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  • 2015/11/20 掲載

人間の心にすむ「思い込み犬」とは? ビジネスパーソンの精神衛生学

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ポジティブ心理学と呼ばれる分野に通じた筆者は、ビジネスパーソンのメンタル面の課題とその解決を論じて、「レジリエンス」という概念を用いる。弾力、復元力、といった意味を持つ言葉である。心に弾力がある、つまり、精神的に疲弊しても、しなやかに健康を取り戻せるような能力ということだ。そうした心の持ち方ができるのはなるほど望ましいだろうが、心のありようは結局、人それぞれなのではないか、とも思える。しかし筆者は、レジリエンスは誰でも身に着けることができる、と説く。

ポジティブサイコロジースクール代表 久世浩司

ポジティブサイコロジースクール代表 久世浩司

ポジティブ サイコロジー スクール代表。慶應義塾大学卒。P&Gにて、高級化粧品ブランドのマーケティング責任者としてブランド経営、商品・広告開発、次世代リーダー育成に携わる。その後、ポジティブ心理学、及びレジリエンスを活用した人材育成に従事。NHK「クローズアップ現代」で「折れない心の育て方・レジリエンスを知っていますか?」にてレジリエンス研修が放映された。著書に『「レジリエンス」の鍛え方』『親子で育てる折れない心 レジリエンスを鍛える20のレッスン』(実業之日本社)『なぜ一流の人はハードワークでも心が疲れないのか』(SBクリエイティブ)がある。認定レジリエンス マスタートレーナー。

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「レジリエンス・トレーニング」とは?

 レジリエンスの高い人は、ハードに働きながらも、心が疲弊することが少ないというのが私の考えです。では、仕事で成果を出すことを求められている人に必要なレジリエンスは、どうすれば身につけることができるのでしょうか?

 実は、レジリエンスの力は誰にでもあるものです。逆境を乗り越える力、困難に負けない強さは、多少のレベルの違いはあれ、私たちに内面に備わっているのです。要は、それを引き出して、必要に応じて発揮すればいいのです。

 さらには、レジリエンスの力は強化することもできます。過去30年以上にわたる研究でも「レジリエンスは習得可能である」ことがわかってきました。これは私のようなもともとレジリエンスを充分に発揮できずに仕事で苦労していた者にとっては朗報でした。

 その逆境力を鍛えるために開発されたのが「レジリエンス・トレーニング」です。私が講師として教えているレジリエンス・トレーニングは、欧州を代表するポジティブ心理学者であるイローナ・ボニウェル博士が開発した、長年のレジリエンス研究に加え、鬱病の治療に効果がある認知行動療法と21世紀の心理学の新潮流であるポジティブ心理学、そしてPTG(トラウマ後の成長)の研究が統合されたプログラムです。

 このトレーニングには、皆さん非常に積極的に参加します。逆境力を身につけて仕事の能力をアップすることが目的なので、前向きな気持ちが生まれる。研修を受けた後は、皆さん驚くほどイキイキとした表情に変わります。ポジティブ心理学の手法を活用したワークによる体験学習の結果です。

「ストレスに対処する新しい方法に気がついた」

「逆境も悪くないかもしれないと思えるようになった」

「自分の感情と思い込みのクセがわかった」

「自分では気づかなかった強みを発見できた」

「今までの自分を俯瞰することで、過去の出来事の意味づけができた」

「科学的根拠に基づいた手法のため、すんなり入ってきた」

 といった前向きなコメントが、このトレーニングの参加者からは聞かれます。そして新たな技術を習得して、仕事に挑むのです。

精神的な落ち込みを「底打ち」する

 失敗やストレス体験を克服し、変化に適応するグローバルスタンダードのレジリエンスには、3つの段階があります。これを私は「レジリエンス1‐2‐3ステップ」と呼んでいます。それぞれの段階で必要な技術を習得することで、誰にでもレジリエンスの能力は獲得することができます。

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レジリエンス1-2-3ステップ
 では、そのステップを理解してみましょう。

 1つめが「底打ち」です。私たちは失敗するとストレスを感じ、精神的に落ち込んでしまいます。それは、不安や心配などのネガティブな感情が原因となった悪循環です。まるで渦巻きに巻き込まれて海の底にずるずると落ちていくような憂鬱感やイライラが延々と続き、怒りの感情がいつまでたっても収まらない苦しさを感じます。

 この「ネガティブ連鎖」を断ち切らないことには、レジリエンスの次の段階には進めません。ここでは、ネガティブな感情の悪循環からどうすれば脱出できるのかを学びます。

スムーズな「立ち直り」を図る

 2つめが「立ち直り」の段階です。精神的な落ち込みを底打ちすることができたら、次は元の心理状態へ回復することが目的となります。レジリエンスの強い人は、失敗や挑戦を恐れません。うまくいかずにつまずいても、すぐに立ち直ることができるからです。

 早期に立ち直るために欠かせないのが「レジリエンス・マッスル」です。これは再起のために必要な心理的な筋肉と言ってもいいでしょう。このレジリエンス・マッスルが普段の生活で鍛えられることによって、ストレスやプレッシャーに対する緩衝力となるだけでなく、逆境を乗り越えて前進する原動力となります。

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 そして3つめが「教訓化」です。困難を乗り越えて元の状態に回復した後に、過去の逆境体験を静かに振り返り、次につながる意味を学ぶ内省の段階です。ここで得られた教訓は、その後出合うチャレンジに活かされます。強くたくましく、賢く成長することができるのです。

 この教訓化は、焦るべきではありません。困難な状況を乗り越えた後に、気持ちに余裕ができてから振り返るほうがいいのです。まだ心の痛みが残っているときに内省して意味を見出すのは、難しいからです。

【次ページ】 ネガティブ原因となる「思い込み犬」とは?

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