディア・デジタルなど非資源セグメントの拡大で利益を積み上げる。
丸紅は、通期の親会社の所有者に帰属する当期利益予想を5,100億円とし、中間決算時点で変更していない。上期で進捗率6割近くまで来ていることから、下期の市況動向によっては上振れ余地も意識される局面だ。
三井物産が最も強気で、他4社は「慎重ながら堅調」といったスタンスがにじむ。資源価格のボラティリティをにらみつつも、非資源ビジネスが一定程度の下支え機能を果たしているといえる。
収益多様化の「次の主戦場」とは?
5社の決算からは、次の主戦場が改めて浮かび上がる。三菱商事は、フィリピンのフィンテック企業Globe Fintech Innovations(モバイル決済サービスGCash運営)への出資など、デジタル金融への投資を拡大している。LNGや電力ソリューションといったエネルギー事業と並び、デジタルを絡めた新サービスを成長ドライバーと位置付ける。
三井物産は、グループ全体のDX総合戦略を掲げ、IT戦略子会社を軸にデジタル人材の内製化を加速している。2026年3月期にはDXビジネス人材を1000人以上に増やす計画を打ち出し、生成AIを含むデジタル技術の活用で既存事業の高度化と新規ビジネス創出を狙う。
伊藤忠商事は、ユーザー系SIer大手の伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)を中核とするIT子会社群を抱えつつ、コンビニ「ファミリーマート」と決済アプリ「ファミペイ」を起点にしたデータビジネスを拡大している。
2026年3月期の決算分析でも、約1兆円規模の成長投資が200億円程度の利益押し上げ要因になるとの試算が示されており、消費者接点とITを組み合わせた「川下」強化が特徴だ。
丸紅は「情報ソリューション部門」を設け、デジタル技術による在庫最適化や物流効率化など、サプライチェーン全体の改善につながるソリューションを提供する。電力・インフラやライフスタイル事業と組み合わせることで、非資源ビジネスの付加価値向上を図っている。
住友商事は、SCSKの完全子会社化(TOB)を発表。メディア・デジタルセグメントを通じて通信・放送・デジタルプラットフォームへの投資を継続しつつ、米国ヘルスケアなど非資源の成長市場に資本を振り向けている。中間決算では、自動車や不動産に加え、こうした非資源分野の拡大が資源市況の逆風を吸収する形となった。
総じて、5社は資源ビジネスのボラティリティを前提に、IT子会社やデジタル投資をテコにした非資源ポートフォリオの拡充を進めている。2026年3月期中間決算は、その成否を占う「中間報告」として、資源価格の波をいかにいなすかだけでなく、非資源領域をいかに「もう一つの柱」に育てるかという次の競争軸を浮き彫りにしたと言える。
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