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  • 2016/11/14 掲載

世界はインダストリー4.0で標準化されるか?ドイツ、中国、日本らキーパーソンが議論

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ドイツ政府が主導する第四次産業革命「インダストリー4.0」の流れを受けて、フランス、中国、日本など、各国で製造業の標準化が積極的に進められている。こうした中で、各国によって異なる課題も見えてきた。「Japan Robot Week 2016」で併催されたロボット革命国際フォーラムでは、ドイツのシーメンス、フランスのダッソー・システムズ、中国のDJI、チェコ工科大学、日本のロボット革命イニシアティブ協議会からキーパーソンが集まり、グローバルにおける産業のデジタル化に関する状況と課題、今後の目標について議論された。
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きたるべきデジタル化と第四次産業革命について白熱議論

各国のデジタル化に向けた課題、日本は標準化づくりが苦手!?

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シーメンス・ジャパン
デジタルファクトリー事業本部
プロセス&ドライブ事業本部
専務執行役員
事業本部長
島田太郎 氏
 モデレータを務めた東京大学 名誉教授の木村文彦 氏は、まず各国が描くデジタル産業に関する現状の課題について聞いた。

 グローバルにおける製造業のデジタル化をリードするのは、なんといってもドイツ政府が主導するインダストリー4.0である。ドイツに本社を置くシーメンスの島田太郎 氏は「なぜインダストリー4.0で国際協調が起きているのか? これはプラットフォームの部分が競争領域ではなく『つながる』という面で協力関係が構築できるからだ」と説明する。

 フランスの代表的メーカーであるダッソー・システムズの鍛治屋清二 氏は「中小企業の底上げをするためには、教育スキルの底上げが前提だ。フランスでは『Industry of the Future』を掲げているが、中小企業が新しいデジタル化に対応できるスキル開発を重要な施策に挙げており、基盤となる人材を育てているところだ」と語る。

 中国代表で登壇したDJIの 呉韜 氏は「デジタル化のためには、政府の勇敢な意思決定が必要。いま中国のタクシー産業は、携帯電話でネットから呼ぶことが当たり前になりつつある。当初は事業者の反発もあったが、政府が新産業をつくるように主導していった(注1)。それはドローンについても同様だ。規制をかけずに日常に浸透させ、利活用することを考えるべきだ」と説明する。

(注1)この8月に配車アプリ大手のUberは中国から撤退し、滴滴出行(ディーディー チューシン)に事業を売却することを発表した。海外事業者の進出に関しては、必ずしも成功しているわけではない

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チェコ工科大学プラハ校
チェコ情報 ロボティクス サイバネティクス研究所 教授
Vladimir Marik氏
 チェコ工科大学のVladimir Marik氏は「デジタル化に関しては、コンピュータにつなげて、データが取り出せればよいと誤解をしている向きもある。次に我々が取るべきステップは、大量に生み出されるビッグデータをマイニングして知識を得て、知識を探索して利用することにある。それがデジタル革命に求められる要件だ」と指摘した。

 日本側からは、昨年設立されたロボット革命イニシアティブ協議会(以下、RRI)の水上潔 氏が発言。同氏は「日本は機械・電気・IT分野で優秀な技術者が多い。しかし国際連携という大きな枠組みのなかで新しい社会をつくるためには、技術を俯瞰できて、国際協調の哲学を持った人材が必要だ。そういう意味では人材が不足しており、大きな危機感がある」と懸念を抱いた。

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ロボット革命イニシアティブ協議会事務局
インダストリアルIoT推進統括
水上 潔 氏
 木村氏は「日本は(国際的な)標準化を標準化として受けとっていないのかもしれない」とし、島田氏も「日本側で成立する標準化を明確にしたほうがよい。標準化の際はドイツの言いなりになることもない。日本は協調してルールをつくることが苦手だ。いずれにしても最低限のところはつなげなていかないと、日本側にも不利になる。線引きをしっかり考えなければいけない」とドイツと日本の両面からの意見を示した。

