「AIができることは3~5つ」って本当?
──AI(人工知能)という言葉を、ニュースで聞かない日はありませんね。「〇〇社がAI活用ビジネスを開始!」とか「この製品はAI技術を使っています」とか。どんどん進化するAIに「仕事を奪われる」「人類が滅ぼされる」なんて話もあります。
AIを過大評価して「何でもやってくれるんじゃないか」と期待したり、反対に「仕事がなくなる」とおびえる風潮、ありますね。
AIがどうやって動いているかを知ろうとしないで、表面的にAIを理解しようとする人がとても多いのがよくないと思っています。まるで人のような知能を持った機械が処理しているように勘違いされています。AIがあたかも人間と同じように考えるかのように書いている雑誌や記事も多いですね。
──えっ、違うんですか?
AIをあまりわかっていない人が解説記事を書き、それを読んで中途半端な受け売りで連鎖的に記事が書かれていたりするために、世の中が間違った期待や、不要な恐れだらけになっている、というのが今の状況です。
実際のところ、今のAIができることって、ざっくり3~5つしかないんですよ。
──それだけしかできないんですか?
はい、それだけしかできないんです。で、まずAIがどのように動いているか、その仕組みから話させてください。
「AIで何ができるか?」など、表面的にしか書いていない書籍はいくらでもありますが、それでは、正しい理解ができないので。
──「分かった気」にならないためですね。よろしくお願いします!
「機械学習」ってなんですか?なぜ私の好みがわかるんですか?
まずは、すごく単純なお話をします。ここに2種類の果物があります。小さい子どもにそれぞれの名前を教えたいとき、あなたはどうしますか?
──えっと、写真を見せながら「これがりんご」「これがみかん」って教えると思います。
そうですね。あえてすごく単純に説明しますけど、そのとき子どもの頭の中では、きっと一番大きな差である「色」で区別をつけるでしょうね。すると、次に下の写真を見せて「これは何?」と聞けば多くの子どもがきっと「みかん」と答える。
過去の事例から何かを学ぶ。それを新規の事例に対して当てはめて、正解を出す。子供のころから、私たち人間が普通に行っていることですね。これをコンピュータにやらせましょう、というのが機械学習です。
事例から学習するので「学習」といい、学習した後は、初めて遭遇する事例にも対応できるから、知的といえます。でもそれしかやっていません。
──そう言われると簡単そうですが。
もう1つ、今度はAIが現在よく使われているマーケティングの事例を見せますね。構造はまったくりんご・みかんの話とまったく同じです。
ここにAさん、Bさんという2人の顧客がいます。この2人にどんなDM(ダイレクトメール)を送るべきか。Aさんが毎月何度も高価格の商品を購入してくれる優良顧客なら、より高価な商品を訴求するDMを送ればよい。Cさん、Dさんと顧客が増えても、高額商品を売りたいなら、よりAさんに近い特徴を持っている人にだけDMを送ればよい。こういった判断は、マーケティングの人が普段やっていることですね。
みかんとりんごの例になぞらえて言えば、どちらがみかんを買う顧客かどちらがりんごを買う顧客かをあらかじめ学習しておけば、新しい顧客が現れたときに、みかんを買う顧客かりんごを買う顧客かはすぐに判断できます。みかんを売りたいときには、みかんの顧客だけにDMを送ればよいことになります。
これを機械にやらせるとどうなるかというと、すごく単純化した図が以下です。下の横軸を購入金額、縦軸を購入頻度として、“優良顧客”とそうでない顧客にうまく分ける線を計算して引きます。
“計算する”というと難しく聞こえますが、「一番間違い(エラー)が少ないよう考えていくとこうなるよね」という線です。図を描いて線を引くなら、小学生にだってできます。
この線ができれば新しい顧客を分析するときも、その線のどちら側にいるかだけで優良顧客かどうかすぐに分かる。これはさっきのりんごとみかんの例とおなじように、過去の事例を学習して新たな事例に対応する、ということしかやっていませんよね。
──だとすると、AIは小学生でもできることをやっているってことですか? それだと、AIって必要なくないですか?
その意味では、そのとおりです。ただ、この説明は非常に単純化してあります。実際には「色」「購入頻度×購入金額」だけでなく、年齢とか普段購入しているものとか、どんな会話をしたかとか、非常に多くの特徴を見て判断をします。
「●×■×▲×★×◆×……」と注目しなければならない“特徴”(持っている性質)が数百から数千、多いときは数万になります。人間は何万通りもの特徴を見て判断することは頭がこんがらがってできない。しかし、機械は違います。どれだけ特徴が増えても同じように計算して、区別できます。
繰り返しになりますが、これが「機械学習」(マシンラーニング)です。機械が過去から学習して、新たなものを分類する。やっていることは単純でこれだけです。AIが未来の売上などを予測するのも、同じように過去の傾向から導き出しているというわけです。
それから、ほかにAIができることとして「推薦(レコメンド)」があります。推薦は、日常生活でもよく目にしているのではないですか?
──はい、YouTubeでもアマゾンのECサイトでもどんどんおすすめされちゃって……。AIにがっつり好みを把握されてしまっています。
よくそのように説明されていますが、実はあなたの好みをAIが把握しているわけではありませんよ。同じ閲覧履歴を持っている人がチェックしたものを当てはめているだけなんです。
たとえば「●」「▲」「■」を見ている人がすでにいたら、「●」「▲」を見ている人に「■」をおすすめする、といった具合に。実際にはもっと多くのデータを参照していたり、必ずしも完全一致ではなかったりしますが、やっている原理はこの程度の単純なもので、●や▲の内容が何であるかは、AIはまったく見ていません。言ってみれば、商品番号しか見ていません。
「AIエンジンが顧客の好みを把握して推薦します」などとうたっているサービスがよくありますが、別にAIが好みを把握しているわけではないことが分かりますか? 実際には、買った商品番号の類似性を見て当てはめているだけです。好みを分析しているのではなく、似ているかどうかを計算しているのです。
──何だか身もふたもないですね。てっきり、人間がやるように、好みを分析しているのかと思っていました。
「ニューラルネットワーク」「ディープラーニング」ってどういう意味?
あと、もう1つ、AIは「生成」「変換」もできるのですが、その前に知識としてディープラーニング(深層学習)についても説明しておきますね。
──ディープラーニング! よく聞く単語が出てきました!なんかすごい仕組みなんですよね。