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- 2019/10/11 掲載
市場規模“1兆円超え”「網紅(ワンホン)経済」とは? 「消費を変えた」影響力に迫る
「網紅経済」とは? ユーチューバーとの違いは収入源
中国には「網紅(ワンホン)経済」という言葉がある。網紅とは「網絡紅人」の略で、網絡とはネットのこと、紅人とは人気者という意味だ。日本のユーチューバーに相当する。しかし、その規模は桁違いだ。調査会社iReserchとウェイボーが共同で発表した「中国網紅経済発展洞察報告」によると、2018年のライブ配信の市場規模は676.6億元(約1兆円。予測値)。中国の映画市場はすでに世界第2位となっているが、それでも興行収入は654億元。ライブ配信は、メディア産業としてすでに映画を超えているのだ。
網紅とユーチューバーは似ているようで異なる。大きな違いは収入源だ。網紅の収入源比率のトップは広告収入の19.6%で、これはユーチューバーと同じ。第2位の収入源はアフィリエイト収入の19.3%。網紅がライブ配信の中で、商品を紹介し、それを見た視聴者が購入すると、代金の一部が網紅の収入になる仕組みだ。
この分野でのトップ網紅は、薇娅(ウェイヤー)だ。ECサイト「タオバオ」で、商品を紹介するタオバオ達人として人気になった彼女は「1日の売上でマンションが1つ買える」と言われるほど影響力がある。アリババが毎年盛大に開催している2018年11月11日の独身の日セールでは、午前0時から2時間のライブ配信番組を放送し、その中で2.67億元(約41億円)の商品を売ったという記録を持っている。
薇娅のタオバオライブ中に、アリババのジャック・マー元会長が現れるなど、EC企業にとって網紅が重要な存在になっていることがわかる。
まさに「網紅経済」と呼んでもおかしくない影響力を持ち始めているのだ。当然、各企業はこのような網紅の影響力を活用したいと考えるが、そう簡単にはいかないのが網紅経済の特徴だ。
トップ網紅「薇娅」のもとには、毎日さまざまな企業から商品が送られてくる。薇娅のライブ配信で紹介されるだけで、売上が天と地ほども違ってくるからだ。しかし、薇娅は商品をひとつひとつ吟味をしていく。過去2000社もの企業からオファーがあったが、最終的にアフィリエイト契約を結んだのは300社程度であるという。
トップ網紅の信頼のカギは「中立性」
薇娅は商品を選ぶ基準として「自分自身が買いたくなるかどうか」を挙げている。それが視聴者の自分に対する信用の源泉になっていることを分かっているからだ。実際、少し人気が出たところで、企業からの契約金に目がくらんで、企業側の視点に立ったライブ配信を始めると、あっという間にその地位を失ってしまう例は無数にある。成都市のあるローカル放送で街頭インタビューを受けた女性が一夜にして人気者になったことがあった。
ところが、企業のPV映像などに出演をするようになると、今度は、お金に貪欲であるかのようなプライベートでの発言も拡散され、ネット民からたたかれるようになった。
一夜にして網紅となり、一夜にしてその地位を失った。
このような「事故」に、企業商品も巻き込まれかねないため、企業は自社がターゲットとする消費クラスターに影響力を持っている網紅を吟味して、アフィリエイト契約を結び、場合によっては、網紅のアドバイスにしたがって、商品の仕様やデザインを変更することもあるという。
網紅は、中立的な立場を維持することで、消費者と企業の両方に影響力を持ち始めている。
【次ページ】なぜここまでの市場規模となったのか?
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