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  • 2018/12/06 掲載

テレマティクス保険を徹底解説 2019年に大手損保がそろい踏み、今後の市場はどうなる?

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自動車保険といえば、補償金額や補償内容、ドライバーの年齢、ゴールド免許の有無、事故履歴(無事故割引)、自動車の利用頻度などによってあらかじめ保険料が決まるのが普通だった。しかし、ITの進化により、マイカーに取りつけた機器が走行距離やドライバーの運転特性を測定・送信し、そのデータを収集・分析することで個別のリスクに応じて保険料が決まる「テレマティクス自動車保険」が、これから世界の主流になると予測されている。欧米に続き、日本の損害保険各社でも2019年、商品が出そろう気配だ。保険とITを組み合わせる「インシュアテック(InsurTech)」は、マイカーという身近なところで実用段階に入っている。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。


テレマティクス保険とは?従来の自動車保険との違いは?

 自動車保険(任意保険)は、代理店を通さずに販売され保険料が割安な「ネット自動車保険」の登場が第1の変革期だったとすれば、「テレマティクス自動車保険」の登場で今、第2の変革期を迎えていると言っていい。

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 「テレマティクス(Telematics)」とは「テレコミュニケーション(Telecommunication/電気通信)とインフォマティクス(Informatics/情報処理)を合成した造語で、多くの場合、移動体に対し通信を介してサービスを提供することを指す。その移動体の中で最もポピュラーな存在が自動車で、「カーテレマティクス」と呼ばれることもある。

 テレマティクス自動車保険は、そのテレマティクスのシステムを利用した自動車保険サービスだ。自動車に搭載したデバイス(機器)が、契約した自動車、ドライバーの運転情報を通信システムを介して保険会社に送る。保険会社は運転データを分析した上で個別に保険料率を計算して、ドライバーに保険料を請求する、という仕組みだ。

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一般的なテレマティクス保険のビジネスモデル
(出典:国土交通省自動車局安全政策課「テレマックス等を活用した安全運転促進保険等による道路交通の安全」(出所:Modus社, Octo telematics社ヒアリング結果))


 保険とITを組み合わせた「インシュアテック」の一種で、損害保険全般で言えば、工場設備や車両、航空機などの運転、運行をモニタリングして保険料を決めるUBI(Usage Based Insurance:利用ベース保険)と呼ばれるカテゴリーに含まれる。

 従来の自動車保険は、契約時に補償金額や補償内容とともに、ドライバーの年齢、ゴールド免許の有無、無事故割引のための事故履歴(保険金請求履歴)、「平日は乗らない」といった利用状況などを申込書に記入する。

 それらの条件に応じて、保険料は契約前に算出。契約者は、同じ条件で複数の保険会社に見積書を出させて、その中で最も安いところと契約することができる。

 一方、テレマティクス自動車保険はそうした申込書記載の条件だけでなく、運転情報を収集・分析して得た情報なども加味して保険金が計算される。

 たとえば条件や補償金額、補償内容が同じでも、運転情報に良い評価がつけば保険料率は低くなり、保険料は安くなる。その逆で運転情報に悪い評価がつけば保険料は高くなる。

テレマティクス保険は「走行距離連動型」「運転行動連動型」の2種類

 ではテレマティクス保険の保険料率計算の基礎となる「運転情報」とは、実際にはどんな項目があるのだろうか?

