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  • 2016/06/23 掲載

マイケル・ポーター教授が「IoTは過去のものになりつつある」と語る理由

ビジネスを左右するのは「顧客の成功」

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IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の登場は企業組織のあり方を根底から覆した。これにより、過去30~40年間続いてきた組織形態は変革を迫られている。今後は、これまでの組織論は通用しない──。こう語るのは、ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授だ。IoTは企業組織に対してどのように変化をもたらすのか。またIT部門の役割にどのような影響をおよぼすのか。事例を交えて大いに語った。

執筆:鈴木恭子、構成:編集部 松尾 慎司

執筆:鈴木恭子、構成:編集部 松尾 慎司

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ハーバードビジネススクール教授のマイケル・ポーター氏


価値となるのは「モノを通じてあらゆるデータが収集できる」こと

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 2015年10月、同氏は米国の経営学誌「ハーバードビジネスレビュー」に、「IoT時代の製造業(How Smart, Connected Products Are Transforming Companies)」という論文を発表した。同論文は2014年11月に発表された「IoT時代の競争戦略」の続編である。

 論文の前編で同氏は、IoTによって「モノ」の本質がどのように変化したのか、それによって企業間の競争がどのように変貌するのかを分析に言及した。一方、後編ではIoTの登場でもっとも影響を受ける製造業に焦点を当て、バリューチェーンの変化や組織形態に与えるインパクトについて言及している。

 米PTC主催の「LiveWorx 2016」の特別講演に登壇したポーター氏は、「IoT(Internet of Things)という言葉自体が過去のものになりつつある」と指摘する。インターネットはコモディティ化しており、珍しいものではなくなった。価値となるのは「すべてのモノがインターネットに接続できる」ことではなく、「モノを通じて、あらゆるデータが収集できる」ことだというのが、同氏の主張だ。

 データをインタラクティブにやり取りできる「スマート・コネクテッド・プロダクト(Smart Connected Product)」の登場で、特に変化を強いられているのが製造業だ。ポーター氏は、「スマート・コネクテッド・プロダクトは、製造業のサービスも含めたバリューチェーンを大きく変えた。そしてその影響は、企業内の組織形成と各部門の職務領域にもおよぼしている」と指摘する。

 スマート・コネクテッド・プロダクトが登場するまで、企業はマーケティング、製造、カスタマーサービスといった職能別ごとに組織を編成していた。各部門の役割は明確化しており、データの活用用途は部門単位で決まっていた。他部門と連携する場合には、それぞれが有する情報を整えて、共有するプロセスが必要だったのである。

 しかし、スマート・コネクテッド・プロダクトの登場で、この様相は一変する。プロダクトから収集されたデータは、あらゆる部門で活用されるようになった。たとえば、カスタマーサービスは、収集されたデータを基に利用状況を把握し、顧客に対してよりよいサービスを提供するための施策を考案する役割を担うようになった。こうした役割は、マーケティング部門と同様で、その垣根は存在しない。

 ポーター氏は、「(スマート・コネクテッド・プロダクトの登場で)企業は、新しい組織形態を模索している。新たに登場した部門の代表例が、『顧客成功管理・顧客体験向上部門』と『データ管理部門』だ」と指摘した。

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米PTC主催の「LiveWorx 2016」の特別講演に登壇したマイケル・ポーター氏(右)。PTC社長兼CEOジェームス・E・ヘプルマン氏(中央)と、米iRobotでCEO兼ファウンダーを務めるコリン・アングル氏(左)とともに、IoTが企業組織に及ぼす影響について展望した

顧客の成功が自社のビジネスを左右する

 顧客成功管理・顧客体験向上部門は、スマート・コネクテッド・プロダクトから収集されるデータを分析し、顧客が製品の提供する価値を最大限に活用できるよう管理する部門である。

 製品を販売して利益を得ていた時代は、販売後のアフターケアや、製品がどのように利用されているかは重要ではなかった。しかし、スマート・コネクテッド・プロダクトがもたらした「製品の付加価値をサービスとして提供する」というビジネスモデルでは、顧客に製品を使い続けてもらうことが、自社ビジネスの成功となる。

 だからこそ、顧客の成功が重要であり、そのための支援が欠かせないのだ。

 ポーター氏は「顧客成功管理・顧客体験向上部門は、製品を販売した後の顧客との関係性において中心的な役割を担う。スマート・コネクテッド・プロダクトからは、製品の利用状況だけでなく、顧客満足度や次期製品開発のヒントとなるようなデータも収集できる。それをどのように活用するかは、同部門にかかっている」と指摘する。

 たとえば、製品から収集されたデータと企業が保有するCRMデータ、さらにサードパーティデータやオープンデータと組み合わせることで、これまでに把握できなかった事象や、新たな知見を得ることができる。こうした情報を基に、今後の機能追加やサービスの向上だけでなく、新規ビジネスにつなげることができるというわけだ。

 一方、データ管理部門についてポーター氏は、「全社のデータを一括で管理し、各部門が必要としているデータを適材適所に配して分析を支援する独立した組織」であると説明する。

 企業は、スマート・コネクテッド・プロダクトから収集される膨大なデータだけでなく、生産ラインや販売の現場からのデータも管理しなければならない。その際に留意すべきは、データを収集・管理する『データ・オーナー』はだれなのかを明確にすることだ。

 「企業戦略においてデータが重要な役割を占める現在、単独部門がデータを扱うのは現実的ではない。そのデータを活用し、どのように価値を引き出すのかを専門分野で担う必要がある」というのが、ポーター氏の見解だ。

【次ページ】そのサービスは顧客に価値を与えるか

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