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  • 2020/04/22 掲載

アルムナイとは何か、企業と退職者が良好な関係を築くための制度と事例を紹介

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2017年にアルムナイと企業との関係構築を支援する会社が誕生するなど、企業を退職した従業員である「アルムナイ」を制度として活用しようとする企業が大企業を中心に増えています。これまでもカムバック制度など、家族の転勤や介護など家庭の事情で退職した従業員を再雇用する制度はありましたが、多くの日本企業では「退職者(転職者)=裏切り者」とする風潮が変わってきています。この潮流の背景やアルムナイ運用を成功に導くためのヒントを明らかにします。

執筆:リープフロッグ 松田純子 取材協力 監修:ハッカズーク 鈴木 仁志

執筆:リープフロッグ 松田純子 取材協力 監修:ハッカズーク 鈴木 仁志

リープフロッグ CEO 松田純子
「広報の力で企業競争力をアップする」広報コンサルティング会社LEAPFROG 代表。
伴走型、人材育成型による、広報組織の立ち上げから事業戦略と連動した広報戦略設計、エグゼキューション支援まで実施。「広報の目的」=「企業成長」と捉え、新人、独り広報の会社でも最速で効率よく広報部門を立ち上げ、企業成長に資する広報活動が行えるよう支援。早稲田大学卒業後、大手人材会社、求人広告エン・ジャパンでのコピーライターを経て、ITベンチャーのワークスアプリケーションズ、博報堂系デジタル広告会社スパイスボックスで10年以上にわたって広報業務に従事。一貫してコーポレート、インターナル、採用コミュニケーションのすべてに関わりビジネスゴールの達成を支える。2018年、スパイスボックス経営戦略室マネージャーに就任後、2019年に起業。プロフィールはこちら

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アルムナイとは何か
(Photo/Getty Images)

アルムナイとは何か?

 アルムナイとは、元々学校の「卒業生、同窓生、校友」を指す言葉です。それが転じて、今では企業の「退職者」を指す言葉としても使われています。

 大学が卒業生と良好な関係を築き、卒業生向けの講座を提供したり、卒業生からの寄付を大学の発展に活かしたりするのと同様、企業が「退職者」と良好な関係を築き、そのつながりをビジネスに活かしたいと考え始めているのです。

 しかも主な対象者は、終身雇用を経て定年退職した人ではなく、自ら選んで転職するなどして退職した人材です。企業は今、再雇用やリファラル採用、ビジネスチャンスの創出など、企業の発展に「退職者」の力を借りたいと考えているのです。

 海外では元々アルムナイネットワークの活用が盛んで、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどの例が有名です。同社の日本法人でも、大企業のトップや起業家になったアルムナイ同士が、パーティやメーリングリストで繋がり、取引や求人情報などを共有し合っています。

 国内でも人材輩出企業として知られるリクルートには、昔から社員が自主的に集まるアルムナイネットワークが存在します。最近では電通に企業公認のアルムナイ組織ができるなど、さまざまな企業で動きが活発化しています。

アルムナイが注目された背景とは

 これまでは“裏切り者”扱いをされてきたアルムナイ。企業が退職後もつながろうとする動きの背景には何があるのでしょうか。

 2019年、トヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用を守るのは難しい局面に入ってきた」と発言したことが話題を集めました。現在、戦後長らく続いた終身雇用の崩壊や人材の流動化が進んでいます。そのため、企業では優秀な人材の確保が大きな課題となっています。

 今や企業は、一度はスキルや文化がマッチして入社した優秀な人材とつながり続け、再雇用や業務委託などさまざまな形で会社に利益をもたらして欲しいと考えています。

 このような社会変化の中で、個人も1つの企業に頼ったキャリア形成を避け、転職や副業、フリーランスなど多様な働き方を求め始めており、今後は転職者と企業がつながっていくことが普通になっていくと考えられます。

