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  • 2023/02/02 掲載

なぜWeb3は「期待していたのと全然違う」「詐欺だらけ」と批判にさらされるのか

中島聡氏が語るWeb3の未来

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ブロックチェーンやNFT、スマートコントラクト、メタバース、DAOなど、多様な技術やアイデアを包含したWeb3への注目が高まっている。一方で「なんちゃってWeb3アプリケーションでは、非中央集権というWeb3の理想を実現することはできていません」「Web3に対する理解がないまま、既存企業や組織がWeb3に手を出している」と警鐘を鳴らすのが、日本で初めて米国マイクロソフトに転籍し、Windows 95の開発にも携わった天才プログラマー、中島 聡氏だ。中島氏がWeb3を推進するにあたって、問題点を正しく理解する必要性を説いた。

執筆:中島 聡

執筆:中島 聡

エンジニア・起業家・エンジェル投資家。早稲田大学大学院理工学研究科修了・MBA(ワシントン大学)。1985年に大学院を卒業しNTTの研究所に入所し、1986年にマイクロソフトの日本法人(マイクロソフト株式会社、MSKK)に転職。1989年には米国マイクロソフト本社に移り、ソフトウェア・アーキテクトとしてMicrosoft本社で Windows 95 と Internet Explorer 3.0/4.0 を開発。Windws95に「ドラッグ&ドロップ」と「(現在の形の)右クリック」を実装したことによって、両機能を世界に普及させる。後に全米ナンバーワンの車載機向けソフトウェア企業に成長するXevo(旧UIEvolution)を2000年に起業し、2019年に352億円(3億2,000万ドル)で売却。元EvernoteのCEOが立ち上げたmmhmmの株主兼エンジニア。現在はフルオンチェーンのジェネラティブアートの発行など、Web3時代の新たなビジネスモデルを作るべく活動している。

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中島聡氏

Web3に対する幻滅

photo
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 Web3が注目を集めていますが「期待していたのと随分違う」と感じる方も多いのではないかと思います。

 ブロックチェーンやスマートコントラクトといったWeb3の根幹となる技術は確かに画期的ですが、扱えるデータの種類や処理能力などに大きな制約があります。

 Web3の技術的な制約を回避しようとした「なんちゃってWeb3アプリケーション」では、非中央集権というWeb3の理想を実現することはできていません。運営企業がデータを握っているという中央集権的な仕組みのままならばWeb2.0とまったく同じですし、あえてブロックチェーンを使う意義はほとんどありません。

 Web3を謳い文句にした企業も、ビジネスの本質は従来のIPビジネスで、NFTはファンの獲得や資金調達のツールとして利用しているだけというケースがほとんどです。さらにX2Earnゲームのように、ポンジスキーム(注)がビジネスモデルになってしまっているものさえあります。

注:出資を募り、運用益を配当金として支払うとうたって資金を集め、実際の運用はせずに、新しい出資者からの出資金を配当金として支払いながら、破綻することを前提に詐欺行為を行うこと

 私が見るところ、こうしたWeb3に対する理解がないまま、既存企業や組織がWeb3に手を出しているケースも少なくないようです。

 Web3を対象とした投資ファンドについても、首をかしげてしまうものが散見されます。CuratedというNFTアートなどに投資する投資ファンドは、NetScapeのマーク・アンドリーセンといったそうそうたるメンバーが参加しており、CryptoPunks、Squiggle(注)、Nounsといった人気の高いNFTへの投資を行っています。私の目に留まったのは、Curatedが「永続性のあるオンチェーンNFTにこだわっている」という主旨の発言をしていることでした。オンチェーンNFT、つまりすべてのデータや履歴がブロックチェーン上にあって永続性のあるNFTだけを扱うというのなら、Web3ならではの投資ファンドといえます。CryptoPunks、Squiggle、Nounsに関しては確かにブロックチェーン上にすべてのデータが載っているのですから、オンチェーンNFTです。

注:ジェネラティブアートのNFT。くねった線が特徴

 ところが、Curatedが保有する一部のジェネラティブアートNFTは、オンチェーンではないのです。アート生成プログラム自体はブロックチェーン上に書き込まれているのですが、生成処理自体はブロックチェーン外のサーバーで行い、生成された画像データもやはりブロックチェーン外のサーバーに保存されます。残念ながら、こうしたやり方では永続性が保証されません。

 技術に通じているはずの業界関係者であっても、誤解に基づいてビジネスを進めているケースがあり、Web3業界は極めて混沌としています。


 今のWeb3を巡る状況は、私がInternet Explorerやマイクロサーバーを夢中で作っていたWeb1.0の頃と同じ、まだまだ黎明期なのでしょう。


ガバナンス・トークンの問題点

 もう一つ大きな疑問が、ガバナンス・トークン(注)の存在です。

注:保有者がその運営への意思決定に参加する権利を与えるトークンのこと

 ガバナンス・トークンを使って資金調達に走るWeb3スタートアップ企業も目につくようになってきました。

 これは、非常に大きな問題なので、もう少し詳しく説明しておくことにしましょう。

 Web3以前だと、スタートアップ企業が資金集めをする唯一の方法は、株式の発行でした。スタートアップ企業の創業者は、ベンチャーキャピタルに対してビジョンやビジネスモデルを熱くプレゼンし、気に入ってもらえたところで、株の価格交渉に入ります。

 上場している企業と異なり、未上場スタートアップ企業の株価は、買い手であるベンチャーキャピタルと創業者、この二者の交渉で決まります。

 仮に、全株式である100株を保有している創業者が2億円調達したかったとしましょう。ベンチャーキャピタルがこの企業の価値を12億円と認めたのであれば、創業者は新規に20株を発行し、これを2億円でベンチャーキャピタルに売ります。

 1株当たりの価値がどれだけ減少したかを希薄化率といいますが、この場合ならば、
希薄化率=20(新規発行株式の総数)÷100(増資前の発行済み株式総数)×100=20%
ということになります。

 しかし、企業価値が4億円だと見なされたのであれば、スタートアップ企業は50株を新規発行しなければなりません。
希薄化率=50(新規発行株式の総数)÷100(増資前の発行済み株式総数)×100=50%
 希薄化率は50%と大幅に上がってしまい、創業者の持っている株式持ち分が大きく下がってしまいます。

 スタートアップ企業の創業者は、希薄化率が上がりすぎないようにしつつ、より多くの資金を調達するという微妙なバランスをとらなければなりません。

【次ページ】日本政府のWeb3推進に物申す

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