• 2026/07/18 07:10 掲載

【AIで進化】元楽天・堀内公博氏が示す、競争力に差がつくABテストの新常識

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AIの進化で、マーケティングの現場は大きく変わり始めている。だが本当に差がつくのは、ツールを使うことではない。楽天の急成長、海外事業、IPO前後の組織改革を経験した堀内公博氏は、競争力を分ける鍵がABテストの積み重ねにあると見る。顧客を分かったつもりの会社と、実際の反応から学ぶ会社。その差は、思った以上に残酷だった──。
執筆:データドリブン・コンサルティング代表取締役 堀内 公博

データドリブン・コンサルティング代表取締役 堀内 公博

一橋大学院生時代の1999年にアルバイトとして当時社員20人の楽天で働き始め、その後11年半で1万人以上に拡大する超急成長を経営の中心で体験。2002年には、楽天グループ初のマーケティング組織を1人で立ち上げ、現在に至るグループのマーケティングメソッドをゼロから構築。2012年、国内大手ゲーム会社に移り、米国シリコンバレーで、海外モバイル事業の立ち上げ責任者として約3年間にわたり活動。その後2015年から5年半にわたり、グローバルのマーケティング部門責任者として、日本発のデジタル商品の世界展開に向けたマーケティングを牽引。同期間に50年以上の歴史を誇る同社の歴代最高益を複数回実現し、累計DL数7億回を越えるモバイルタイトルの創出など、マーケティングを通じた収益性改善に大きく貢献。2020年からは、医療福祉系人材紹介の最大手企業である、トライトのCMOとして、無名ながら国内有数のデジタルマーケティング予算を持つマーケティング組織の構築・改革に取り組み、同社のIPOおよび広告宣伝費比率の大幅な改善を実現。現在は、2024年に設立した、データドリブン・コンサルティングで、東証プライム上場企業からスタートアップ企業まで幅広くマーケティングおよび経営戦略のコンサルティングを行う。

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競争力を分ける鍵は、ABテストの積み重ねにある
(画像:本文をもとに生成AIで作成)
※本記事は『なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?事業成長をリードするデジタルマーケティング・マネジメント』を再構成したものです。

デジタル市場では「1つの訴求」だけでは勝てない

 マルチターゲティングの概念の重要性は、ビジネス環境のデジタル化に伴い増大しています。デジタルビジネスの世界では「Winner takes all(勝者が市場を総取りする)」という言葉がよく使われます。Web検索のGoogle、ECのAmazon、SNSのFacebook、スマートフォンのApple、ビジネスソフトやOSのMicrosoftの頭文字GAFAMを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。

 デジタル環境でのビジネスが、それ以前のビジネスと決定的に異なるのは、勝者が一極集中的に強くなることです。理由は、ワンプラットフォームで簡単にグローバルにサービス提供できるからです。いったん勝者になると、その会社には継続的に顧客情報とコンテンツが集まります。プラットフォーム型のビジネスの利点は、プラットフォームが顧客のターゲティングをしなくてよいことです。それは、プラットフォームが提供する機能や蓄積されたコンテンツを、顧客自身がそのニーズに合わせて工夫して利用するからです。

 GAFAMは極端な例ですが、同じような話は、多くの産業のデジタル市場で起こっています。強者はますます強者に、弱者はますます弱者になっています。

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【画像付き記事全文はこちら】ターゲティングイメージの比較

 このようなデジタルビジネスの特性を理解すると、ユーザーインサイト型のマーケティングは、相性が悪いことがわかります。「総取り」するためには、あらゆるターゲットのユーザーを捨ててはいけないからです。複数のターゲットユーザーを同時並行でマーケティングする必要があります。

 この話は、デジタルビジネスに限定された話ではありません。デジタル化の進展で、世の中には膨大な情報があふれています。消費者ニーズの多様化は進むばかりです。そのような市場環境においては、これまでマスマーケティングで獲得できたような最大公約数の規模は確実に縮小しています。1つの訴求点で、大きなパイを取ることが難しくなっているのです。

 マルチターゲティングの考え方は、これから重要度が増すことこそあれ、減退することはありえません。つまり、その実践手法を習得することは、これからのマーケターにとっての必須事項といえます。そしてその実践には、ユーザーインサイトの手法では対応できません。そこで重要性が増すのがABテストです。以下では、ABテストを用いたマルチターゲティングの実現手法を説明します。
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マルチターゲティングはABテストで実践する

 マルチターゲティングの実践には、ABテストが最適な手法です。ここでは、リサーチ型マーケティングではなぜ困難なのかを整理した上で、ABテストによる実践方法を説明します。

 マーケティングの基本は、「誰に」「何を」「いつ」伝えるか、その組み合わせの正解を見つけることです。マルチターゲティングとは、その組み合わせがターゲットの数だけ存在することを意味します。

 この前提に立つと、リサーチ型手法の限界が見えてきます。問題はシンプルで、時間とコストがかかりすぎることです。少数のセグメントに対して最適な訴求を見つけるだけでも、多くの時間とコストが必要です。それを10~20のセグメントに広げれば、負担が膨大になるのは明らかです。

 さらに、ニッチなターゲットになるほどデータ量は限られ、分析精度も低下します。時間とコストをかけるほど精度が落ちる、いわば限界効用が低減していく構造です。

 これに対してABテストは、実際の市場で顧客行動を、小さなコストで迅速に検証できるという利点があります。マルチターゲティングにおける「誰に」「何を」「いつ」の組み合わせは膨大であり、事前のリサーチだけで正解にたどり着くことは現実的ではありません。

 だからこそ、事前調査に時間をかけるのではなく、市場でテストを重ねながら、よりよい組み合わせに近づいていく必要があります。この要件に最も適した手法がABテストです。

 どんなに小さなターゲットでも、ABテストをていねいに繰り返す。それによって顧客理解を深め、一歩ずつ改善していく。この積み重ねが、マルチターゲティングの精度を高めていきます。

 これを看護師の転職の例で考えます。転職理由はさまざまで、職場の人間関係、スキル向上の限界、残業の多さ、子育てによる勤務スタイルの変更、給与への不満などが挙げられます。

 ユーザーインサイト型のターゲティングでは、これらのうち上位1~2点に絞って、訴求内容やクリエイティブを設計します。

 一方、マルチターゲティングでは、こうした理由を網羅的にとらえ、それぞれに対応するアプローチを検討します。たとえば、転職理由ごとに解決事例のバナーを用意し、それらをABテストすることで、どの訴求にどの顧客セグメント(誰に)が反応するかを特定します。

 次に、そのセグメントごとに、同じ訴求軸の中でバナーのバリエーション(何を)をABテストし、反応率を改善していきます。

 このようにセグメントを段階的に細分化することで、従来は取りこぼしていた転職需要まで拾い上げ、求職者の獲得量を拡大できます。 【次ページ】AIが、膨大な組み合わせの中から勝ち筋を絞り込む
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