アルムナイ制度の活用効果を最大化させるコツは

 「退職者とつながる」といっても、他の業種に転職する人から起業する人までさまざまな人材がいます。また、前向きな理由で辞める人もいれば、ネガティブな感情を抱いて辞める人もいます。アルムナイ制度活用の一番のコツは「企業側の目的を1つに絞らない」ことだといいます。企業がアルムナイ制度を活用するメリットには、以下のようなことが挙げられます。
主なアルムナイ制度活用のメリット
・再雇用
・業務委託
・オープンイノベーションのパートナー
・顧客としての取引
 現在、「アルムナイ組織」や「アルムナイ制度」を企業が作る主な理由は人材確保にあるため、「アルムナイ制度」=「再雇用制度」となっていることが多いようです。

 しかし、起業している人に積極的な再雇用を呼びかければマイナスにとらえられるのは明白です。人によって、再雇用や業務委託、または顧客、企業文化と社外の状況をよく理解している立場から企業が主催するオープンイノベーションの推進役となってもらうなど、幅広い目的を持って交流することで、企業は退職者とつながるメリットを最大化できます。
アルムナイ制度活用が既存従業員にもたらすメリット
・既存従業員のエンゲージメント向上
・人材輩出企業としてのブランディング
・リファラル採用
・退職者のネガティブな情報発信の抑制
 また、退職者と良好な関係を築ければ、ビジネス面以外で既存従業員にもメリットをもたらします。これまでは“裏切り者”扱いしてきた退職者に企業が優しく接することで、既存従業員の企業へのエンゲージメントが高まることが考えられます。

 さらに退職者の活躍について積極的に情報発信することで、「人材輩出企業」として社内外にブランディングすることも可能です。従業員が退職者の活躍を見れば、自身の経験が今後どのような場で生きるのかを知る機会となり、仕事に対する意欲が向上することも考えられます。

 良好な関係にある退職者は、新しく活躍する場所で優秀な人材を会社に紹介してくれる(リファラル採用)こともあるでしょう。また、後ろ向きな理由で会社を去った退職者ともしっかりつながることで、退職後のネガティブな情報発信を抑制する効果も期待できます。

 会社も人も、時の流れとともに考え方や行動が変化します。その変化をリアルタイムに共有することで、新たなビジネス創出につながるなど、お互いにとってメリットのある関係を築くことができるのです。

アルムナイ制度活用に向く業界・職種とは

 基本的に、アルムナイ組織の規模が大きいほど企業が受けるメリットが多くなります。そのため、アルムナイ制度の活用は従業員数の多い大企業向きだと言えます。では、業種や職種、企業環境別の向き・不向きというのはあるのでしょうか。

 筆者の取材からわかってきたことは、職種や組織環境に関わらず発揮できる能力『ポータブルスキル』が高い、または業務スキルの専門生が高い人材がそろう業界、再雇用の効果面から考えると離職率が高い会社がアルムナイ制度活用に向くということです。
画像
アルムナイ制度活用に向くと考えられる業界・例
(鈴木氏の話を元に筆者が作成)


 つまり、いつでも副業できるスキルを持ち、活躍の場を自分で見つけられるような人材が多い業界、終身雇用の崩壊や人材の流動化など今の社会変化に対応しやすい人材がそろっている業界はアルムナイ制度活用に向いているのです。

 こうした個が自立している人材は退職後も会社とつながることに利点を見出しやすく、企業と退職者の双方がメリットを享受しやすいのです。
アルムナイ制度活用に向く会社
・従業員数(退職者数)が多い
・人材のポータブルスキルが高い
・スキルの専門性が高い
・離職率が高い
 また、識者によると特定の分野でのみ有効な専門知識やスキルが求められるような職種、たとえば金融や旅行関連の仕事などは、再雇用や業務委託などが双方のメリットになりやすいといいます。再雇用という意味では、採用が困難であったり採用単価が高かったりする職種もアルムナイ制度活用の効果が高いと言えます。
アルムナイ制度活用に向く職種
・特定の分野でのみ有効な専門知識、スキルが求められる職種(例:金融や旅行関連)
・採用難易度が高く、採用単価が高い職種
【次ページ】アルムナイ運営の第一歩とは

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