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  • 2016/08/17 掲載

デジタル・ツインとは何か? GEが航空機エンジンの保守費用を大幅削減した方法

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さまざまな機器から収集されるデータを分析し、活用しようとするインダストリアル・データ・サイエンスの分野において、GEでは3つのアプローチ方法を定義している。1つめが、エンジニアリング技術をベースに理想的なモデルを作成する手法、2つめが各種機器類から得られるデータを活用してモデルをブラッシュアップしていく手法、そして3つめが、改善のためのルールや知見を経験的に発見する手法だ。「デジタル・ツイン」を実現するには、これら3つを組み合わせた分析が必要となるという。
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理想的な物理モデルと現実をどう擦り合せるのかが問題だ

インダストリアル・データ・サイエンスにおける3つのアプローチ

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インダストリアル・データ・サイエンスには特徴の異なる3つのアプローチがある
(出典:GE資料)

 インダストリアル・データ・サイエンスの分野で、GEがデータ分析/活用のアプローチとして定義する1つめの方法が、エンジニアリング技術のノウハウをベースに、理想的な物理モデルを作成する方法だ。GEデジタル エグゼクティブ・ダイレクターのアレックス・ロス氏は次のように語る。

「これは従来からあるアプローチ方法で、航空機エンジンを例に挙げれば、エンジニアリング技術を使って、1つの理想的な物理モデルを作成する。このモデルをベースに製造された実際のエンジンは、完成した瞬間は、燃費や推進力などの各種パフォーマンス指標も許容値内に収まっている。しかし利用が始まった途端に、個々のエンジンの性能や特性は、当初の物理モデルからはどんどん乖離したものになっていってしまう」(ロス氏)

 たとえば運航航路や整備方法の違い、あるいはパイロットの操縦方法の違いに起因するものだ。

「1つの一般化したモデルでは、あらゆる場面でのベストプラクティスを達成することは難しい。実際のモノがどんどん変わっていくからだ。このアプローチによるモデルの有用性には限界があるということ」

 そこで2つめのアプローチ方法として挙げられるのが、各種機器類から得られるデータを活用してモデルをブラッシュアップしていくやり方だ。

「インダストリアル・データ・サイエンスといった時にほとんどの企業が思い浮かべるのがこの手法だろう。大量のデータに数学的な処理を施して分析や予測を行うアプローチだ。最近ではマシンラーニングやディープラーニングといったAIが活用されている」

 しかしこの手法では、ある事象が過去に起こったことがない場合、将来そのような事象が発生することを予測することができない。また100%データ依存することになるので、それはどこから取得したデータか、ノイズのない完全にクリーンなデータを扱っているか、適切なタイミングでデータが使われているのかなどにも気を付ける必要がある。

「残念ながら、産業分野におけるデータ活用では、そうした前提条件が整っていない場合が頻繁にある。1つめのエンジニアリング的なアプローチもそうだが、このデータ駆動型のアプローチも、データのコンテキストを十分に踏まえた上で利用する必要がある」

 そして3つめのアプローチ方法が、経験的かつ試行錯誤的にルールや知見を発見する手法だ。

「オペレータインテリジェンスと呼ぶもので、各専門領域の人なら直感的に分かるノウハウがある。しかし大規模な形で活用することが難しい。個々人の頭の中にある場合が多く、また人の異動や転職で失われてしまうからだ。このオペレータインテリジェンスを今、色々な企業がアナリティクスに取り込んでいきたいと考えている」

 産業分野においてアナリティクスを行う際には、この3つのアプローチ方法のバランスをとって進めていくハイブリッド手法が求められることになる。

デジタル・ツインとは何か?なぜ高精度を実現できるのか

 ハイブリッドのアプローチを取ることで、極めて精度の高いモデルを作成することが可能となる。しかし実際のモノは経時的に変化していく。そこで最初のモデルをどのように扱っていくのかが、非常に重要となる。

「そこでGEが導入した概念が“デジタル・ツイン”だ」

 デジタル・ツインとは、工場や製造現場といった物理世界のできごとをデジタル上に再現する考え方のこと。デジタルの仮想空間と現実世界をまるで双子のように模倣することで、製造管理を高度化する。CPS(サイバーフィジカルシステム)に近い概念と言えるだろう。

 かつては物理的なプロトタイプを作り、そのモデルをコンピュータに取り込んで、有限要素法などの解析手法を使ってシミュレーションを行っていた。はじめに作ったモデルは基本的に変わることはなく、変わるのは入力値だけだ。

 先の航空機エンジンの場合なら、燃料の特性や外気温、砂埃といった吸い込み粒子の量などが入力値となる。最初のモデルに対して、こうしたさまざまな環境を想定したインプットを与えることでシミュレーションを行っていく。しかしモデル自体は変わらない。

「これに対してデジタル・ツインでは、一度シミュレーションした結果をモデルにフィードバックし、さらに従来のコンピュータシミュレーションが理論的な入力値だけで行われていたのに対し、現場で収集されるリアルなデータをインプットとして与えて、物理モデルに更新をかけていく」

 そのために飛行機にはさまざまなセンサーを取り付け、1フライトごとに収集された大量のデータをモデル更新のためのインプットとして与える。さらには過去の知見やノウハウから現状を推論する仮想データと呼ばれるものも与えて、モデル更新の精度をさらに高めていく。

「ハイブリッドのアプローチによって最初のモデルを作り、そこに各種センサーから得られるビッグデータをインプットとして与え、さらにオペレータインテリジェンスを投入する。これによってより現実に即したモデルを作ることが可能となり、このモデルをベースにさらに精度の高いシミュレーションを行うことができるようになる」

【次ページ】GEのデジタル・ツイン活用事例

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