 扱う運転情報によって、テレマティクス自動車保険は大きく2種類に分類できる。

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テレマティクス保険の2つの種類
(出典:国土交通省自動車局安全政策課「テレマックス等を活用した安全運転促進保険等による道路交通の安全」(出所:Modus社, Octo telematics社ヒアリング結果))


 「走行距離連動型(PAYD/Pay As You Drive)」は、デバイスで運転距離を測定して、走行距離が短ければ保険料算定で保険料を下げ、長ければ保険料を上げる。個別性を考慮せず、自動車は長い距離を走れば走るほど事故を起こす確率が高くなるという仮説に基づいている。

 一方の「運転行動連動型(PHYD/Pay How you drive)」は、デバイスで運転速度、急ブレーキ、急アクセル、ハンドリングなどの運転特性を細かく測定して、より安全な運転をしていると判定すれば保険料を下げ、逆に危険な運転をしていると判定すれば保険料を上げるというタイプだ。自動車事故が起きる確率は運転するドライバーの個別性によって変わるという仮説に基づいている。運転に自信のあるドライバーは、その腕を証明できれば保険料が安くなる。

 一見、電車通勤で休日のみ運転のドライバーには「走行距離連動型(PAYD)」が向き、平日から運転するドライバーには「運転行動連動型(PHYD)」が向いているように思われそうだが、もし休日に長距離ドライブを頻繁にするようなら、その限りではない。通常の自動車保険と違い、「乗るのは休日だけ」という自己申告に機械はだまされない。

 むしろ「運転行動連動型」で自分の安全運転ぶりを機械に認めさせるほうが好結果が得られることが多い。そのためテレマティクス自動車保険は「運転行動連動型」のほうが今後の主流を占めると見られている。

日本企業でも「テレマティクス保険」の準備は整った

 日本で最初の個人向け「運転行動連動型」テレマティクス自動車保険は、2015年2月に販売が始まったソニー損害保険の「やさしい運転キャッシュバック型」だった。

 契約者に無料で貸与する「ドライブカウンタ」は、内蔵の加速度センサーが加速、減速の発生状況を計測し、急加速、急ブレーキは100点満点からその都度減点されて、点数が表示される。設置から180日以上たてばWebサイトの専用ページで点数を自己申告でき、90点以上は保険料の20%、80点台は15%、70点台は10%、60点台は5%が、それぞれ現金でキャッシュバックされる。ただしドライブカウンタに通信機能がないためテレマティクス保険としては完成型ではない。20歳代や無事故等級が低いなど、保険料負担の重さに悩んでいたドライバーに歓迎されているという。

 損保ジャパン日本興亜が2016年1月に発売した「ポータブルスマイリングロード」は、車載専用デバイスを使用せずに市販のカーナビを活用する。カーナビソフトのナビタイムと提携した無料のカーナビアプリをインストールすると運転診断機能が付加され、「運転行動連動型」で保険料は最大20%安くなる。キャッシュバックではなく保険料割引で、現在のカーナビは双方向通信端末なので走行データは回線で送られるという、本格的なテレマティクス保険である。

 また、あいおいニッセイ同和損保はすでに2018年1月から、専用の車載デバイスを設置し、専用アプリをインストールした契約者のスマホとつなぐことで通信機能を付加した保険を提供している。

 まだテレマティクス保険を導入していなくても、形態はさまざまだが、「運転行動連動型」のテレマティクス自動車保険に必要な運転診断ができるハードはすでにある程度の準備が進んでいる。

 三井住友海上火災はスマホ内蔵のカメラやGPSや加速度センサーを活用してドライバーの運転診断を行い、点数やABCの格付けをつけるサービスを提供している。

 セゾン自動車火災も一部の保険商品で、専用の車載デバイスと契約者のスマホの専用アプリが連携することで運転特性をドライブスコアとして確認できドライブレポートも作成される運転診断機能を提供している。

 さらに東京海上日動では自動車に通信機能付きのオリジナルのドライブレコーダーを設置することで、運転状況に応じてリアルタイムに注意喚起を行う「事故防止支援」や、「安全運転診断レポート」を作成し改善策をアドバイスする「安全運転支援」のサービスが受けられる。

 このように、たとえ現状発売していなくても、保険商品というソフトを組み込めば発売可能な状態とも言える。2019年、日本でテレマティクス自動車保険が勢ぞろいする気配が濃厚だ。

【次ページ】2017年~2022年の市場規模の推移は?日本企業に勝機はあるか

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