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  • 2017/04/18 掲載

SaaS ERPとは何か?オンプレと比較して安いのか?よくある誤解7つをガートナーが解説

ガートナー 本好宏次氏が解説

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初期導入費や運用負担を抑えつつ迅速にERPを展開する手段として、クラウドを採用する企業が増えている。中でもIaaS上にERPを展開する形ではなく、パブリック・クラウドサービスとしてERPを展開する「SaaS ERP」への関心が高まっている。SAPをはじめとする大手ERPベンダーの参入も相次いでいるが、その一方でSaaS ERPに対する過度な期待や根拠のない不安が散見されるのも事実だ。ガートナー リサーチ リサーチ ディレクターの本好宏次氏が、SaaS ERPへのありがちな「誤解」を払拭する上でITリーダーが知っておくべき「現実」を解説し、SaaS ERPの有効活用に向けた提言を行う。
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クラウドERPは、SaaS ERPとプライベート・クラウドやIaaS上に構築するERPに分けられる
(© adiruch na chiangmai – Fotolia)


SaaS ERPとは何か?「過度な期待」と「幻滅」が錯綜

 クラウドERPには大きく2つの類型がある。1つはIaaS上に従来のERPを実装するプライベート型のクラウドERP。もう1つはOS/ハードウェアからDB/アプリケーションサーバ、ERPまですべてのレイヤーをベンダー側で管理し、マルチテナントでサービスを提供するパブリック(完全共有)型のクラウドERPだ。ここでは特に後者を「SaaS ERP」と呼んでフォーカスすることとする。

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クラウドERPの主要2類型
(出典:ガートナー)


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 現在、このSaaS ERPを巡って「過度な期待」と「幻滅」が錯綜している。たとえばガートナーITデマンド・リサーチが2016年5月に日本企業(約300社)に対して行ったアンケート調査によると、SaaS ERPに対する期待事項のトップ3は「導入コスト(52%)」「利用コスト(50%)」「セキュリティ(46%)」となった。

 一方で懸念事項のトップ3はどうかというと、「利用コスト(48%)」「セキュリティ(47%)」「サービス存続性(35%)」である。利用コストとセキュリティについては、まさに期待と幻滅が真っ二つに分かれ、評価が定まらない状況を見て取れる。

 SaaS ERPはまだ発展段階のソリューションであるがゆえの事情もあるが、“現実”をしっかり見極めた上での冷静な判断と活用が必要な時期を迎えている。そのためにも、まずはSaaS ERPに対する下記のような「よくある誤解」を払拭していただきたい。

よくある誤解(1):SaaS ERPは他の選択肢よりも常に安価?

 SaaS ERPは「安い」という印象はどこから生まれたのだろうか。多額のライセンスとインフラの初期投資が必要となるオンプレミスの従来型ERPと比べ、安価な月額料金で利用できることが起源となっているようだ。

 だが、そうしたサブスクリクション型の契約では、長年利用する過程で積算料金がライセンス購入額を上回る分岐点が必ず訪れる。加えて約2年ごとの契約更新時に値上げされる可能性があることも知っておく必要がある。

 したがってSaaS ERPのコストについては、中長期のTCO分析に基づいて判断すべきである。固定費の変動費化や費用の平準化などコスト構造の変化に着目するほか、導入規模や利用期間など適用領域を見極めることも重要だ。

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オンプレミスとSaaSのコスト比較
(出典:ガートナー)


よくある誤解(2):オンプレよりもセキュリティで劣る?

 クラウドサービスからの情報漏えい事件が後を絶たない。それらのほとんどはコンシューマー領域のサービスに対する不正侵入によるものなのだが、SaaS ERPに対しても懸念を生んでいるようだ。

 実際のところ主要ベンダーのデータセンターは、一般企業が保証できるレベルを上回るセキュリティを備えている。インシデントが発生しないわけではないが、そのほとんどはパスワード漏えいなどユーザー側に起因している。

 セキュリティに対する懸念があるならば、まずは自社が満たさなければならないセキュリティ水準を明確にした上で、たとえば官公庁や金融情報システムセンター(FISC)などが示すガイドラインを満たしているなど、信頼できるベンダーを選定すればよい。

 また、セキュリティの監査能力や専門知識を習得するほか、デフォルトのパスワードや不要なスーパーユーザー権限を排除するなど、クラウドを利用する自社内のセキュリティ・リテラシーを高めていくことも重要である。

よくある誤解(3):ベンダーの経営やサービスの安定性に難がある?

 SaaSそのものが成長市場であることから新興ベンダーの参入が相次いでおり、特に日本では聞いたことがないベンダーからサービスを採用するのはリスクを感じるようだ。

 たとえばNetSuiteやWorkdayなど、すでに確固としたポジションを確立したベンダーであっても経営者やエンドユーザーの間ではそれほど知名度が高いわけではなく、存続性を不安視する意見が寄せられる。

 実際にはこれらのベンチャーも顧客基盤の拡大とともに、存続性のリスクはかなり緩和されていると言える。また、SAPやオラクルなど知名度の高いERP大手ベンダーもSaaS ERPに参入しており、ベンチャー以外の選択肢も増えてきた。

 ただ、さまざまな事態に備えておくことは大切だ。たとえば2016年11月にNetSuiteがオラクルに買収されたように、今後もベンチャー系のSaaS ERPが大手ERPベンダーに買収されるケースは十分にあり得る。

 財務基盤が安定するという面ではプラスなのだが、もともと両社が持っていたポートフォリオの棲み分けがきちんと行われるのかなど、将来的な動向を見極める必要が出てくる。他方に統合されて継続の可能性が低いと思われるサービスについては、長期利用を控えるといった判断が求められるのだ。

 さらに事業停止になるリスクもゼロではないとすれば、その通知は何か月前までに来るのか、自社のデータをどんな形式でいつまでダウンロードできるのかといった条件を、契約時点でしっかり押さえておくことも出口戦略として重要である。

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