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- 2017/01/17 掲載
まつもとゆきひろ氏が賞賛する「Ruby」で開発された8つのサービス
島根県知事、経産省担当者らが語る「Rubyへの期待」
まず挨拶に立ったのは、島根県知事 溝口 善兵衛氏だ。溝口知事は国産言語として初めて国際標準として採用されたRubyのことを「県をあげて支援している」と語った。「島根ソフト開発研究センターを中心とし、IT分野での技術発展、Rubyの普及活動を進めています。また11月には第8回となるRubyWorld Conference 2016も開催、国内外から約1000名が参加者されました」(溝口知事)
溝口知事に続いて、経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 課長である滝澤 豪氏が登場。6月までシリコンバレーで活躍する新進企業を数多く見てきた経験を語った上で次のように述べた。
「昨年から開催されているRuby biz Grand prixで、Rubyの発展性を生かしながら世界で活躍する企業を応援できるようになりました。昨年グランプリを獲得したトレジャーデータなどは、国際的な標準としている認められたRubyを使って、日本人のソフトウェア産業が世界にはばたいていくすばらしい新事例と言えます」(滝澤氏)
Ruby biz Grand prix 2016に関する概要説明の後には、前年グランプリを受賞したトレジャーデータの田篭 聡氏がプレゼンテーションを行なった。
トレジャーデータは2013年に3人の日本人が米国シリコンバレーで立ち上げたスタートアップで、現在は世界7拠点7拠点に展開している。Ruby biz Grand prix 2015ではログ収集ソフトウェア「Fluentd」、並列データ転送ツール「embulk」の2製品でエントリーして大賞を受賞している。同社サービスはTresure DMPとして日本国内にも展開、その成長性が認められ2500万ドルの資金調達を行なっている。
「受賞時にバージョン0.12だったOSSのFluentdはその後も開発が続けられており、2017年初旬には広く使っていただけるバージョン1.0としてリリースされる予定です。公共性が認められ、Cloud Native Computing Foundation傘下のプロジェクトの4番目のプロジェクトとして採択されました」(田篭氏)
そのほか、国内ではNTTデータとの連携でFluentd、embulkの提供を始めていることなど、受賞後の成長が田篭氏から語られた。前年グランプリ受賞製品が順調に成長していることは、今回の受賞者はもちろん、来年度以降のRuby biz Grand prixに応募しようとする企業にとっても心強い。
医療を通じて社会に貢献する2社がソーシャルイノベーション賞を受賞
正興ITソリューションで代表取締役社長を務める有江 勝利氏は、「健康寿命を延伸し、増え続ける日本の医療費を少しでも軽減していきたいという思いで、Rubyを使って開発を続けてきた。この受賞をばねにして今後もがんばっていきたい」と受賞の喜びを述べた。
同社が提供するHealth-Ledgerは、2013年にスタートしたサービスで、社内での実証実験を重ねた上でリリースされたもの。
同社の社員食堂では社員証をかざすだけのキャッシュレスシステムを導入しており、そのデータを使って食事内容から摂取カロリーや塩分などを自動記録。健康診断で得られたバイタルデータと合わせて分析し、生活習慣の改善をアドバイスしてくれる仕組みになっている。楽しく運動をサポートするスマートフォンアプリや介護支援アプリなども用意されている。いずれもRubyおよびmrubyで開発し、ウェルネス部門での監修を受けているとのこと。「まずは社員とその家族、そして地域へと、健康延伸社会に貢献していきたい」と有江氏は語った。
もう一方のメドレーは、医療介護に関わる4つのプロダクトを柱にしている。医師が作るオンライン病気辞典「MEDLEY」、医療介護の求人サイト「ジョブメドレー」、クチコミで探せる介護施設の検索サイト「介護のほんね」、そして今回受賞したオンライン診療アプリ「CLINICS」だ。
同社取締役CTOの平山 宗介氏は「2016年2月にローンチしたサービスがこのような賞を受賞するまでに成長できたのは、開発しやすいRubyの恩恵を受けられたから。医療分野はIT化が進んでいないと感じており、医療×ITを推進するためにも今後もRubyの力を借りていきたい」と言う。
CLINICSは通院が困難な人の通院を支援するもので、スマートフォンやPCで診療を受け、処方箋を受け取ることができる。医療費もクレジットカードで決済し、オンラインで完結するよう設計されている。2016年2月にローンチし、既に北は北海道から南は沖縄まで200を超える医療機関と契約している。
CLINICSを含む同社のプロダクトに共通する信念について平山氏は、「常に意識しているのは、医療×ITの挑戦です。どちらかが主役になるのではなく、医療従事者とITエンジニアが立場を超えてコラボレートできる環境を重視して開発している」と述べた。
