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- 2022/09/27 掲載
『ONE PIECE』の売上構成を大解剖、過去最大の「メディアミックス成功例」と言える理由
連載:キャラクター経済圏~永続するコンテンツはどう誕生するのか(第4回)
ジャンプの救世主だった『ONE PIECE』
ONEPIECEが連載を開始した1997年7月はまさに「時代の切り替わり」でもあった。ジャンプは1995年2月に週刊マンガ誌史上最高となる653万部の“頂”まで絞り上がっていくような成長を見せた。だが、それを演出してきた『幽☆遊☆白書』(94年7月終了)、『ドラゴンボール』(95年6月終了)、『SLAM DUNK』(96年6月終了)、『キャプテン翼ワールドユース編』(97年8月終了)などの作品が次々に連載終了し、1997年の平均発行部数は450万部まで下がる。
なんと頂点からたった2年で200万部も落ちていった凋落の時代、先の見えない下り坂でこそ、人々は希望となる光の瞬きを渇望する。ONE PIECEは同時期に連載がスタートした『NARUTO -ナルト-』(1999年9月開始)とともに、ジャンプも集英社も読者もが求め、スターダムに押し上げられた作品でもあるのだ。
読者を惹きつける「作中にちりばめられた工夫」
筆者が考えるONE PIECEの読者を惹きつける要素はいくつかある。たとえば、それが顕著に表れ始めたのが単行本5~8巻「パラティエ編」と8巻~11巻「アーロンパーク編」の頃だった。たとえば、ONEPIECEの主人公モンキー・D・ルフィが航海を通じて出会う敵キャラの個性、敵キャラの支配から人々を解放していくルフィの人間力、作中にちりばめられたギャグとシリアスなシーン、さらにはルフィたちによるボスキャラ討伐からの酒盛りといった、ドラマ『水戸黄門』のように分かりやすく“可視化”されたストーリーのバイオリズムパターンなどだ。
それだけでなく、作中に登場する「三大将」「五老星」「七武海」「四皇」と呼ばれる、主人公たちの前に立ちはだかる強敵が「努力と友情の力で勝利しなければならない目標」として描かれ、本作の世界感を広げる機能を果たしている。
また、取ってつけた設定には見せないよう、本作の冒頭から最終ゴールとして設定されている「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」に主人公たちが少しずつ近づいていくことを、作中にちりばめられたヒントが教えてくれる点も読者を離さない要素と言えるだろう。
25年のジャンプ史と振り返る『ONE PIECE』の凄さ
鮮烈デビューとはこのことだろう。1975年生まれのONEPIECEの作者・尾田栄一郎氏は、中学2年のときから海賊をテーマにしたマンガを描き始め、1992年の高校時代に「手塚賞」に準入選。その後、大学を1年で中退し、『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の作者・和月伸宏氏のアシスタント時代に出した読み切りマンガ『ROMANCE DAWN』(1994年)を原型として、ONEPIECEを1997年から連載開始。まさかの連載第1作目にして、そこから25年にわたって時代を駆け抜ける、マンガ史上最大級のヒット作を描き続けることになる。1997年登場初期から常に(人気順での)1~3番目に掲載されており、『Hunter×Hunter』(1998年3月)や『NARUTO』などの人気作もひしめく中で不動の1位を保ち続けてきた。2010年代に入ってすら『暗殺教室』『僕のヒーローアカデミア』『Dr.Stone』『鬼滅の刃』といった人気作と伍してわたり、ほぼこの15年間ゆるがない位置にあった本作は、2022年現在、エンディングに向けての道筋をカウントダウンに入っている。
その業績は記録続きで、2002年発売の第24巻は初版252万部として当時のコミックスのギネス記録をつくり、2005年に第36巻で累計1億冊に「史上最速」で到達し、2022年には全世界あわせて累積5.1億部(国内は4億部)という全人類未踏の数字にまで到達している。日本漫画家協会賞も第41回(2012年)に受賞。しかし「マンガとしての記録」は、そのごく一部でしかない。
メディアミックスの大成功事例と言えるワケ
東映アニメーション制作のアニメは1999年10月から20年以上も地上波フジテレビで放映されており、2021年11月時点で合計1000話達成。話数ベースで言えば『サザエさん』『ドラえもん』『それいけ!アンパンマン』『クレヨンしんちゃん』『名探偵コナン』などに次ぎ、アニメ界でも間違いなく“国民的アニメ”である。劇場版アニメでは日本アカデミー賞「優秀アニメーション作品賞」に第32回(2008年)から第43回(2019年)まで過去5作で受賞。音楽でも日本ゴールデンディスク賞に2007年、2010年と「アニメーション・アルバム・オブ・ザ・イヤー」に選ばれている。
その上、アクションゲーム『ワンピース海賊無双』(2012年)で、「日本ゲーム大賞」から「Play Station Award」など、優秀なゲームやエンタメ作品を表彰する賞を総ナメしている。また、玩具であっても『ONE PIECE LOGBOX』で日本おもちゃ大賞を2011年に受賞。ここまで受賞づくしと言えば、当然ライセンスでも2010、2012年ともに「ライセンシング・オブ・ザ・イヤー」を受賞。演劇ですら『スーパー歌舞伎Ⅱワンピース』では大谷竹次郎賞・文化庁芸術祭賞を受賞したほか、果てはファッションのベストジーニスト賞にすら選ばれている。
前人未踏、空前絶後、天下無双。『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』に『SPY×FAMILY』など直近にも大成功作品を生み出すジャンプだが、それでも巻数をそこまで重ねていないそれらの作品は、メディアミックスのすそ野という意味でONE PIECEに及ぶほどではない。
まだマスメディア最強時代の残り香をまとい、週刊マンガとテレビなど「マス」向けに生み出されたONE PIECEは、100年後に「あれが、最後の”国民的”ヒットマンガ・アニメだった」と言われるようになるかもしれない。そのくらいネットとYouTube主導のヒット作品は分散的で多様で、マスメディア時代の“国民的”と言える横広がりのヒット作とはちょっと色合いが違ってきているようにも思える。
【次ページ】部数半減…読者離れが進んだ2010年代、何が売上を支えた?売上構成を徹底分析
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