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  • 2017/06/29 掲載

アマゾンの顧客包囲網が拡大、日本では「対アマゾン」ではなく「住み分け」が進む理由

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ECの巨人、アマゾンの成長スピードはいまだ、陰りを知らない。「Amazon Go」「Amazon Books」「AmazonFresh Pickup」といった3種類のリアル店舗を出店し、これまでのEC専業にはなかった新たな顧客接点を築き始めた。世界最大の小売業、ウォルマートはEC分野で積極的なM&Aを仕掛け、アマゾンのノウハウを学び取り、その牙城を崩そうと躍起になっている。一方、日本では2016年、アマゾンの売上げがついに1兆円を超え、Prime NowやAmazonフレッシュといった自前配送による新サービスをスタートさせた。今後、ヤマト運輸の宅配サービスのレベル低下に直面する日本のEC事業者は、事業のかじ取りをどの方向に進めればよいのだろう。

イー・ロジット 代表取締役 角井亮一

イー・ロジット 代表取締役 角井亮一

1968年大阪生まれ、奈良育ち。株式会社イー・ロジット代表取締役兼チーフコンサルタント。上智大学経済学部を3年で単位修了。米ゴールデンゲート大学でMBA取得。船井総合研究所、不動産会社を経て、家業の物流会社、光輝物流に入社。日本初のゲインシェアリング(東証一部企業の物流センターをまるごとBPOで受託)を達成。2000年、株式会社イー・ロジットを設立し、現職。現在、同社は230社以上から通販物流を受託する国内ナンバーワンの通販専門物流代行会社であり、200社の会員企業を中心とした物流人材教育研修や物流コンサルティングを行っている。2015年、宅配荷物の追跡や再配達を依頼できるアプリ「ウケトル」を提供する株式会社ウケトルを共同設立。 著書に『物流がわかる』『オムニチャネル戦略』(ともに日経文庫)、 『アマゾンと物流大戦争』 (NHK出版新書)などがあり、 多くのテレビ・ラジオ番組でコメンテーターをつとめ、経済誌などでの執筆も多数。

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世界最大の小売企業ウォルマートはいま、アマゾンに挑んでいる
(出典:ウォルマート)


ウォルマートが「反撃」を開始

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 世界最大のスーパーマーケットチェーン、ウォルマートが、ECで購入した商品の受け取りをより手軽にする試みにチャレンジしている。

 全米に5000以上ある店舗や駐車場の活用はもちろん、物流拠点に隣接する場所にドライブスルー感覚で商品の受け取りができる専用スペースを設けたりして、無駄な待ち時間なく、EC購入品(生鮮品を含む)を受け取れるサービスにも積極的だ。また、ECで注文した商品を店頭で受け取る場合、宅配受取時にかかる送料はこれまでも無料だったが、2017年4月からは商品の価格を割り引くサービスも開始した。

 新たな配送方法の開発にも着手している。配車サービス大手の「ウーバー」、「リフト」の2社と提携して、食品・日用品の宅配サービスの実証実験をスタートさせたほか、この6月には店舗の従業員が帰宅途中に商品を配達する実験も始めた。

 さかのぼって17年1月からは、年会費無料でオンライン購入品を2日以内に宅配する「フリー2デイシッピング」を本格的にスタートさせている(アメリカでは2日以内の宅配は、通常、有料サービスであり、アマゾンの場合、月会費10・99ドルのプライム会員になると無料で利用できる)。

 一方、ネット通販の巨人、アマゾンはといえば、2017年4月から商品受け渡し専用拠点を使った「AmazonFresh Pickup」サービスの実験を開始した。



 生鮮食品や肉類・乳製品などを受注すると、店舗スタップが最短で15分以内に商品をピックアップし、注文客は受け渡し拠点の専用カウンターまたは駐車スペースで商品を受け取ることができるというもの。

 アマゾンに先行してスタートしていたウォルマートのドライブスルー型店舗が「注文から最短2時間での受け取り」だったから、AmazonFresh Pickupはその時間を大幅に短縮し、さらに利便性を高めたものといえる。

