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  • 2023/08/07 掲載

任天堂は「歴代マリオシリーズ」でいくら稼いだ?独特すぎる“商売の仕組み”を大解説

連載:キャラクター経済圏~永続するコンテンツはどう誕生するのか(第14回)

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スーパーマリオが映画業界で空前絶後のインパクトを残している。東宝東和によると、2023年4月28日公開の『The Super Mario Bros. Movie(ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー)』の興行収入は約13.5億ドル(約1,900億円、6月26日時点)を突破。これは『アナと雪の女王』(12.8億ドル)や『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(13.4億ドル)を抜き、世界映画史上トップ16位に入る数字である。この反響の大きさから、あらためてマリオというコンテンツの人気が伺える。今回は、そんな任天堂が生み出した最強コンテンツ「マリオシリーズ」がどれほどの売上を上げてきたのか、またその独特すぎるマリオシリーズの収益構造を解説したい。

執筆:エンタメ社会学者、Re entertainment代表取締役 中山淳雄

執筆:エンタメ社会学者、Re entertainment代表取締役 中山淳雄

東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在し、日本コンテンツ(カードゲーム、アニメ、ゲーム、プロレス、音楽、イベント)の海外展開を担当する。早稲田大学ビジネススクール非常勤講師、シンガポール南洋工科大学非常勤講師も歴任。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。『推しエコノミー「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』(日経BP)、『オタク経済圏創世記』(日経BP)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHPビジネス新書)など著書多数。

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任天堂が生み出した最強の稼ぎ頭「マリオシリーズ」の特殊な収益モデルとは?
(Photo:Matthieu Tuffet/Shutterstock.com)

マリオ新作映画はどれだけヒットしてる?歴代映画と比較

 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーの興行収入約13.5億ドルという数字はどれほどの規模なのだろうか。

 これは、国内映画史上最高額の『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(国内404億円、海外0.7億ドル)はもとより、海外市場へ展開した作品の最高額となった『すずめの戸締り』(国内148億円、海外1.7億ドル)と比べても、桁違いにグローバルで成功した数字と言える。

 もちろん、日本に縁を持つハリウッド化映画作品と比較してもダントツ1位である。たとえば、『Godzilla』(5.25億ドル)、『ラスト サムライ』(4.56億ドル)など、日本由来のIPやモチーフを使ったハリウッド映画も好業績を上げてきたが、それら作品と比べてもトリプルスコアの差を付けるほど記録的な数字である。

 これまで、ハリウッド映画の原作はオリジナルや小説脚本をベースにしたものが多く、マーベルなどのコミックスを原作にした作品は5%にも及ばず、ゲーム原作の作品となれば1%未満という状況であった。だが、1980年代以降、人気を博したゲーム出身のIPは立派な大衆向けキャラクターとしてポジションを確立しており、近年ゲーム原作の映画作品は徐々に増えてきている。

 たとえば、ゲーム原作映画のランキングを見ると、『Warcraft』(4.39億ドル)や『名探偵ポケモン』(4.31億ドル)、『Sonic the Hedgehog2』(3.98億ドル)など並ぶ(図表1)。これらと比較しても、今回のマリオ新作で約13.5億ドルという興行収入がいかに米国映画史上においても桁が外れたものであるかが伺い知れる。

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図表1:最も売れたビデオゲームの映画化作品
(出典:the-numbers.comより筆者作成)

 ちなみに興行収入13.5億ドルの国別の内訳を見ると、米国で4割強(5.7億ドル)、日本で1割弱(約1億ドル)で半分、残りは欧州からアジアまでかなり幅広い視聴地域まで視聴されており、それこそ『Godzilla』や『アナと雪の女王』などと遜色ない。まるでディズニー映画のように、幅広く世界中で観客を集めたのだ。

 そんなマリオ映画にも苦い記憶がある。30年前、米国でマリオが絶頂期にあった時期に実写版1作目『Super Mario Bros.』がディズニーの手で作られ、制作費4,200万ドル、興行収入3,900万ドル(出典:Box Office Mojo)という厳しい結果に終わっている。なぜ今、生まれ変わったマリオ映画がこれほどの成功を収めているのだろうか。

マリオシリーズはどれだけ凄い?歴代ゲームと比較

 言わずと知れたゲーム業界の金字塔「マリオシリーズ」は、ゲーム業界でもテトリスやポケモンの約5億本をおさえ、累計7.6億本と世界で最も売れたゲームシリーズとなっている(図表2)。

 累計7.6億本という数字は、世界25億人のモバイルゲーム人口から見れば1/3程度だが、約8億人の家庭用ゲーム機のプレイヤー人口から見れば、ほぼ100%と言えるような数字だ。

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図表2:最も売れたビデオゲームシリーズ(2022年時点)
(出典:VGChartz“Best-selling video game franchise worldwide as of May 2022”より筆者作成)

 1983年7月、任天堂から『ファミリーコンピュータ』が1万4,800円で発売され、そこからマリオの歴史が始まるが、実はすぐに爆発的なヒットになったわけではなかった。

 マリオは、もともとはアーケードゲーム『ドンキーコング』(1981年)に登場するJumpmanというキャラクターである。最初に発売された『ドンキーコング』は113万本とヒット作にはなったが、最初の1年はファミコンの在庫がダブつく状況であった。

 むしろ、ファミコンがブームになるのは、ディスカウントストアを通じて9,800円程度の価格で販売されるようになってから。その頃になると、『ゴルフ』『テニス』『麻雀』などのスポーツシリーズのゲームソフトも販売されたほか、『ゼビウス』など100万本売れるヒット作が出始める(1984年末頃)。まだ、このタイミングになっても、ファミコンは200万台の販売実績だった(出典:土屋新太郎〈1995年〉.『キャラクタービジネス:その構造と戦略』.キネマ旬報社)。

 そして“最も売れたファミコンソフト”となる『スーパーマリオブラザーズ』が1985年9月にようやくデビューする。ファミコン登場から2年遅れで発売されたマリオは、コントローラーの操作性とピタリとはまり、ダッシュからジャンプ、ピタッと止まる精度まで含め、「家庭用ゲームのインターフェース」の凄まじさを体現したソフトだったと言える。

 結果681万本も売る大ヒット作になり(社会問題となった1988年のドラクエIIIですら380万本)、ファミコン本体は1985年で約600万台、1986年で約1000万台となり、まさにこの発売後3~5年目が最も伸びる結果となった。

 ちなみに週刊少年ジャンプが『ファミコン神拳』の連載を開始するのも1985年。マリオに魅了されていた編集者・鳥嶋和彦氏は、『DRAGON BALL』『北斗の拳』『CITY HUNTER』など人気作品が連なるジャンプで、「ファミコンの裏技解説を行う、マンガでもない連載」が人気投票3位になったときに、子供たちのトレンドがマンガからゲームに移ったことを実感している(出典:中山淳雄『エンタの巨匠』日経BP2023のインタビュー)。

 ここからは、そんな大ヒットコンテンツを生み出した任天堂が、マリオシリーズ全体でどれだけ収益を上げたのか、各種公表データから試算してみたい。 【次ページ】 マリオで任天堂いくら稼いだ?独特すぎる商売の仕組み

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