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  • 2016/08/23 掲載

東大の「生産技術研究所」にとって、クラウドはどう見えているのか?

合田 和生氏が語る

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ITによって世界をよりよく変えていくことが"by IT"パワーなら、ITそのものをより強力によりイノベ―ティブに進化させるのは"for IT"パワーだ。その"for IT"パワー"をグローバルレベルで発揮している東京大学 生産技術研究所にとって、クラウドとはどんな存在なのか。東京大学 特任准教授 合田 和生氏が登壇、研究最前線とクラウドのポテンシャルについて講演した。

執筆:フリーランスライター 吉田育代

執筆:フリーランスライター 吉田育代

企業情報システムや学生プログラミングコンテストなど、主にIT分野で活動を行っているライター。著書に「日本オラクル伝」(ソフトバンクパブリッシング)、「バックヤードの戦士たち―ソニーe調達プロジェクト激動の一一〇〇日 」(ソフトバンクパブリッシング)、「まるごと図解 最新ASPがわかる」(技術評論社)、「データベース 新たな選択肢―リレーショナルがすべてじゃない」(共著、英治出版)がある。全国高等専門学校プログラミングコンテスト審査員。趣味は語学。英語と韓国語に加えて、今はカンボジア語を学習中。


工学の全領域をカバーする大学附置研究所、東大の「生産研」

 国立大学法人 東京大学は現在、15大学院、10学部、11附置研究所、全学センターなどの組織から構成されている。この中で生産技術研究所(以下、生産研)は国内最大規模の大学附置研究所として知られる。1949年の設立以来、工学のほぼ全領域をカバーして産学連携を強力に推進しながら産業のイノベーションに貢献してきた。

 6月に行われた「AWS Summit Tokyo 2016」に登壇した東京大学 特任准教授 合田 和生氏は、この生産研に所属するIT分野の研究者で、その道に入って16年になるという。同氏が携わった研究の例として、今でいうエラスティック・データマイニングがある。これはマイニングプロセスが求める計算力に応じてコンピュータリソースを柔軟に拡張・縮小させながら動かすというもので、合田氏は実際に16台のサーバ、共有ストレージのリソース利用が動的に変化する様子を動画で披露した。10年前に研究していた当時は「実行時資源調整」と呼んでいたそうで、今でもここまでのデータマイニングを行っている企業は少ないという。

 また、「非順序型実行原理に基づくデータベースエンジン」というテーマで新しいデータベース開発に取り組んでいる。たとえば、数百億件単位のデータに対してピンポイントのBI分析を行うとなると、これまでは最上位ハードウェアを利用しても20分くらいレスポンスが返ってこなかったが、データの処理を順序立てず、大量の非同期入出力発行を可能にした形でコンピュータリソースを100%使い切ると(図1)、10秒で回答が返ってきた。この結果はすでにTPC-Hで最大クラス100テラバイトを世界初で達成されたとして登録されている。

研究組織にとって、クラウドは"新しいテクノロジーを生み出す機会"

 現在は、産業界を挙げてテクノロジーの時代である。合田氏はGEやウォルマートといった企業が"もはやわれわれはITの会社だ"と発言している記事を引き合いに出しながら、"by IT"でどう活動を効率化できるかを探る時代になった、と語った。生産研が担っているIT研究は、グローバルレベルのそうした"by IT"ムーブメントに資する"for IT"だ。その目的は今あるITをより強力に、よりイノベ―ティブなものに進化させることにある。

 そうした生産研にとってクラウドはどう見えているか。利点としては、一般にいわれるリソース調達の短縮、性能の柔軟な変更などといった点もさることながら、新しいイノベーションの機会が得られることが最も大きいという。それを解説する例として、同氏はサーバとストレージの接続を挙げた。オンプレミスであれば、サーバとストレージの接続プロトコルといえば、事実上SCSIかNFSしかない。新しいプロトコルを開発することも可能だが、周囲からは"誰も使わないからやっても無意味だ"と言われるのがオチだという。ところが、AWSではS3というオブジェクト系のプロトコルが出現した。Amazonが独自に開発したものだが、SDKを配ると積極的に使い始める人が出て、それがどんどん広がっていく。

「オンプレミスの世界はモジュール化が進み、境界線がしっかり引かれてしまいました。そこには従来のインタフェースをどう守るかという厳しい制約があり、イノベーションを起こすにしても境界線の中に限られてしまいます。しかし、クラウドはそういう境界線をぶっ飛ばして新しい枠組みを考える新しい機会があります。これは研究者にとってこれまでにないテクノロジーを生み出す貴重な機会です」(合田氏)

【次ページ】 一方で抱える難しさと、研究者の新たな課題

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