アマゾンはウォルマートから物流戦略を学んで成長

 全米に5000以上の店舗網を持つウォルマートと、オンライン専業のアマゾン。新旧のビジネスモデルという違いもあって、この両者は何かにつけ比較して語られることが多い。

 売上げ規模でいえば、コンサルティング会社「デロイトトーマツ」による世界小売業ランキング2017年版によると、ウォルマートの売上高は4821億3000万ドルでダントツの1位。一方、アマゾンは第10位の792億6800万ドル(マーケットプレイスを除くEC売上)で、その差は約6倍ある。

 しかし、この6年間の売上高年平均成長率はアマゾンの20.8%に対し、ウォルマートは2.7%と微増にとどまっており、ここ数年で一気にその差が縮まったことがわかる。

 この勢いの差を如実に物語るのが、現在の業績より将来の成長性が評価されるといわれる株式市場だ。2015年7月、当時、売上規模で7倍近い開きがあったにもかかわらず、アマゾンの株式の時価総額(株価×発行済み株式数)は、ウォルマートのそれを抜き去ったのだ。2017年5月30日にアマゾンの株価は初の1000ドルを突破、6月中旬時点でアマゾンの時価総額はウォルマートの約2倍になっている。

 実はこの両者には事業戦略を展開する上での共通点がある。それは物流を重要視しているという点だ。

 ウォルマートは世界屈指の物流戦略を持つロジスティクス企業。ウォルマートが新規出店する際には、必ず物流拠点を設置してから店舗網を広げていくのが定石になっている。現在同社のCEO(最高経営責任者)を務めるダグ・マクミロン氏は同社の物流業務に直接携わったこともあり、物流戦略の重要性を熟知している。

 一方、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏は、常々「アマゾンはロジスティクス企業だ」と語っており、また同氏がウォルマートの物流戦略を徹底的に研究してきたことはよく知られている。実際に、ウォルマート出身の元物流担当副社長のジム・ライト氏から物流戦略を学び、そのほかにもウォルマートから多くの人材を引き抜いたといわれている。

 アマゾンはウォルマートから物流戦略を学び、今日までの急成長を成し遂げてきたのだ。

ウォルマート、アマゾンから学ぶ

 それから翻って、いま、ウォルマートがアマゾンから多くを学ぼうとしている。  2016年、ウォルマートは自社として国内最大規模の買収額となる33億ドル(約3300億円)で、ネット通販サイト「ジェット」を運営する「ジェット・ドット・コム」を買収した。同社の創業者でありCEOのマーク・ロアー氏は以前、アマゾンで働いていた経験があり、ロアー氏を通じて、ネット通販のノウハウを取り込む狙いがあるといわれている。

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物流大激突 アマゾンに挑む宅配ネット通販
 ここ数年、ウォルマートはECに積極的に乗り出すことで、アマゾンによって奪われた顧客や売上げを取り戻そうと必死になっている。今後、アマゾンから学んだノウハウがどのようなかたちとなって実践されるのか楽しみだ。

 冒頭で触れたようなウォルマートの数々の試みは、アマゾンへの対抗手段という見方をされることが多い。しかし私の考え方は、それとは少し違っている。もちろん「アマゾンに負けないため」という部分もあるだろうが、それ以上に、いまの顧客にとっては、(購入場所が、ネットであれ、店頭であれ)どうやって商品を届けたら利便性が高いのか、商品受取までの時間短縮ができるのか、物流視点から考え抜いた結果にほかならないと考えている。

 こうした動きにアマゾンも手をこまねいていない。16日には米高級スーパーであるホールフーズ・マーケットを137億ドル(約1兆5000億円)で買収することを発表し、「リアル」への攻勢を強めている。

 アマゾンとウォルマートがお互いしのぎを削り、顧客利便性の高いさまざまな取り組みを繰り出していけば、新たなイノベーションが生まれるにちがいない。

【次ページ】日米で進むアマゾンの顧客包囲網

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