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  • 2019/11/26 掲載

パワハラ指針案は「私たちを守ってくれない」内容? “加害者に有利”と言われるワケ

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パワハラ防止法に関連して厚生労働省が公表した指針案が波紋を呼んでいる。指針案にはパワハラに該当するケースとしないケースが例示されているが、奇妙な記述が多数含まれており、現場で大きな混乱が発生するのはほぼ確実である。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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社会的問題と言える「パワハラ」。ビジネスパーソンを守るべくして成立したはずの「パワハラ防止法」の指針案が物議を醸している、その理由とは?
(Photo/Getty Images)

「パワハラ防止法」で定義された“パワハラ”とは?

 先の国会では、職場のハラスメント対策強化を柱としたパワハラ防止法が可決・成立した。これまで、パワハラはビジネス上のモラルとして、やってはいけないことという共通認識はあったはずだが、何がパワハラで何がパワハラでないのか線引きは曖昧だった。

 今回の法改正によって、パワハラというのは「優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されること」とハッキリ定義された。

 大企業は2020年、中小企業は2022年から対応することが義務付けられており、勧告しても改善が見られない場合には企業名が公表される。

 罰則規定はないことから、一部の専門家は効果について疑問視しているが、企業名が公表される影響は大きく、少なくとも大手企業においては一定の抑止効果を発揮するだろう。

 同法では、事業主が講じるべき措置について指針を策定すると定めており、社内のルール作りに直面している各企業は指針案の公表を待っていた。

 厚労省は10月にようやく指針案を公表したが、あちこちから異論が噴出する状況となっていた。しかし、その批判を押し切るかたちで11月20日、労働政策審議会で了承された。

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厚労省が提示した指針の“トンデモ”な内容

 指針案では、法律で示されたパワハラの定義にしたがい、どのような行為がパワハラに該当するのか大まかな項目が示されている。

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指針案は、働く我々を守ってくれる内容になっているのだろうか?
(Photo/Getty Images)

 その後、より具体的にパワハラに該当するケースと該当しないケースが提示されているのだが、この事例が何とも奇妙なのだ。

 たとえば、「身体的な攻撃」という項目では、「殴打、足蹴りを行うこと」「怪我をしかねない物を投げつけること」はパワハラに該当すると記載されている。しかし、「誤ってぶつかる、物をぶつけてしまう等により怪我をさせること」はパワハラに該当しないとしている。

 誤って怪我をさせてしまうことは、過失による傷害であり、そもそもパワハラとは無関係な事項である。

 一方、加害者がいくら過失だと言い訳しても、状況的に明らかに嫌がらせによって怪我をさせたという場合、パワハラ以前に重大な犯罪であり、もはや刑事事件の対象である。

 本来、別々の対処が必要な事項であるにもかかわらず、これらがパワハラに関する指針という形で法令の一部を構成するということになると、やっかいな事態を引き起す。

 日本人は法律の趣旨や基本的な価値観といった抽象概念を理解することが不得意であり、法令や規則の文言そのものに過度に依存する傾向が顕著である。

 こうした状況において、上記のような記述があると、明らかに嫌がらせで怪我をさせたにもかかわらず、自分に罪はなく、パワハラでもないと主張する上司や会社が続出しかねない。

【次ページ】逆のケースも。無意味な社内ルールの温床になりかねない

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