両社をはじめRuby biz Grand prix 2016の受賞者には、島根県西部の石見地方に伝わる石州和紙で作られた表彰状と、トロフィーが贈られた。
世界のエンジニアに貢献するシステムを提供するPlanioがグローバル賞を受賞
グローバル賞を受賞したのは、ドイツの企業であるPlanio GmbH。グローバル賞の選定基準は、エンジニアのパフォーマンス向上に貢献しているプロジェクト管理サービスを提供していることと、そのサービスを通じて「開発者が楽しければ世の中がきっと楽しくなる」というRubyのポリシーを具現化していることだ。同社CEOのJan Schulz-Hofen氏は「PlanioはRedmineに準拠しており、OSSとして開発してきた。Redmineコミュニティに育てられ、こうして認められたことに感謝している」と語った。
Planioは元々、自社のエンジニアのために作られたものだった。自分たちが望む機能を備えるプロジェクト管理ツールが見つからなかったため、Redmineをカスタマイズして使い始めたのが始まりだ。このツールによりプロジェクトがスムーズに進むようになっただけではなく、プロジェクト完遂後もこのツールを使いたいという顧客が相次いだという。
そのニーズに応えるためにプロダクトとして洗練し、生まれたのがPlanioだ。今では有料ユーザーだけでも1500社に上る。2016年には、日本の企業と提携し、日本におけるサポート体制も整った。Jan Schulz-Hofen氏は「これからもRubyコミュニティ、Redmineコミュニティに貢献していきたいと考えている」と、コミュニティへのコミットを力強く約束した。
開発者支援ツールを提供するユニファなど3社が特別賞を受賞
続いて表彰された特別賞には3社が選ばれた。1社目はアクトキャットだ。同社Engineer&CEO 角 幸一郎氏は賞状とトロフィーを手に、「この受賞をきっかけに、トレジャーデータのように世界に羽ばたいていきたい」と感想を述べた。エンジニアをエンパワーメントして、世界の生産性を上げることをビジョンに掲げている同社が提供するSideCIは、コードレビューの自動化によって開発者を支援する。GitHub状に置かれたソースコードを読み込ませるだけで独自の解析エンジンがレビューを行ない、GitHubにフィードバックを出力する。
それを修正した上でリードエンジニアやCTOのレビューに進むことで、コードレビュー全体に要する時間を短縮しコードの品質も向上させることができる。サービス紹介において角氏は、「国内外452都市で使われており、本日この会場にも利用企業さんがいらっしゃいます。サービス基盤をRubyで作るだけではなく、より多くのエンジニアに役立つよう解析エンジンのソースコードも公開している」と語った。
特別賞として2社目に選ばれたのは、地域情報掲示板「ジモティー」を提供するジモティー。CTOの鈴木 智之氏は「エンジニアをはじめ、多くのメンバーの努力が認められて嬉しい。サービス成長を支えてくれたユーザーのみなさんや、Rubyをはじめとするオープンソースプロダクトの数々にも感謝したい」と、謝辞を述べた。
ジモティーは、月間約640万人が利用する地域情報掲示板。不要品の売買や地元店舗の求人情報、ペットの里親募集まで様々な情報が掲載されている。収益の大半を広告収入に頼っており、ユーザーが掲載料や手数料を負担せずに済むのが大きな特長だ。無料で掲載できること、直接取引を推奨していることなどから、一般の掲示板にはない情報が多数掲載されている。「地域の今を可視化するというビジョンにもとづいて作られたサービス。今はまだ可視化されていない情報をインターネット上のデータとなることで、地域の豊かさを最大にする」と、鈴木氏は展望を語った。
3社目の特別賞受賞は、ユニファ。取締役CTOである赤沼 寛明氏は、「サービスを提供している保育業界は、医療業界と同じくIT化が進んでいない。この受賞を励みに、今後さらにがんばっていきたい」と意気込みを見せる。
「家族×テクノロジーで家族コミュニケーションを豊かにする」をビジョンに掲げ、社名は「Unify+Family」に由来するというユニファ。提供するのは、自動写真・動画サービス「るくみー」と、見守りロボット「MEEBO」だ。
るくみーは、保育園や幼稚園などでの園内の写真をネットで閲覧、購入してもらうサービス。園内に掲出する従来の方法とは違い、オンラインで写真を選んでもらい、決済や発送業務はユニファが代行する。写真撮影自体も、同社のiOSアプリを使えば自動的にサーバに送られ、整理される仕組みだ。見守りロボットMEEBOと組み合わせることで撮影部分まで自動化することもできる。
「今度はMEEBOを通じて多くの情報を自動的にデジタル化し、園内事務の負担を軽減、保育士が保育に専念できる環境を作りたい」と赤沼氏は将来像を語った。
【次ページ】グランプリ「Misoca」と「ラクスル」のスゴさとは
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