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  • 2013/07/25

日本が誇るフェロー・CTOに学ぶノウハウ定義書 「多様な意見をひとつに結び世界を変える革新技術を」デュポン

デュポン 執行役員技術開発本部長 林 隆一氏

フェロー、CTOの高い業績の背景には、独自の考え方、思考・行動の原則=ノウハウがある。これらのノウハウには、企業の創造力、イノベーション力を高めるパワーがある。そして、日本を元気にするヒントがある。本連載では、フェロー、CTO自身に、自らのノウハウを語っていただく。第7回は、デュポン 執行役員 技術開発本部長の林 隆一氏に聞いた。林氏は、日本のデュポンの研究開発組織の立ち上げ時期から研究者としてのキャリアを重ね、現在は技術開発本部を掌握。また、経営企画部門も担当している。

アクト・コンサルティング 取締役 野間彰(R&Dダイレクトコミュニケーション推進会議)

アクト・コンサルティング 取締役 野間彰(R&Dダイレクトコミュニケーション推進会議)


野間 彰
アクト・コンサルティング 取締役
経営コンサルタント

1958年生まれ。大手コンサルティング会社を経て現職。
製造業、情報サービス産業などを中心に、経営戦略、事業戦略、業務革新、研究開発戦略に関わるコンサルティングを行っている。主な著書に、『ダイレクトコミュニケーションで知的生産性を飛躍的に向上させる研究開発革新』(日刊工業新聞社)、『システム提案で勝つための19のポイント』(翔泳社)、『調達革新』(日刊工業新聞社)、『落とし所に落とすプロの力』(リックテレコム)、『団塊世代のノウハウを会社に残す31のステップ』(日刊工業新聞社)、『ATACサイクルで業績を150%伸ばすチーム革命』(ソフトバンク クリエイティブ)などがある。


R&Dダイレクトコミュニケーション推進会議

Webサイト: http://www.act-consulting.co.jp/rd_dc.html

「R&Dダイレクトコミュニケーション推進会議」は、対面型コミュニケーション、ITを用いた遠隔地間の双方向コミュニケーションを活発化させ、研究開発部門の知的生産性を高める活動を推進しています。ダイレクトコミュニケーションは、研究所の、風土改革、オフィース改革、研究所の新設・改造を通じて達成します。

<推進会議メンバー>
株式会社コクヨ、日揮株式会社、株式会社アクト・コンサルティング

これまでの連載


コミュニケーションで「ギャップ」を埋める


――世界的に有名な巨大なグローバル企業の日本法人で、技術開発をリードしてこられました。このような高い業績を得るために、日ごろ常に意識して実践してこられたことはあるのでしょうか。

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デュポン
執行役員技術開発本部長
林 隆一氏
【林 隆一氏(以下、林氏)】
第一線の研究者も、技術開発をマネジメントするCTOも、有能な人は皆、バランスが優れていて、コミュニケーションも上手い。私はまだまだ勉強中で、日々新しいことに挑戦し、戦っている最中ですが、私もそのようにありたいと思っています。

 テクノロジーを深く知っているだけでは、独りよがりになります。いろいろな社内の部門や顧客とコミュニケーションをとって、自分たちの持っている技術を現実の市場で価値あるものにしなければなりません。デュポンの場合、グローバルな市場を指向するため、その事業もそれを支える社員のカルチャーも、顧客も多岐にわたっています。そのため、その技術を市場に投入するまでの過程で、いろいろ多面的な意見や相違点、異なる視点など、「ギャップ」が現れます。そのさまざまな「ギャップ」を何とかひとつの方向性に沿ってまとめ、前に進め、その中で自分たちの技術から価値を生み出すことが必要です。

――その「ギャップ」とは、どのようなものでしょうか。

【林氏】
たとえば、技術開発部門は、常に技術的にすばらしいものを作ろうとしますが、市場を見ている顧客からは、欲しいものはもっと違っていて、それは技術開発という視点では、大して価値があるものではないかもしれません。そのような視点のギャップを埋め顧客に喜ばれ、同時に技術スタッフのモチベーションを維持しながら開発を進めなければならない。

 また一方でローカルと本社との関係の視点のギャップもあります。典型的な例では、日本では特に、すべてにわたり高い品質を求めらる場合が多いのですが、それに対応するためには相応のコストがかかる。ところが本社からみると、市場優位性維持という点から容認できない、といったギャップもあります。複合した市場ニーズに応えるため、単一事業部門ではなく「ワン・デュポン」として総合力を発揮すれば、企業としての競争力を高められますが、実際のビジネスの現場を担当する事業部門には、もっと別な重要な課題がある場合もある。どうやって、グループ全体を良くする行動を引き出すかといった議論でのギャップもあります。

――そのようなギャップは、どうやってうまくまとめるのですか。

【林氏】
たとえば、先ほどの日本の品質に対する本社との意見が異なる場合、日本市場での自社と競争相手の価格、品質はこうだ。もし品質を高めないなら、他の何で勝つのか、といった市場原理に基づいたロジックで説得するといったことが必要です。先ほどのワン・デュポンの場合は、ポリマーならポリマーの1事業部門として競争相手と戦うのではなく、そこへフイルムなど、他の事業部門の技術を合わせて差別化や顧客への提供価値を高めることを目指す訳です。

