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  • 2013/11/18 掲載

手嶋龍一氏が語る、ビジネスリーダーに求められる「インテリジェンス」と「戦略眼」

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外交・安保問題の第一人者で、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授もつとめる外交ジャーナリストの手嶋龍一氏は、大きな情勢をやや保守的な立場から読み解く1つの視点として、「インテリジェンス」の重要性を指摘する。いま日本では日本版の国家安全保障会議、いわゆる日本版NSCの設置が検討されているが、国でいえばNSCから得られる選りすぐられた情報、即ちインテリジェンスがリーダーの決断を誤りなく導く拠り所なのだという。手嶋氏は、グローバルでの新たな動きを読み解くとともに、リーダーたちの決断、それを支えたインテリジェンスを確立する体制づくりについて、「日立イノベーションフォーラム 2013」で言及した。

フリーライター 井上 猛雄

フリーライター 井上 猛雄

1962年東京生まれ。東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにロボット、ネットワーク、エンタープライズ分野を中心として、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書に『キカイはどこまで人の代わりができるか?』など。

日本人が考えてこなかった“インテリジェンス”の重要性

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慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科 教授
外交ジャーナリスト
手嶋 龍一 氏
 手嶋氏が教壇に立つ慶應義塾大学大学院のシステムデザイン・マネジメント研究科は、同大学が150周年を迎えるにあたり、いま創設者である福沢諭吉がつくるとしたらどんな学科をつくるのかと考えて創設されたものだ。そこでは、コンピュータのエンジニアリングだけでなく、化学プラントも原子力プラントも、東京証券取引所も、外交関係も、理系と文系の枠を取り払い、巨大なシステムをつくりあげて、それをマネジメントするといった取り組みを行っている。

 そこで手嶋氏は、大きな情勢をやや保守的な立場から読み解く1つの視点として“インテリジェンス”について教えている。いま日本では日本版の国家安全保障会議、いわゆる日本版NSCが検討されているが、本家の米国では大統領という最後の決断を委ねられた人物の決断を、誤りないように導いていく、その拠り所となるものが米国版のNSCなのである。

「日本でもそうですが、米国の大統領の決断を誤りなく導く拠り所といえば、選りすぐられた情報です。それを我々の言葉でいえば、文字通り“インテリジェンス”になるのです」

 半世紀にわたって、日本では“インテリジェンス”についてまったく考えてこなかった。NSCをつくっても、その中に入れる人材がいない。これもまた日本という国の、従来でいえば幸せな、しかし昨今ではあまりにも危うい現状なのである。

 手嶋氏はこの“インテリジェンス”で世界の変化の情勢を読み解き、近未来を予測してみせた。

インテリジェンス力で勝ち取った東京オリンピックの果実は安全保障

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 まず、2020年に東京オリンピックの招致が決まった。手嶋氏はこれが単にアベノミクスの「第4の矢」に留まらず、実はもっと大きな文脈の中で捉えなければいけないものと指摘する。

「おそらく、後の歴史家が2020年の東京オリンピックを振り返り、“これが東アジアとアジア半球の安全保障を考える上での大きなターニングポイントになった”ということになるでしょう。表現を変えていうと、まさに動乱の東アジア情勢というものが、この2020年の東京オリンピックを、いわば人質にとった形になったんだと考えてよいと思います。オリンピックは国際政治を映し出すみごとな“かがみ”になっています」

 というのも、中国は日本の固有の領土である尖閣諸島を奪取する構えでいる。ところが2020年の東京オリンピックを見据えて、平和の祭典であるべき主催者の日本の領土の一部を侵略できるのか?となると、中国の強硬派もひるむ可能性がある。

 実は過去、東京オリンピックの開催は3回あった。1940年に東京オリンピックが開催されることになっていたが、日中戦争の深まりと、ナチス軍のポーランドへの電撃的な侵攻があって、これが流れてしまった。その点で言っても、東京オリンピックは国際政治を映し出すかがみになっているわけだ。

 そして、日本がオリンピックの招致を勝ち取れたことは単なる偶然の賜物ではない。よく知られているように、オリンピック招致にあたって、日本は立候補に名乗り出た各国と熾烈な戦いを演じた。手嶋氏は「競合であるイスタンブールとマドリードの票読みや対外戦略などが見事に効を奏したのは極秘情報の分析力、まさに“インテリジェンス”の力だった」と振り返る。

 というのも、オリンピック招致争いには戦争の影も散らついていた。それがシリアのアサド政権下による化学兵器の使用をめぐるものだ。オバマ政権は当初、化学兵器の使用を根拠にシリアに対して武力行使に望もうとしていたが、盟友である英国のキャメロン政権は参戦に反対。さらに国連も難色を示し、米国上下両院の決議もできない状況になった。

 このオバマ大統領の苦境をじっと見ていたのがロシアのプーチン大統領だった。米国がシリアに攻撃をすれば、新たな戦争が誘発されることになる。ロシアはソチでのオリンピックを来年に控えており、国際テロリズムを押さえる必要がある。オリンピックをやり抜くことは、ロシアの威信にかかることであり、どうしても米国の攻撃を阻みたいという思いがあった。

 そんな最中に実現したのが安倍・プーチン会談だった。しかし、当時のプーチン大統領はシリア情勢で頭がいっぱい。一方でロシアはオリンピック選考について手固い票田を握っていたので、日本はそれを欲していた。

「米国のシリア攻撃に至る準備の中で、日本政府、特に外務省は米国の武力攻撃を早々に支持することを表明しました。その後イギリスが脱落し、国連安保理の情勢も不透明で、米国内での議決も取れない状況になりました。彼らの票読み、情勢判断は誤っていたのです。安倍政権としても、もう彼らの言うなりにはできないと思い、米国と距離を置きながら、この会議に臨んだのです。それを見て、プーチン大統領は安倍総理を骨がある奴だ、と思うようになったのです。」

 もちろんプーチン大統領はそう簡単に日本に票をやるとは言わない。しかし、「安倍さんは(会談後に)どうやらもらったと読んだ。僕も今回は、それ(プーチン大統領と安倍首相の会談)で大半の票が東京に来たと思います。」

 それを裏付けるかのように、プーチン大統領は東京でのオリンピック開催が決まったあと、真っ先に安倍総理に祝電をかけた。その電話で安倍総理は自ら進んでシリアにおけるプーチン提案を積極的に支持すると言った。

「いまや安倍さんとプーチン大統領は、米国や他国との関係をはるかに凌ぐものになった。ですから北方領土問題の解決は簡単ではありませんが、少なくともそのトゲを抜く兆しがあると言ってよいかと思います」(手嶋氏)

【次ページ】大きな決断を誤らないグローバル企業は「インテリジェンス・サイクル」がまわっている

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