共通課題を抱えるドイツと日本、一方でアグレッシブな中国

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モデレータを務めた東京大学 名誉教授 木村文彦 氏
 次に木村氏は「現状を踏まえながら、各国が強みを活かして、どのように産業構造を変革していけばよいのか?」と問いかけた。

 島田氏は「ドイツの答えは明確だ。自分たちの強みに立脚したデジタル化を定義しようとしている。日本も極めて似た状況だろう。我々は中国のようにアグレッシブになれないし、米国のように法律ギリギリで進むわけにもいかない。ドイツも日本も法律が厳しいため、それらを変えることも含めて、1つずつ積み上げていくしかない」と、ドイツと日本の共通事情について指摘した。

 では、フランスやEUのなかでの全体像はどうだろうか。ヨーロッパ(フランス)で活動する産業未来連盟のTahar Melliti氏は「フランスにとって、今回のデジタル化は業界内で再びローカライゼーションが起きるチャンスだと捉えている。たとえば3Dプリンタ技術は、消費者がいる場所で必要なもの提供できる。そうなると流通や取引も変わっていく。これはEU全体にとっても大きなチャンスだ。EU内でもグローバルな取り組みを検討中だが、ドイツとの協業はその第一歩になるものだ」と、フランスとEUの考え方を表明した。

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ダッソーシステムズ
代表取締役社長
鍛治屋 清二 氏
 さらにフランスの考え方について、鍛治屋氏は「いまフランスでイニシアチブを取っているのは組合や連合、大学などのアカデミアだ。その中で体系づけられたジタル技術を推進しつつ、並行して新ビジネスの創出につながる重要な役割を企業が担っている。ダッソーでは社内にラボをつくり、資金がなくても誰もが事業を起こせる機会を設けている。「Industry of the Future」は重要だが、プレイヤーが足りないため、その育成も行っているところだ」と付け加えた。

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 他国と異なりダイナミックに動いているのは中国だ。呉氏は「いま中国はIT人材が豊富な状況。しかしIT化が急激に進み、ネットショップの影響でリアル店舗が影響を受けたり、偽サイトが登場し、逆にデジタル化への不信感もある。中国人が日本で“爆買い”するのは、やはりサービスが良いからだ。日本はリアルとデジタルの世界をうまく融合している。国ごとの文化にマッチしたデジタル化を進め、互いに協力することで、よい状況が生れるだろう」と協調関係の重要性を説いた。

 木村氏は「各国でシステマティックな政策が進められているが、産業構造は少しずつ異なる。デジタル化を進めるにあたり、ドイツと同じ考え方で進むのか?」とチェコのMarik氏に問いかけた。

「チェコのエンジニアリング文化はドイツと似ている。それがメリットであり、イノベーションを生み出す原動力になっている。我々はデジタル変革を教育から進めるべきと考えている。教育には最低でも10年はかかり、最も優先度が高い。システマティックな考え方を身に着け、新しい流通システムを考えられる人材が必要だ。専門性だけでなく、他分野にも目を向けて情報を共有できるカリキュラムを組んでいる」(Marik氏)

 水上氏は「日本の製造業では『すり合わせ』が強みだと言われてきた。これを電気・機械・ITが担わなければいけない。RRIとして工業会同士で、国内の異文化交流を進めたうえで、しっかり意見を言える環境づくりを進めたい。いまは外国と連携するために、まず国内から積み上げていくべき大事な時期に来ている」と強調した。

 これについて木村氏も「確かに日本の工業界における交流は薄い。今後のデジタル化で異業種同士の統合化が進むと、かなり難しい問題になるかもしれない。RRIのような組織がつなぎ役になることが重要だ」と同調した。

【次ページ】デジタルと人の役割分担、産官学の協力体制の推進も課題
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