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- 2013/05/07 掲載
マッキンゼー ポール・マクナーニ氏:ビッグデータ活用を競争力にする4つの優先課題
アマゾンの投資額は競合の3~4倍
いかに全社レベルの成果へと結び付けるかが大きな課題
たとえば昨年の米国小売業界では、あるEコマースの企業がそれまでに1つや2つしか売れていなかった、いわゆるロングテールの商品を4週間かけて分析し、“どの商品を、どんなユーザのトップ画面に表示させればいいか”を検討したところ、従来とは異なったやり方が見つかり、それによって約1000億円の収益向上の機会があることが分かった。その後、約2か月をかけて検証を進めていく中で、その30%を実現したという。
またある銀行では、店舗窓口で来店客に勧める投資信託の商品を、担当者が相手の話を聞いて、机上の端末にその情報を入力しながら動的に提案するという取り組みを行ったところ、照会できる件数が2倍以上に増え、支店の収入が3~5%アップしたという。
「データ活用の取り組みを限定的に行う場合、最近ではさまざまな手法が磨かれてきて、ツールもよくなってきたことで成果が出始めている。問題はどうすれば、そうした個別事例から会社全体の収益や利益に大きなインパクトを与えられる施策に結び付けるか、ということだ。」
アマゾンのビッグデータ技術への投資額は、競合他社の3~4倍
たとえば英国の大手スーパーチェーンのテスコは、ここ1年は頭打ちになっているものの、32%という圧倒的なトップシェアを占め、1999年から2009年の10年間で売上は12%、EBITDAは11%伸びている。これに対して競合他社は各々6%、3%の伸びだ。
「英国は決して容易な市場ではなく、4強で市場を取り合っているが、テスコはずっと一人勝ち。ビッグデータをうまく活用して、圧倒的な競争優位性を身に着けた。」
同社は1994年にクラブカードを導入し、顧客一人一人の売上データを追跡をできるようにした。以降、経営判断が求められる多くの場面でデータを活用してきており、今では棚割りや店舗立地も含めて、売上の80%に関わる意思決定にクラブカードで補足したデータを活用している。1994年からの約15年で、営業利益は約6倍にもなっているという。
「通常クラブカードのデータといえば、ダイレクトメールを送るといった場面での利用が頭に浮かぶが、ここでのポイントは、それはほんの一部で、あらゆる経営判断にデータを活用しているということ。」
またアマゾンは、この10年間の売上は実に24%、EBITDAは22%の伸びを示しており、これに対して競合他社は各々マイナス1%、マイナス15%となっている。
「米国には、総合小売でネットスーパーも展開する主な企業としてウォルマートやシアーズがあるが、ウォルマートで17%、シアーズで12%伸びたのに対して、アマゾンは2011年の1年間で46%もの成長率を記録した。圧倒的なシェアトップの企業は若干頭打ちになる傾向があるが、アマゾンに限っては当てはまらない。売上自体にも約4~6倍の開きがある。」
この背景にあるのは、何といってもビッグデータ技術への集中投資だ。一般的な小売業の技術投資額は、売上高の約1.5~2%だというが、アマゾンの場合は実に5.7%にもなるという。
「アマゾンの投資の対象となるのは、お薦め商品を表示するコラボラティブフィルタリングや顧客サービスシステムで、後者については業界平均の44%に対して90%を自動化している。また効率的なサプライチェーンを構築し、最適な配送パターンを採ることで物流コストを3~4%削除し、さらには競合他社の価格情報を自動的に収集、解析しながら価格改定をしていくアルゴリズムも実現している。」
ここで非常に興味深いのは、お薦め商品の表示スペースはトップページに5つ程度しかないが、そこに表示させる情報をパフォーマンスを見ながら随時更新するプロセスを構築することで、実際に売上を大きく上げてきているということだ。
「2000年の時点でレコメンデーション系の売上は全体の5%といわれていたが、それが今では35~36%も占めるようになっている。アマゾンは全世界で約6兆円の売上規模だが、レコメンデーションだけで約2兆円、日本の総合小売では3位か4位につけるぐらいの売上規模を、全体比率の非常に小さな画面スペースから生み出している。」
さらに価格がダイナミックに自動変動するアルゴリズムを実現することで、米国のサイトは競合他社と比較して大体5%程度、一定して商品価格が安いという。
「これも大きな競争優位に繋がっている。競合他社は多くの場合、大事な商品に絞って、人が価格を見ながら安くするという作業を地道にやっているが、いくら頑張ってもすぐに価格は動かない。」
【次ページ】ビッグデータ活用で成功するための4つの優先課題
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