 しかし、ポリマーの事業部門に協力する別の事業部門にとってはその市場の重要度が必ずしも高くない。そこで、日本のコーポレート(本社側)に研究開発人員を置き、ここが協力する側の事業部門を支援する仕組みを作っています。現在推進途上ですが、この仕組みが成果を上げれば、デュポンのすべてのグループ企業に展開することになるでしょう。

――そういったギャップをまとめて前に進むためには、何が必要なのでしょうか。

【林氏】
まず、顧客が求める価値とは何かという点を押さえることが重要です。私は、一時セールス&マーケティング部門にいたことがあります。異動が決まったときは個人的に躊躇しましたが、実際に現場に行ってみると色々と得るものがありました。セールス部門では、自分が開発したある材料を売ったのですが、これが実に売りにくい。この材料は、技術的に大変特徴があり、いわゆる「尖がった」ところがある反面、弱点もありました。顧客としては、「尖がって」なくていいから、弱点がないものが欲しい訳です。

 このような経験の中で、顧客が求める価値、顧客に提供する価値が何か、ということを現場で学ぶことができました。さまさまな意見の対立やギャップを埋める時、それには拠って立つ「基準」が必要です。ビジネスの場合、顧客の求める価値と、自社にとっての価値、つまり戦略の達成や収益を上げることが最終目標になります。これには誰も異論は唱えられない。そこで、何が顧客にとっての価値なのかを良く押さえておくことが、ギャップをうめ、対立をまとめるために重要です。

――顧客の価値は、どのように認識すればいいのでしょうか。

【林氏】
いろいろな価値観の人間と接することは、有効な方法です。デュポンの場合、開発プロジェクトでは、セールス&マーケティングや、収益を管理するプロダクトマネージャー、場合によっては製造部門からメンバーが出てチームを組みます。そのような場での議論は、顧客の価値、企業の価値は何か、それぞれの組織は何を価値と考えているかを知る良い機会になります。また、日本の技術開発者が、グローバルグループの技術開発者と議論することも重要です。その中で、異なるカルチャーと接することができ、互いの価値観を認識し合えます。

 このような経験によって、世の中に多様な見方があることを知ります。これによって、ギャップをまとめる、物事を進めるときに、自分自身を楽な気持ちにさせることができます。壁に当たっても落胆することなく、見方が違えば当然だと理解でき、これを何とか乗り越えようとする気力が湧きます。

――ギャップをまとめ、前に進むために、顧客にとっての価値を押さえる以外に重要なことはありますか。

【林氏】
コミュニケーションです。コミュニケーションとは、伝えればいいということではなくて、自分が目指すことがあって、相手がそのために仲間になる、合意する、邪魔しないといったところまで、相手を納得させることです。そのためには、相手が何を考えていて、何を喜ぶか。何が相手のメリットになるか。相手は何を聞きたいかを徹底的に考え、その上に、自分がやりたいこと、納得させたいことを載せて伝えなければなりません。このことは、冒頭で申し上げたように、優秀な研究者やマネジメントが共通して持っている力です。新人の研究者は、研究の重要性や進め方は知っていますが、今言った意味でのコミュニケーションの重要性を理解していません。そこでコミュニケーションの重要性は、早めに指導するようにしています。

――顧客にとっての価値を押さえ、コミュニケーションでギャップをまとめ、それで得られるものは何でしょうか。

【林氏】
デュポンのようなグローバル企業では、ひとりでは決して成し得ない大事業が、異なる価値観や意見をまとめてゆくこと達成できることでしょう。そしてコミュニケーションを重ねることで、最後には世界に影響を与えるような変化を生み出すことができると思います。今は、多くの企業がグローバルに展開していますから、外資系だろうと日本企業だろうと、それができる機会が増えています。

 たとえば、私がまだ研究者だったころに、「ナイロン66」の耐熱温度を上げる研究をしていました。しかし当初、本社は、この研究によって新しい製品が生み出されても、それは技術的には既存製品を置き換えるだけだから開発を止めると言ってきました。そこで、日本や、同じ研究をしていたカナダなどが共同で、公開特許情報からすでに競争相手は同様な研究をしていることや、実際に顧客がその技術を求めていることなどを伝え、研究を継続。製品を開発しました。この製品(ザイテルHTN)は、現在当社のある事業部門の屋台骨を支えていますし、たとえば自動車では、金属の樹脂化を進め、軽量化や燃費向上に貢献しています。また、物性や生産のしやすさから、今後将来市場有望な電気自動車でも使われていくと思います。

――価値を押さえ、目指す姿を定め、コミュニケーションでギャップをまとめ、グローバルに組織を動かし、世界を変える。まさに、グローバル企業にいる醍醐味ですね。

【林氏】
たしかに、やっている時は必死ですし、自分一人でできることでもないのですが、ある時振り返ってみると、「ここまで来たんだ」と思える喜びがあります。

【次ページ】自信を持ってまず動くところから始める

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