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  • 2019/07/18

製造業のM&A、成功のポイントは? 日系企業がデューデリで見落としがちなポイント

近年の製造業における生産オペレーション管理は、ますます難しさを増している。日本では高度成長期に、生産技術を改善しながら製品の国内生産量を漸増させてきた。「しかし現在は多くの日系企業がグローバル市場に工場を持つようになり、その生産オペレーションに複雑なマネジメントが求められる時代になっています」と語るのは、PwCアドバイザリーの鈴木慎介氏だ。そのような状況で、日系企業は以前にも増して積極的にM&Aを実施するようになっている。同氏は、製造業におけるM&Aの課題と、M&Aを成功に導くためのポイントについて解説した。

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成功すれば大きなシナジーを生むM&Aだが、勘所をいくつか押さえなくてはならない
(Photo/Getty Images)

外部環境が激変する時代、QCDにも影響大

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PwCアドバイザリー
M&Aトランザクション(PMI) パートナー
鈴木 慎介氏
 近年の日系企業にとって、さまざまな外部環境の変化が、製造の「QCD」(Quality、Cost 、Delivery)に大きな影響をもたらしている。たとえば最近では、AIやIoTなど、生産性を急激に高める技術の導入や、逆に付加価値のない生産を海外に出してしまう内外製の配置、生産キャパシティの増減など、多くのパラメータを臨機応変に動かす必要に迫られている。

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多くの外部環境の変化が生産オペレーションに与える影響は、企業にとって無視できないものになっている

 技術的な側面では、インダストリー4.0や中国製造2025など、各国の政策が強化され、デジタル技術による生産スマート化への対応も求められている。自動車産業でEVのアーキテクチャー変化や、ネットの進展によるECの台頭、自然災害に対応できる安定供給ニーズの高まりなども、生産オペレーションに影響を与えている。そうしたインパクトは、いまやメーカーにとって無視できないものになっている。

 技術以外の外部環境の変化もある。米中の貿易摩擦や、保守的なトランプ税制、Brexitなどの地政学リスクも挙げられるだろう。ほかにも先進国における労働不足や、高騰する途上国の労務費、エネルギーやレアメタルなどの資源獲得競争といった問題もボディーブローのように効いてくる。

 ただし、こういったマイナス要因だけでなく、日本企業にとってうれしいプラス材料もある。インバウンドの増加を背景としたの人気だ。高品質を求める外国人のニーズに後押しされ、工場の新設や増強が加速している。特に化粧品・日用品・食品・飲料などで、製造拠点の国内回帰が進んでいる。

一時的なトレンドで生産拠点を決めてはならない

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 このような状況の中、日系企業にとって重要になるポイントは、工場をどこに配置するかという生産フットプリントの検討だ。

「生産拠点の決定には、多角的な視点からの検討が必要です。販売ネットワーク、生産オペレーション、国ごとの成熟度やカントリーリスク、調達・物流インフラなどの視点を持ちながら、一時のトレンドでなく、最低でも3年から5年ぐらいの中・長期的なスパンで考えなければいけません」(鈴木氏)

 特に生産に関しては投資額が大きいため、失敗したときの経営に与えるロスやインパクトは甚大なものになってしまう。いま話題のトランプ税制も、本当に中長期的に影響を与えるものなのかを再考したい。また、Made in Japanブランドもずっと売れ続けるのか、冷静な視点が必要だ。

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さまざまな視点から生産拠点を検討する必要がある。一時的なトレンドに流されず、中・長期的な予測で、総合的に判断すべきだ

 近年では、日系製造業も積極的にM&Aに打って出るようになってきた。しかし、これも課題がないわけではない。

 2019年までの約3年間の業種別M&A実績を見ると、特に目立つのが医薬品業界と電機業界のM&Aだ。この2つの業界だけで、製造業全体のM&Aの55%を占めている。

「医薬品の場合は、バイオ医薬のパイプラインや製造機能の拡大、ジェネリック再編などがM&Aの理由に挙げられます。一方で電機業界は、ポートフォリオを入れ替えて、より収益性の高い事業構造に転換するために事業売却が進んでいます。電機メーカーの一部の事業をカーブアウトして、ファンドに売る案件も多くなりました」(鈴木氏)

 売上原価率を見ると、医薬品業界は比較的低いものの、電機業界では80%前後とかなり高くなっている。そのため、インパクトの大きい原価率をどう改善していくべきか、コストシナジーの観点からの検討がM&Aに求められているわけだ。

価値に着目したM&A手法「バリュークリエーション」とは?

 そのような中で、M&Aを実施する企業に対して、PwCは「バリュークリエーション」というアプローチを提唱している。

「これはM&A前にあらゆるバリューを洗い出し、定量化してプライシングに生かす方法です。さらにM&A後にもバリュー実現に向けてしっかりトラッキングします。価値に着目したアプローチとして、M&Aのベストプラクティスになるものです」(鈴木氏)

 たとえばM&Aといっても、いくつかのパターンが考えられる。1つ目のバリューアップ領域は、事業・地域・製品単位での“選択と集中”を実施する一方で新規領域に進出する「戦略的な事業構造の改革」だ。2つ目のパターンは、売上のシナジーやコストシナジーを検討する「オペレーションの改善」。3つ目のパターンは「BS/税務の最適化」である。

 鈴木氏は「我々は経験上、2つ目の『オペレーション改善』を通したコストシナジーにおいて、より大きなバリューアップポテンシャルが見込めると考えています。特に同業者のM&Aの場合は、生産拠点の統廃合や調達の集約化、物流の統廃合などのサプライチェーン改革が、大きなバリューアップの領域になるケースが多いからです」と力説する。

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製造業のM&Aでは、サプライチェーンを中心にしたオペレーションの改善が、大きなバリューアップになるケースが多い

 実際、M&A前にはこういったバリューアップ領域をすべて検討したうえで、それぞれのバリューを具体的に定量化しバリュエーションに組み込んだ上で、本当に買うべきかどうかの判断材料とすべきだ。現実のM&Aでは、入札が実施され、値段が吊り上がって高値づかみをしてしまう一方で、バリューアップが全く計画されていないケースが少なからずあるという。

 鈴木氏は「シナジーを検討しないと、結局は数年後に減損する可能性があります。そのため、M&A前にしっかりとバリューを見極めて、すべてを検討しつくすことが大切です。その際にコストシナジー、中でもサプライチェーンと生産機能を深く検討することが求められます」と強調する。

【次ページ】なぜ日系企業はオペレーションDDを徹底しないのか?

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