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  • 2020/01/20 掲載

“平成の大合併”の悲劇、なぜこうなった? 財政危機で苦しむ合併自治体が各地に

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「平成の大合併」で誕生した地方自治体の財政危機が各地で表面化してきた。大分県杵築市は歳入の減少で財政再生団体に転落する恐れがあるとして、緊急財政対策に着手する。香川県さぬき市や山口県周南市は財政健全化策を進めてきたものの、財政の硬直化で苦境を脱出できていない。国の優遇措置に飛びついて安易に大型事業を進めたつけが回ってきたわけで、拓殖大政経学部の宮下量久准教授(地方財政論)は「(合併した自治体は)合併特例債の発行や合併算定替えによる地方交付税の増加で自らの財政負担を十分認識できない状況の恐れがある」とみている。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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杵築城を中心とした杵築市の中心部。市は財政が危機的状況に陥り、緊急財政対策に踏み切る
(写真:根岸聰一郎/アフロ)

杵築市は2年後に基金枯渇の可能性も

 「心配と迷惑をおかけしたことを心からおわびする」。2019年末、杵築市大田中央公民館で開かれた緊急の財政状況説明会で、永松悟市長は冒頭、集まった住民約100人に深々と頭を下げた。

 合併に伴う国の優遇措置が段階的に減額される中、市の財政が危機的状況に陥ったことを報告するための会で、中学校や図書館の改築など大型事業を短期間に集中した結果、歳出カットせざるを得なくなった実情が報告された。これに対し、住民からは驚きと怒りの声が上がった。

 杵築市は大分県北東部の国東半島南端に位置し、人口約2万9000人。2005年に旧杵築市と山香町、大田村が合併して誕生した。ミカンの産地として知られるが、人口は1950年の5万2000人余りをピークに減少し、2019年に3万人を割っている。

 政府は平成の大合併を推進するため、国が返済額の7割を負担する合併特例債の発行や自治体ごとに算定する地方交付税の総額が合併前の市町村ごとに算定した合計額を下回った場合に差額を補塡(ほてん)する合併算定替えの優遇措置を打ち出した。財政上のアメをちらつかせて自治体に合併を迫ったわけだ。

 しかし、優遇措置は10年で終わり、その後段階的に削減される。杵築市は2018年度の地方交付税が2015年度比で4億円近く減った。そこへ大型事業が追い打ちをかけ、一般財源に占める人件費、公債費など義務的経費の割合を示す経常収支比率が2018年度決算で100.9%に。80%前後が適正水準とされるだけに、財政硬直化が極めて深刻な状態だ。

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(出典:杵築市行政改革アクションプランなどから筆者作成)

 2019年度予算は市の貯金にあたる財政調整基金から約14億円を取り崩して編成したが、このままの状態が続けば2年後に基金がなくなり、2023年度に財政再生団体に転落する恐れがあるという。

 市は1月から市長給与を30%、副市長と教育長を20%、職員も平均5%のカットとした。2020年度からは主催行事を原則として廃止か休止とするのに加え、嘱託や臨時職員の削減に乗り出す方針。杵築市財政課は「1月中に緊急財政対策をまとめ、2月の住民説明会で意見を聞いたうえで、2020年度予算を編成したい」としている。


アメとムチで国が市町村合併を推進

 平成の大合併は1999年から政府主導で本格的に推進された。明治、昭和に続く3度目の大合併で、市町村の財政基盤強化などを目的に1999年の3232市町村がほぼ半減した。2019年末の市町村数は1718。秋田県は69が25、広島県は86が23、長崎県は79が21となるなど、市町村数が半数以下になった都道府県も少なくない。

 政府が音頭を取り始めた当初は、合併に消極的な自治体が多かったが、当時の小泉純一郎内閣がアメを見せつけたうえで、地方交付税を大幅に削減するというムチをふるった。その結果、合併しなければ自治体が立ち行かないという空気が漂い、2005年前後をピークに一気に合併が進んだ。

 合併した自治体の中には、経費削減につながる施設の統合などに手を出そうとせず、次々に箱物事業に乗り出すところが少なくなかった。国の優遇措置で事業の大盤振る舞いを始めたことになる。

 その典型例が兵庫県丹波篠山市だ。1999年に平成の大合併第1号として誕生したが、時計塔付き図書館や温水プールなど大型事業を続け、合併後4年で1,100億円を超す借金を抱えた。慌てて財政再建に乗り出し、職員削減や公民館閉鎖などで歳出を切り詰めたものの、財政が黒字転換したのは合併から20年後。住民に回ったつけは大きかった。

【次ページ】さぬき市や周南市も財政健全化に苦悩

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