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  • 2021/01/28

期待される“水素活用”にも落とし穴?中途半端な「日本の脱炭素」の問題点

政府が2050年までの温室効果ガス実質ゼロ排出を宣言したことで、日本でも本格的な脱炭素政策がスタートした。政府は今年中に新しいエネルギー基本計画を策定する見込みだが、2050年の電源構成比率について、再生可能エネルギーの比率を50~60%に、水素もしくはアンモニアを使った火力を10%にするという「参考値」を提示している。再生可能エネが主力電源になるという大まかな見通しが示されたことで、エネルギーシフトはより具体的な段階に突入したが、政府内部の議論では水素の調達方法についてまだ明確化されていない。脱炭素政策において水素をどのように位置付けるのか早急にコンセンサスを得る必要があるだろう。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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政府が2050年の電源構成参考値を提示。水素・アンモニアを使った火力を10%にするという「参考値」を提示しているが、日本の脱炭素政策における水素の議論の行方とは
(Photo/Getty Images)


海外における水素の位置付けははっきりしている

 風力や太陽光など、再生可能エネルギーにおける最大の問題点が出力変動であることは言うまでもない。太陽光は主に昼間だけ発電するので、時間の推移によって出力が変わるが、洋上風力の場合、場所や気候によって変動パターンはさまざまである。最終的にはポートフォリオとして全体を最適化し、需要と供給を柔軟に調整する必要があるため、従来型の集中電力システムと比較すると難易度は高い。

 極端な供給不足をカバーするため、発電余力を大きくすれば、今度は余剰電力の問題が発生するが、これを解決する有力な手段の1つとされているのが水素の利用である。

 一般論として水素を生成する方法には、化石燃料を用いる方法と水を電気分解する方法の2種類がある。化石燃料からの生成は、石油製品の製造工程から抽出したり、化石燃料から直接取り出すことになるが、これらの方法では大量の二酸化炭素が発生する。

 脱炭素シフトを進めるために、二酸化炭素を排出しながら水素を製造するというのはあまり意味がない。もしこの方法で水素を利用するのなら、CCUS(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage、二酸化炭素の回収、利用・貯留)とセットにする必要があるが、現時点では相当なコスト高が予想される。

 欧州における水素の議論は、基本的に再生可能エネの余剰電力対策という位置付けであり、水素を単独のインフラとして利用する話にはなっていない。再生可能エネの比率が極めて高くなり、余剰電力が発生するのが確実であることから、再生可能エネの余剰電力で水素を作り、その水素を火力発電やFCV(水素を使った燃料電池車)に充当するプランが有力視されている。

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欧州における水素の議論は、基本的に再生可能エネの余剰電力対策という位置付けであり、水素を単独のインフラとして利用する話にはなっていない。はたして日本は水素をどう位置付けるのか……
(Photo/Getty Images)


定まらない国内における水素関連の議論

 だが日本国内の議論を見ると、水素利用についての明確な方針は定まっていないように見える。先ほどの電源構成比率に関する政府の資料には、水素の調達元としてCCUSとセットにした化石燃料と、再生可能エネの余剰電力の両方が記載されており、明確なロードマップは示されていない。大量の水素を確保するため、海外から輸入する方策も議論されているようだ。

 メディアの報道もかなり曖昧である。水素はあくまでも2次エネルギーなので、太陽光や風力(あるいは火力や原子力)といった1次エネルギーを代替することは理論的に不可能だが、一部ではそのように受け止められる内容の記事も見受けられる。

 仮にCCUSとセットにした化石燃料からの安価な水素生成が実現すれば画期的なことだが、コスト面での難易度の高さを考えると、短期間での導入は難しいだろう。そうなると、水素製造の主力は再生可能エネの余剰電力ということにならざるを得ないが、もしそうであるならば、再生可能エネのロードマップをより明確化する必要が出てくる。

 太陽光発電の出力変動は需要変動とほぼ一致する(昼間に増大し夜間に減少する)はずなので、風力発電における需要と供給の不一致が余剰源力を生み出す主な源泉である。逆に言えば、太陽光と風力のおおよその比率が定まらなければ、出力変動の幅も正確に予想できないことになる。送配電技術が向上し、全体最適化の能力が高まってくれば、余剰電力対策の重要度も低くなるので、水素の側から見ると余剰電力が安価な調達ルートではなくなってしまう可能性も否定できない。


 もっとも、国策として再生可能エネを普及させるという現実を考えた場合、余剰電力を無償(あるいはほぼ無償)で水素製造に回すという選択肢は十分にあり得るだろう。いずれにせよ、再生可能エネの普及率が何%になった時に、いくらのコストで水素を製造できるのか詳細なシミュレーションが必要であり、その結果をベースに幅広い見地から議論することが重要だ。

【次ページ】CO2排出を伴う「水素活用」、本末転倒な議論の内容とは?

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