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- 2020/10/22 掲載
新・小売サバイバル「アマゾン化するウォルマート」対「ウォルマート化するアマゾン」
米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

「Walmart+」がアマゾンに新鮮さと早さで勝つ
ウォルマートは9月15日、コロナ禍のためにサービス開始が4月からずれ込んだ会員優待制度「Walmart+」を正式に立ち上げた。アマゾンのPrimeの年会費119ドルと比較すると、会費は98ドルとおトクで、16万点の商品の配達が無料、さらにアマゾンにはない「2000のガソリンスタンド付き実店舗におけるガソリンのガロン当たり5セント割引」の特典もついてくる。
Primeが提供する無料動画や楽曲ストリーミングはWalmart+にないが、同サービスの最大のウリである「近隣店舗から数時間で生鮮食品が無料配送」が主目的であれば、顧客によっては利便性がPrimeに勝るだろう。ウォルマートは全米に約4750の実店舗を構えている。顧客の自宅からクルマで数十分の距離に位置するそれらの店を「ミニ配送センター」として活用することで、より新鮮な食品をより早く客の玄関先に届けられるという、アマゾンにはない強みがある。Walmart+はその長所を最大限に生かす新機軸なのである。
そもそも、ウォルマートのECで最も多く買い物をする層の上位半分はPrime会員である。1億1200万人の会員数を誇るPrimeがウォルマートの低所得顧客層を浸食し始めたことに対する、ウォルマート側の「回答」がWalmart+なのだ。 ウォルマートの商品は一般的にアマゾンのものより低価格であり、アマゾンに奪われた一部の顧客を奪い返せる可能性がある。
ウォルマートの『アマゾン化』が進行している
コロナ禍による都市封鎖(ロックダウン)で在宅となったPrime会員からさばき切れないほどの注文が殺到し、配送網の乱れと配達の遅れでアマゾンは評判を落とした。ウォルマートの反撃のタイミングとしては、今が絶好のチャンスだ。アナリストたちは、「当初はおそらく赤字であり、利益はまだしばらく出ないだろう」との見方を示しているが、ウォルマートの強い力の入れ方は明らかだ。同社はWalmart+発足に合わせて、配送事業強化のために店舗内チームを編成し、リーダーやメンバーに時給当たり3~4ドルの昇給を行っている。さらに、コロナ禍による配送需要急増で新たに雇用した50万人に加えて、年末商戦向けに2万人を増員し、Walmart+のビジネス拡大を狙う。
米モルガンスタンレー証券のアナリストたちは当初、「最初の数か月でWalmart+の会員数は2000万人を突破する」と予想していたが、これは楽観的すぎると見られている。他方、米調査企業のPiplsayの推計によれば、Walmart+ローンチの最初の2週間で米人口約3億3000万人の11%に相当する3600万人がWalmart+会員になったという。事実であれば驚くべきスピードと勢いであり、アマゾンはかなりの危機感をいだかざるを得ない。
だが、より現実的な予想は、スイスの金融大手UBSの「2021年12月末で1000万人」の予測だろう。Prime会員の1億1200万人には遠く及ばないものの、決して無視できない存在である。
UBSの9月上旬のアンケート調査によれば、Prime会員の17%が「週に1回以上ウォルマートのECで買い物をする」と答えているため、これらの顧客はWalmart+に移行させやすいはずだ。事実、回答者のおよそ3分の1がWalmart+の会員になりたいと述べている。
こうした流れを踏まえ、米ブルームバーグのコラムニストであるサラ・ハルザック氏は9月17日付の記事で、ウォルマートが2005年に開始されたPrimeのフォーマットを15年後にまねたという事実は、従来ネットと実店舗のすみ分けができていた両社のビジネスモデルの違いがぼやけ、「ウォルマートの『アマゾン化』が進行していることを物語る」と指摘している。
【次ページ】一方で『ウォルマート』化するアマゾン、そしてWalmart+の巧妙なマーケティングとは
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